「よっ、」
「久しぶり。」
あれ以来私は彼と少しずつ話すようになった。
たわいない話しかしないけどちょっとだけ楽しい。
そして、最近感情が強くなってきた。
嬉しい、って分かったら顔が動く。
嫌だ、って思ったら声が出る。
いつも何も思わないように鍵を閉めていた心が
ちょっとずつほどされていく感覚。
笑うこと、とか怒ること、悲しむこと
それって思ってたより単純だった。
そう、全部簡単な事だった。
世界が私を拒絶したんじゃない。私が世界を拒絶したんだ。
わかってもらおうとしなかった。話そうとしなかった。
笑おうとしなかった、泣こうとしなかった。
私が、私を、大切にしなかっただけなんだ。
私に「透明人間」というレッテルを貼ったのは
世間でも親でも友達でもなく紛れもなく私だった。
私が私にかけた呪いだった。
それに気づけたのは悔しいけど、間違えなく蓮のおかげ。
私が作った高くて重たい壁を動かして
会いに来てくれたのは彼だった。
人を、私を拒絶しなくてもいいと教えてくれたのは
彼だった。
私がして欲しかったことを、言って欲しかったことを
私のそばにいてくれたのは、蓮だった。
私よりも感情は濃くてでも偽りが多くて
誰にでも優しいくせに誰にも本当は見せない
強い孤独を纏った彼だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。