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第6話

心霊ちゃん(6)「行くしか、ない!」




カホがスマホ片手にやって来たのは、
先程のカフェから歩いてすぐの場所にある路地裏。

夕暮れ時の少々暗くなってきた細道を照らすのは、
大通りの街灯かられ出た柔らかい光のみ。

今のところ人通りはカホ以外は皆無である。



梓山 カホ
梓山 カホ
……この辺なんだよね、たぶん


アプリ “心霊ちゃん” のマップに表示された
赤い色のレア幽霊アイコンは、
どうやらこの路地裏の一角を指しているようだ。


どこもおかしな様子はなく、
特筆すべき何かが置いてあるわけでもない、
至って普通の路地裏にしか見えないその場所。

しかし昨日サナが憑りつかれた場所も同じく
普通の街路樹だったことをふまえると、
それでも不思議はないのだろう。

梓山 カホ
梓山 カホ
さて、来たはいいけど……

……こっからどうしよう


今回の件に関しては、
分からないことだらけである。

カホがここへやって来たのも
ただの行き当たりばったりであり
「到着後に何をするか」なんて
はっきり言って何も考えていなかったのだ。


梓山 カホ
梓山 カホ
(……ん?
 あの人って……)


人影も動きもなかった路地裏の脇に
やたら目立つパステルイエローの車が止まり、
運転席から、1人の若い男が慌てて飛び出した。

と思ったら、

なぜか男は凄い勢い&鬼のような形相ぎょうそう
カホのいるほうへ一直線に走ってくる・・・・・・・・・

梓山 カホ
梓山 カホ
えぇっ?!

身の危険を感じたカホだが、
足がすくんでしまい思うように動けなくて……

……もたもたしているうちに、
走ってきた男に回りこまれてしまった。

梓山 カホ
梓山 カホ
ヒッ……

「もうだめだ」とカホが観念したまさにその時。


??
??
きみ!!!
撮影しちゃ駄目だ!!


そう言い放った男の顔は、
あまりにも真面目であった。


梓山 カホ
梓山 カホ
…………へ?


思わずきょとんとするカホ。

男の言葉に心当たりがなかったのだ。


だが彼の尋常じゃない真剣さからは
からかっている様子・だまそうという素振りは
微塵みじんも感じられない。

むしろカホのことを心配しているかのような
雰囲気すら感じられるほど。



不思議に思った彼女はたずねる。

梓山 カホ
梓山 カホ
ど……どういうことですか?
??
??
それだよ!!

男がカホが持つスマホを指さす。


現在カホのスマホ端末に表示されているのは
アプリ “心霊ちゃん” のマップ画面。

梓山 カホ
梓山 カホ
(なるほど、
 そういうことか……)


“心霊ちゃん” はカメラアプリだ。
確かに男の言うとおり
使うなら普通は撮影目的だろう。

といっても
カホは撮影するつもりなんか全くないのだが、
どうやら彼は勘違いをしているらしい。

梓山 カホ
梓山 カホ
違いますっ

私、撮影するつもりなんか
ありませんから――
??
??
そんなわけないだろッ!!

じゃあなんで “心霊ちゃん” を
立ち上げているんだ?
梓山 カホ
梓山 カホ
クラスメイトの女の子を
助けるためです!
??
??
ッ?!

男の顔色が変わった。

??
??
……よかったら
その話、もっと詳しく
聞かせてもらえないだろうか?

もちろん、
話せる範囲で構わないから!
梓山 カホ
梓山 カホ
別にいいですけど……


……先に1つ
質問してもいいですか?
??
??
構わないが、何だ?
梓山 カホ
梓山 カホ
えっと……私の記憶が正しければ
昨日もお会いしましたよね?
??
??
……



一瞬、男の目が泳ぐ。


??
??
……あっ!!

君、もしかして
昨日の事故現場にいた子?
梓山 カホ
梓山 カホ
そうです、
梓山カホっていいます


さっき男が車から降りてきた際、
カホは既に分かっていた。

目の前の彼が、
事故直後に声をかけてきた男だということを。



ただし現在の彼は、
昨日の焦り切った感じに比べれば
いくぶんか落ち着いて見える。

そのためか
あの時は動転して思わず逃げてしまったカホも、
今のところ普通に会話する事ができているようだ。

式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
式峯シキミネハルオミだ、
すぐ気づかず申し訳ない
梓山 カホ
梓山 カホ
いえ、そんな……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
俺は昔から、その……
人の顔を覚えるのが苦手で、
だから梓山さんのことも
全く記憶に残っていなくて……

……実をいうと、
ちゃんと覚えていたのは
君が着ている制服だけだったんだ

だけれど同じ制服の子なんて
数え切れないほど存在するのに
まさか同一人物だとは……


……言われるまで
その発想はなかったな
梓山 カホ
梓山 カホ
私の顔なんて
覚えられなくても
しょうがないですよ

私、クラスでも目立たないし
顔だって全然特徴ないし――
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そうか?

昨日は気づかなかったが
よくよく見ると
かなり悪くない顔だと思うぞ
梓山 カホ
梓山 カホ
……え?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
何といっても君は

綺麗・・な瞳を持っているしな!
梓山 カホ
梓山 カホ
?!


カホの全身が真っ赤に染まった。


今まで褒められることなど
ほぼほぼ経験がなかった彼女にとって、

生まれて初めて言われた
「綺麗」というストレートな誉め言葉に
免疫なんかあるはずもない。



式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……さてと、
そろそろ話を戻すぞ
梓山 カホ
梓山 カホ
あっ……



……そ、そうですね!


カホは、無理やり頭を切り替えた。

式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
制服からすると、
梓山さんは
北高の学生で間違いないよな?
梓山 カホ
梓山 カホ
はい、2年生です
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
で、さっき「助けたい」と
話していたクラスメイトとは、
事故に遭ってしまった子だとの
認識でよいだろうか?
梓山 カホ
梓山 カホ
ええ……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そして
「彼女を助けるための手段として
  “心霊ちゃん” を起動していた」
ということは……

……やはり
“心霊ちゃん” とあの事故との間に
何らかの関係があるんだな?
梓山 カホ
梓山 カホ
たぶん……
……そうだと思います

そうとしか……思えないんです……


ぽつりぽつりと、カホは
昨日の出来事について語り始めたのだった。




    *****




カホの説明を聞き終わったところで
ハルオミが口を開いた。

式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……教えてくれてありがとう

それと、君に
言っておかなくてはならないと
考えていることがある
梓山 カホ
梓山 カホ
なんですか?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
実はな、
“心霊ちゃん” というのは、
俺が企画・開発したアプリなんだよ
梓山 カホ
梓山 カホ
?!

な、なんで
あんな恐ろしいものを――
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
聞きたいのはこっちの方だ!

開発段階における“心霊ちゃん” は、
あくまでごく普通の
カメラアプリだったはずなんだぞ!
梓山 カホ
梓山 カホ
え?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
だが現在の “心霊ちゃん” は
俺の想定を遥かに超えてしまい、
あろうことか毎夜毎夜
犠牲者を出し続けている、
これは紛れもない事実だ!

そしてあいつ・・・も……


くやしそうにくちびるを噛み締めるハルオミ。

梓山 カホ
梓山 カホ
あいつ・・・……?

 式峯さんには、なにか
 わけがありそうな感じだな……)



少しためらったカホだが、
思い切ってたずねてみることにする


梓山 カホ
梓山 カホ
式峯さん、「あいつ」って?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……そうか、
まだ説明していなかったな

俺の妹のメイリのことさ
梓山 カホ
梓山 カホ
妹さんがいらっしゃるんですね
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
ああ、
君よりも1学年下の高校1年生で
M市立南高等学校の生徒だ

だがメイリはな、
少し前から意識不明で
入院中なんだよ……
梓山 カホ
梓山 カホ
!!

まさかメイリちゃんも
“心霊ちゃん” のせいで?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
おそらくな……
梓山 カホ
梓山 カホ
……どうして
そんなことになったんですか?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
…………


……俺は仕事で
スマホ用アプリの企画や開発など
アプリ制作全般を行っているんだが

1年ほど前、
新作アプリの企画を考えていた際に
「手軽に心霊写真を作れる
 カメラアプリはどうだろう?」
と思い立ってな、
この発案こそが事の発端ほったん

俺の育ての親みたいな人が
「自称・幽霊が見える」
というやつで、
俺は小学生の頃から
さんざん幽霊話を聞かされていたから
着想のヒントはその辺りだな
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
アプリの制作自体は
非常に順調だったと言える


まず心がけたのは
メインターゲットとなる中高生への
リサーチをふまえた結果、
SNSへの画像投稿を視野に入れつつ

直感で楽しく遊べるよう
分かりやすい操作感ユーザーインターフェース
実装することだ


これは最近のアプリにおいては
ほぼ必須な要素だろう
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そして
最もこだわったのは
肝心の心霊写真風画像のクオリティだ


参考資料として収集した
何千枚もの心霊写真を解析することで

「撮影するごとに
 その写真に合わせたリアルな幽霊を
 ランダム生成する」

という仕組みアルゴリズム
独自に開発し組み込んだんだが、

この生成システムの開発だけで
軽く1ヶ月はかかったぜ……


……まぁそのぶん
完成したシステムは
納得の出来栄えではあったがな!
梓山 カホ
梓山 カホ
そういえば確かに
普通の白い幽霊アイコンのところで
撮影した写真の完成度、
ほんとにすごかったです

まるで本物の心霊写真かと
思っちゃうぐらいで……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
だろ!

あまりに出来が良すぎるもんだから
幽霊生成システムが完成した夜、
「“心霊ちゃん” は絶対ヒットする」
と確信してしまったぐらいだからな!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
完成した時にはもう
日付が変わるほど遅かったため
俺はそのまま会社に泊まり込んだんだ


しかし翌朝、目を覚ましてみると
有り得ない事が起きていた
梓山 カホ
梓山 カホ
ありえないこと?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
開発データが
全て消え失せたのさ
梓山 カホ
梓山 カホ
うそっ!!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
しかも、開発に使用した
会社のパソコンからだけでなく、
万が一に備えて
複製バックアップしていたサーバーからも
“心霊ちゃん” に関するデータだけが
跡形もなく消えた事が判明してな、

何ヶ月も苦労して
作り上げたはずなのに、
テキストファイル1つさえ
残っていなかったんだぞ?!

信じられるかよ!!
梓山 カホ
梓山 カホ
うわ、ひどい!
せっかく作ったのに……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
散々調査はしたんだが、
データ消失の原因は
はっきり言って未だに不明


だが不幸中の幸いだったのは
“心霊ちゃん” に直接関係がない
他の案件のデータ等が
そっくりそのまま残っていたことだ

そのおかげで
他の業務に支障はなかったからな
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そして時は流れ、
データ消失のショックから
だいぶ立ち直った先月のこと、

“心霊ちゃん” の噂話・・を耳にしたんだ
梓山 カホ
梓山 カホ
例のあれ・・ですね?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
ああ、そうだ

慌てて調べたところ、
俺が作った “心霊ちゃん” が
無断でスマホ用アプリとして
配信されていたのさ

しかも噂話のうち、
少なくとも
「M市において
“心霊ちゃん” による
被害者が出ている」
という部分に関しては
事実のようだと判明してな……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……とりあえずアプリだけでも
配信差し止めができれば
被害の拡大を食い止められるのでは
とも考えたのだが、

開発データが全て消失している以上
「俺が開発した」
という証拠も無く不可能だった
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そこで俺は
妹のメイリに噂話の件を相談したんだ

“心霊ちゃん” は
中高生向けのアプリだから、
現役高校生のあいつに話せば
何か気づいてくれるんじゃないか、
程度の軽い気持ちだったんだが……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……その3日後の夕方、
路上でメイリが倒れている姿を
通行人が発見したらしい

連絡を受けて俺が駆け付けた時には
既に病院に運ばれた後だった……


……あれからあいつは
1度も目を覚ましておらず、
入院したままなんだ

俺が相談したばっかりに……
梓山 カホ
梓山 カホ
でもメイリちゃんは、
見つかった時には
もう倒れていたんですよね?

だったら
“心霊ちゃん” が原因とは
限らないんじゃないですか?

たまたま偶然、他の原因で
倒れちゃっただけかもしれないし……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……それはない

何故なら発見された当時
メイリが握っていたスマホには
“心霊ちゃん” の撮影画面が
表示されていたらしい

無関係ということはないだろう
梓山 カホ
梓山 カホ
…………
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……まぁ、そういうわけで
メイリや他の被害者の容態も心配だが
俺は医療の専門家でないから
彼らに対しできることは何もない

それ以上に開発者の責任として
一連の “心霊ちゃん” による被害を
食い止めなければならないと
考えている

先に元凶を断つことが
良い方向に繋がる確率が高いしな……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……といっても俺にできるのは
ひたすらアプリを解析したり、
各所の調査を進めたりすることで
情報を集め分析すること、

それに加えて
赤いレア幽霊アイコンを発見次第
現場に直行し、
「撮影してはいけない」と
制止すること程度というのが現状だ
梓山 カホ
梓山 カホ
あ、もしかして
昨日も今日も現場にいらしたのって
それが目的だったんですか?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
その通り

昨日は駆け付けた際には
事故が起きてしまっており
ときすでに遅しだったが……


ハルオミが腕時計をちらっと見る。

式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……今日は、タイムリミットまで
およそ45分といったところか
梓山 カホ
梓山 カホ
タイムリミットって?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
調査の結果、
赤いレア幽霊アイコンの
出現パターンには
法則があることが判明したのさ

法則1、
出現はM市全体で1日1回のみ

法則2、
出現時刻は18時きっかり
梓山 カホ
梓山 カホ
あ!

言われてみたらさっき
私が赤い幽霊アイコンを見つけたのも
18時ぐらいだった気がします

それに確か昨日も……
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
両日ともに18時きっかりだ、
俺も確認したから間違いないはずだ

そして法則3、
18時に出現したアイコンは
その場所で誰かが
“心霊ちゃん” にて撮影を行うか、
もしくは撮影しないまま
19時を迎えると消滅する


カホが、自分のスマホで時刻を確認する。

梓山 カホ
梓山 カホ
今は18時15分だから……

……そっか、
タイムリミットの19時まで
あと45分ですね!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そういうことだ

とりあえず今日のところは
赤アイコンの消滅を確認するまで
この場所を見張るつもりでいる

今のところ俺達以外に
誰か来そうな気配はないが、
まだ時間はあるし、
何が起きるか分からないしな……

……危ないから、
君は早く帰ったほうが――
梓山 カホ
梓山 カホ
あのっ!
私もお手伝いさせてください!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
?!

駄目だ、それじゃ君が
危険な目に巻き込まれる可能性が――
梓山 カホ
梓山 カホ
わかってます!


えっと、
私がここに来たのって
鈴野さんのために
何かしなきゃいけないって
思ったからなんです

でも私だけじゃ
どうしていいか見当もつかなくて……


ここに来れたのも
たまたまみたいなもんだし……
梓山 カホ
梓山 カホ
……だけど
式峯さんの話を聞いて思いました

“心霊ちゃん” を止められれば
幽霊におびえてる鈴野さんを
元に戻せるんじゃないかって


そして式峯さんは、
アイコンの出現時間についてとか
色々情報持ってるし、
“心霊ちゃん” を止められる位置に
間違いなく1番近い人です

だから私は自分だけで動くより
式峯さんのお手伝いをしたほうが
いいような気がするんです
梓山 カホ
梓山 カホ
お願いします!
手伝わせてください!!


カホははじかれたようにお辞儀をする。


式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
…………



ハルオミは、
しばらく黙って考え込んでいた。

やがて彼は1度うなずく。
どうやら考えがまとまったらしい。


式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……1つだけ
約束してくれないか?
梓山 カホ
梓山 カホ
なんですか?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
無茶だけはしないでくれ……

……万が一
君も被害者になってしまおうものなら
申し訳が立たないからな
梓山 カホ
梓山 カホ
……はい、
気をつけます!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……では早速だが
アイコン消滅予定の19時まで
この場の見張りを
梓山さんに頼みたいと考えている

もし頼めるようなら
俺は会社に戻って
“心霊ちゃん” の解析の続きを
したいと考えているのだが
どうだろうか?
梓山 カホ
梓山 カホ
もちろんです、任せてください!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
よろしく頼む

……そうだ、
今後のために連絡先を
交換してもらえるだろうか?
梓山 カホ
梓山 カホ
あ、はい





    *****





お互いの連絡先を交換したところで
「何かあったら連絡してくれ、すぐに戻るから」
と言い残し、ハルオミが車で去っていった。

なんでも彼の会社は
この場所からとても近いところにあるらしい。



梓山 カホ
梓山 カホ
(……よし、19時まで
 見張りがんばろうっと……)

ハルオミを見送り、1人になったカホが
無言で気合いを入れたところで、

梓山 カホ
梓山 カホ
?!


彼女は異変・・に気づく。


梓山 カホ
梓山 カホ
(……あれ?

 体が……動かない……?)


まるで金縛りにでもあったかのように声も出せず、
頭の先から足の先、手の指先1本1本に至るまで
動かすことがかなわない状態。

しいて言うなら
無理やり固められた感じ
とでも言うのだろうか。


一応、頭の中では
「いつものように動かそう」と
いつも以上に意識はしてみるのだが、
体のほうが全くついてきてくれないのだ。


梓山 カホ
梓山 カホ
(……ん?)


ゆっくりと、カホの左手が動き出す。

梓山 カホ
梓山 カホ
(えっ……

 ……私、手を動かそうと
 してないんだけど?!)


文字通り「勝手に」動いている左手には
カホが愛用しているスマホが握られている。

スマホを顔の前へと持ってきたところで
左手の動きが止まった。


次に動き出したのは右手。

勝手にスマホの操作を始める。

電源ボタンを押して画面を表示し、
指紋認証でロックを解除。


ホーム画面の中から
選んで起動したアプリ・・・は、

問題の “心霊ちゃん・・・・・” 。


梓山 カホ
梓山 カホ
(これ、ヤバいって!!)



そう直感したカホは必死に抵抗するものの、
相変わらず体は全く従ってくれない。

しかし無残にも
前方に固定されたままの視線からは、
スマホが操作されている様子が
刻一刻と伝わってきてしまうのだ。




心霊ちゃんの操作は進んでいく。


スタート画面から
マップ画面へ。

白黒ベースのマップの中には
赤いアイコンが表示されている。


梓山 カホ
梓山 カホ
(う、うそでしょ?!)


右手の人さし指が
赤の幽霊アイコンをクリック、
撮影モードに切り替わった。



 ――M市で撮れる幽霊には
   たまに本物が混じっているらしい

 ――色違いの赤いアイコンは、
   本物の幽霊の目印らしい

 ――本物の幽霊を撮影した者は
   幽霊に憑りつかれてしまうらしい



ネットで調べた噂話の数々が……


そして昨日の事故直前のサナの様子が……


……カホの頭の中を
走馬灯のように駆け抜けていく。


梓山 カホ
梓山 カホ
(ぁ……)




 ――カシャッ




鳴り響くレトロなシャッター音。

瞬間、
カホは絶望に襲われた。