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第10話

心霊ちゃん(10)エピローグ



怨霊が消え去ると共に、
彼女のかたわらにいくつか置かれていた
古めのデスクトップPCからは青白い光が消え、
ただの壊れた端末へと戻ってしまった。


そしてまさにその同時刻、
“心霊ちゃん” というアプリ自体が
この世から完全に消滅した。


大勢の人のスマホの中から一斉に消えたものだから
ちょっとした話題にはなったけれど……

……本当にちょっとだけだったようで
数日も経てば、皆ころっと忘れてしまった模様。




意識不明で入院していた式峯メイリは、
直後に無事、病室で目を覚ました。

カホの元へは、
ハルオミ経由でメイリ本人から連絡があった。

メイリの怪我自体は大したことがなかったため、
念のため検査を受けたあと、
問題なければすぐに退院できるのだとか。

だが当のメイリ本人は、
自らの無事を喜ぶことより、
自分に憑りついていた犬の幽霊である
茶太郎の姿が見えなくなっていたことや、
宙に浮いたり金縛りをかけたりといったような
霊体ならではの技がつかえなくなったことを
残念がるほうに気持ちが傾いているようである。




なお、同じく入院していた鈴野サナも
落ち着きを取り戻したようだ。
どうやらもう幽霊の姿は見えなくなったらしい。

ただし彼女は怪我のほうがかなりひどいため
もうしばらくは入院が必要なようだが。


ちなみにカホへこれを教えたのは
クラスメイトの塚橋ユリエだった。

彼女の非常に嬉しそうな表情を見て、
カホは
「 “距離置く” とか言ってたくせに……
 ……本心全然違うじゃないか」
と心の中でつぶやくと同時に、
人の本音を読み取ることの難しさを
改めて実感したのだった。





    *****





それから1週間ほど経った頃、
メイリの提案で、カホへの諸々のお礼も兼ねて
式峯兄妹とカホの3人で食事へ行くことになった。



カホが待ち合わせ場所の駅前広場に着いた時、
そこには既に先客がいた。

式峯メイリ
式峯メイリ
あっ!
こんばんはっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
こんばんは……


顔を合わせた瞬間、
カホは思わず笑ってしまった。

式峯メイリ
式峯メイリ
カホさんどしたの?
梓山 カホ
梓山 カホ
だって
私とメイリちゃんって、

一応、今日が初対面・・・なんだよ?
式峯メイリ
式峯メイリ
え……?

……あ、そっか!


1週間前に会った際、諸事情で
メイリは肉体から抜け出した「霊体」状態だった。


そのあとハルオミ経由で2人は連絡先を交換し
メイリ主導でちょくちょくやり取りはしていたが、

生身のメイリとカホが出会うのは
これが正真正銘の初めてとなるのだ。


梓山 カホ
梓山 カホ
でも……なんか……
……そんな感じがしないよね
式峯メイリ
式峯メイリ
同じく!

なんたってカホさんとは
とっても濃ゆ~い2日間を
一緒に過ごしちゃったもんね♪


どちらからともなく2人は楽しそうに笑い合う。






 ――ピロリン♪




メイリのスマホが鳴った。
何やらメッセージが届いたようだ。

式峯メイリ
式峯メイリ
……ハルオミ兄ちゃんから
「5分ほど遅れる」って来た
梓山 カホ
梓山 カホ
そうなんだ

でも5分だったら
待ってればすぐだよね
式峯メイリ
式峯メイリ
だねー



……あ、今のうちに
この間の続きの話なんだけど、

結局カホさん、
うちの兄ちゃんのことどー思う?
梓山 カホ
梓山 カホ
えッ?!
式峯メイリ
式峯メイリ
もちろん恋愛的な意味で、だよっ!
梓山 カホ
梓山 カホ
そ、そんなこと言われても
まだ会ったばっかだし……
式峯メイリ
式峯メイリ
恋に時間は関係ないって♪

2人けっこー
いい感じだと思うんだけどなぁ
梓山 カホ
梓山 カホ
……というかメイリちゃん、
なんで私とお兄さんを
そんなにくっつけたがってるの?
式峯メイリ
式峯メイリ
だってハルオミ兄ちゃんが
彼女作ろうとしないの、

あたしのせいなんだもん!
梓山 カホ
梓山 カホ
どういうこと?
式峯メイリ
式峯メイリ
んっとね、

うちの両親って
あたしが生まれてすぐ
2人とも事故で死んじゃったんだよ
梓山 カホ
梓山 カホ
え……
式峯メイリ
式峯メイリ
っていっても
あたしは親の顔も覚えてないし、
全然実感ないんだけどさっ

だから別に
気とか使わなくていいからね?
梓山 カホ
梓山 カホ
……わかった
式峯メイリ
式峯メイリ
そんで
遠い親戚の熊子くまこさんっていう
おばあちゃんが、

兄ちゃんとあたしを引き取って
育ててくれたんだよねっ


熊子さんには、ほんと
いっぱいお世話になったんだよ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
もしかして
例の幽霊が見える人?
式峯メイリ
式峯メイリ
うん、その人!

そーいえば兄ちゃん、
熊子さんの話もちょっとしてたね!
式峯メイリ
式峯メイリ
ハルオミ兄ちゃんは
自分も子供のクセに
熊子さんのとこにいる時から
あたしの親代わりみたいなこと
いっぱいやってくれて、

しかも
早く生活費稼ぎたいからって
遊びにも行かずに
PCの勉強がんばって、
高校生から1人でアプリ作ってて
ちゃんとそれでお金稼いでて、

でもあたしには
「子供は子供らしく遊べ」
って言ってほとんど
手伝わせてくれなくて……
式峯メイリ
式峯メイリ
……で、
ハルオミ兄ちゃんが高3で
あたしが小6の時に
熊子さんも死んじゃったの


そっからの兄ちゃんは
完全にあたしの親代わりだった

この間の説教の感じ見たら
カホさんも何となくわかるでしょ?
梓山 カホ
梓山 カホ
確かにお兄さん、
保護者みたいな感じだったね
式峯メイリ
式峯メイリ
高校出たらすぐ
兄ちゃんは
自分の会社立ち上げて
本格的に働き出したから、

お洗濯とか掃除とか家のことは
あたしが無理やり奪って
やるようにしたんけどさ……
式峯メイリ
式峯メイリ
……ハルオミ兄ちゃんは、
自分のこと後回しにし過ぎなんだよ!

もう21歳なのに
全く彼女とかつくろうとしないし、
そもそも女の子と
話すとこすら見たことないし

あたしも何度か
「彼女つくったら?」
「なんなら結婚考えたら?」
とか言ってみたんだけどさ、

兄ちゃんったら頑として
「メイリが1人立ちできる
 ぐらいになったら考える」
って答えてはぐらかすんだよ……
式峯メイリ
式峯メイリ
……だけどね、
そんないくら言っても聞かない
頑固者の兄ちゃんがさ、
やっと女の子と連絡先交換したの!

しかも自分からっ!!
梓山 カホ
梓山 カホ
それ
もしかして……私?
式峯メイリ
式峯メイリ
そーっ!

こりゃなんとしても
カホさんと兄ちゃんには
くっついてもらわないとだよねっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
いやいや、
連絡先交換したって言っても
たまたま共通目的があっただけで――
式峯メイリ
式峯メイリ
でもカホさん的には
兄ちゃんのこと
嫌いなわけじゃないでしょ?
梓山 カホ
梓山 カホ
まぁ嫌いではないけど――
式峯メイリ
式峯メイリ
あたしはカホさん気に入ったし

お姉ちゃん・・・・・になってくれても
いいんだからねっ!
梓山 カホ
梓山 カホ
お姉ちゃんって……?
式峯メイリ
式峯メイリ
つまり遠回しに
「兄ちゃんとの結婚大歓迎」
って言ってんのっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
ちょ?!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
悪い!
待たせた!!
梓山 カホ
梓山 カホ
!!
式峯メイリ
式峯メイリ
兄ちゃんおそーいっ
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
取引先から急に
電話がかかってきて
抜けられなかったんだよ……

梓山さんも待たせてすまない
梓山 カホ
梓山 カホ
いえ、そんな……

さっきのメイリとの会話から
頭を切り替えきれていないカホは、
ハルオミの目を見ることができない。


式峯メイリ
式峯メイリ
……あ

そーいえばあたし、
用事あったんだった!

悪いけど2人で行ってきてよっ

唐突にメイリが言い出した。

梓山 カホ
梓山 カホ
へっ?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
何言ってんだ?

今日の食事会自体
メイリが言い出したんだろ?
梓山さんにお礼がしたいからって
式峯メイリ
式峯メイリ
そーなんだけどさ、

あっちの用事も
とぉ~~っても大事で
外せないんだよねぇ……


だからハルオミ兄ちゃん、
カホさんには
あたしの分までしっかり
お礼しておいてよっ!

じゃ、行ってきまーす♪

メイリは言い終わるや否や、
まさに脱兎のごとなく猛スピードで
走り去っていった。

梓山 カホ
梓山 カホ
?! 
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
 ?!
梓山 カホ
梓山 カホ
…………
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
…………


取り残されたカホとハルオミはただ呆然。



式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
……うちのメイリがすまない
あとでしっかり叱っておくから
梓山 カホ
梓山 カホ
大丈夫です、気にしてませんから……

……それより
これからどうしましょうか?
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そうだな……


今日の所は中止してまた後日にする?

俺と2人で食事なんて
梓山さんも困ってしまうだろうし――
梓山 カホ
梓山 カホ
いえ! 困らないですっ
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
そう……?

じゃあせっかく来てもらったし
どこか良さそうなお店に入ろうか
梓山 カホ
梓山 カホ
そうですね




 ――ブルルルッ




今度はカホのスマホが震えた。
何気なく画面をチェックした彼女が見たのは、

「よっ!!
 初デートがんばってこーい!」

というメイリからのメッセージ。


梓山 カホ
梓山 カホ
(は……初デートぉォッ?!?!)

カホの顔が真っ赤に染まった瞬間、
離れたところで隠れているメイリと目が合う。

式峯メイリ
式峯メイリ
 ♪

目が合ったのに気づいたメイリは、
駅前広場の脇に置かれた銅像の影から
笑顔でぶんぶん手を振ってきた。

梓山 カホ
梓山 カホ
(メイリちゃん……

 ……わざとやったな……!)
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
梓山さん、どうかした?


どうやらハルオミは
メイリの存在に気づいていないようだ。

梓山 カホ
梓山 カホ
い……いえ、
なんでもないです!
式峯ハルオミ
式峯ハルオミ
じゃあ行こうか
梓山 カホ
梓山 カホ
はい!








    **********







KOGITSUNE
KOGITSUNE
……おや、おや
このような展開になるとは……!

人間という生き物は
本当に面白いですわね……


……これだから、
観察をやめることが
できませんの……ふふふ……


ひと通りの “観察” を終えたKOGITSUNEは、
満足そうな笑みを浮かべた。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そういえば今宵は、
客人がいらしておられたわ……


彼女は思い出したようにこちらを見てきた。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……貴方の瞳には、

同じ人間である彼ら・・
どのように映りましたの……?



少し迷ってこう答えた。
ところどころ不自然だった気がする、と。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……具体的には、いったい何処が
不自然に思えたのでしょうか?



そりゃとにかく偶然が多すぎる。


例えば
あの自殺した少女・マユコという子は
どうして死んだ直後に
アプリ “心霊ちゃん” のそばで目覚めたのか?

あの会社で死んだわけじゃないだろうに、
目覚めた場所にちょうど
「 復讐にぴったりなもの= “心霊ちゃん" 」が
置いてあるなんて話ができすぎだ。


他にも
おかしな偶然がいくつもあって
なんだかとても不自然だった気がする。


KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そうでしたの

実に興味をそそられる観点ですわね

今後の観察の参考に
させていただきますわ……


逆にたずねてみる。
ではKOGITSUNEから見て
先程の彼らは不自然じゃなかったのか、と。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……ふふ……


どうして笑ってるの?
何かおかしなことでも言った?

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……やはり貴方は興味深い

貴方がご覧になるものが
わたくしに見えるものと
同様だとは限らず、
わたくしに見えるものと
貴方がご覧になるものとが
同様だとも限りませんわ……

……そして
今日の貴方がご覧になるものと
明日の貴方がご覧になるものとが
同様であるのかどうかも
分かりませんもの……


KOGITSUNEの言葉の意図がよく分からず
首をひねっていたところ。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……おやまぁ、
急なことではございますが
今宵はお別れのようですわね

またのお越しを是非とも
お待ちしておりますわ……うふふ……



すぅっと視界が真っ暗になる。


KOGITSUNEの怪しい笑い声だけが響く中、

徐々に、徐々に……


……意識が遠のいていったのだった。