第7話

 私という人間で。
875
2020/08/06 07:16
あぁ、私はなんて馬鹿なんだろう。
彼は、′′私′′に興味があるんだから。
あの子でもない
あの子の仮面をかぶってる私でもない。





他でもない私に興味があるのだ。
なら、彼の前で「仮面」はいらない。
ただ、私でいればいいだけ
「あのね、私」
私は、ゆっくりと私の言葉を私の口で紡ぐ。
「私には、双子のお姉ちゃんがいたの。
お姉ちゃんのことが大好きだった。
ううん、憧れだった。」
「でもね、お姉ちゃんは何でも1番
クラスで一番早く漢字も覚えたし
計算も早くてテストはいつもいつも満点。
でも、馬鹿だからって毎日勉強してた。

器用だったし、
よく誰かが困ってら率先して手伝ってた。
真っ直ぐ、素直で…明るくて、優しい人だった」 
「でもそれと比べて…
私は、運動も勉強も中ぐらい
体も弱いし、不器用で
人見知りだから友達もなかなかできなかった。」
「だから、ね親とか先生は

『あんたはほんとに駄目ね』

『お姉ちゃんを見習え』

『お姉ちゃんなら…』

『__ちゃんもできるよね』
って毎日口を酸っぱくして言ってた」
「だから私は
毎日お姉ちゃん役と同じように
いや、それ以上だっかも。
勉強して運動もしてお手伝いもして
いつしか、私はお姉ちゃんみたいに
しか考えてない『お人形さん』になってた」
「でもね、
悪いのは私なんだ。」
「嘘をついたのは
比べられるのが嫌だったから。
怖かったから。
捨てられるのが怖かったから。

私が、弱かった、か、ら」

最後の1文が、どうしてもつかえてしまったけど、
ちゃんと、言えた。
私が。言った、
今まで蓋をして封じ込めてた私は
今、ちゃんといて、
ちゃんと自分の言葉を自分で誰かに言えた。
「あれ、おかしいな、なみ、だが」
悲しいのか嬉しいのかなんてわかんないけど
いきなり目から熱いものが流れてきた。
「ごめんね、」
そう言って拭おうとした手を彼は止めた。
驚いて上を見上げると
まるで自分のことのように
切なげに笑った彼の顔があった。
「大丈夫_大丈夫だから。」
彼はまるで子供をあやすように
私の背中を温かい手でさすってくれた。
その温度と仕草が
お姉ちゃんに似てて、
「グスッ、うあ、おね、えちゃん」
思わず泣いてしまった。
それでも何も言わずに
私の手にある温度があまりにも温かくて
私は、安心して眠りについた。

プリ小説オーディオドラマ