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第1話

心霊ちゃん(1)プロローグ



ふと気がつくと、
見知らぬ場所・・・・・・に立っていた。


ただただ真っ暗な闇に包まれたその場所は
とても奇妙な空間・・・・・・・・だった。



光もなく、
音もなく、
匂いもなく。

暑くもなく、
寒くもなく。

手を伸ばしてみても
何かにぶつかる感じはしないし、
自分以外の他の誰かが
近くにいそうな気配もない。



ここは一体どこなんだろう。

風が吹くこともなく
空気の流れを全く感じないことから考えると、
“どこかの建物の中” にいるような気がするけど、

頭上を見上げても天井が見えず、
周囲を見渡しても壁も扉も見当たらず、
まるで塗りつぶしたかのような一面の黒が
広がっているだけだから、
“野外” にいるという可能性も捨てきれない。

だけど外にいるんだったら、
お店や家の窓からこぼれる明かりや
あちこちにある街灯の明かりが見えるはずだし……

……あ。

もしかして
街から遠く離れた場所にいるのかも?

いや、違う。
人里離れた山奥とかだったら、
街中の明かりの代わりに
きらめく月や満天の星の光が見えるはず。

ここまで真っ暗闇ってことは、んーっと……




そんなことを考えていると、
ほんのり甘い香水っぽい匂いが
すうっと鼻に抜けた。

瞬間。

黒一色の闇の中に
ほわっと浮かび上がったのは。


??
??
…………

着物姿の白い女の子。



雪のように白く透き通る肌の彼女が着ているのは、
肌に負けず劣らず白い着物。

腰に締めた真っ赤な帯が綺麗に映えている。


??
??
……どうやら貴方、
此処へとお越しになるのは
初めてのようですわね

ようこそいらっしゃいました……

彼女はゆっくり口を開いて歓迎の言葉を述べ、
そして深々と頭を下げた。



身長120cmほどの小柄で幼い体格と、
鈴が鳴るように可愛らしい特有の声からすると、
彼女は小学校低学年ぐらいの “子供” に見える。

だけど妙に落ち着き払っているその雰囲気と、
優雅な佇まいや美しい立ち振る舞いがかもし出す
何とも言えない古めかしい品の良さから考えると、
年を重ね続けた “大人” のようにも思えてしまう。


そんな奇妙な違和感に負けず劣らず
底知れぬ怪しさをさらに演出しているのが、
彼女の顔を隠している「狐のお面」。

とはいえ顔をすっぽり覆っているわけではなく
斜めにずらしてかぶっているので、
かろうじて口元の表情だけは確認することができる。



明らかに普通ではない空間で堂々とたたず
明らかに只者ではない彼女の存在は、
常人の理解の範疇はんちゅうを大幅に越えてしまっていた。

どうやって返答したらいいのか分からず
ただただ戸惑い立ち尽くしていると。

??
??
……おやまぁ、
「状況が飲み込めない」とでも
言いたげな顔ですわね……


そりゃそうだ。

こんな状況にいきなり放り出されたら
むしろすぐに飲み込めるほうがおかしいと思う。

??
??
……そのようですね

此処へと迷い込んでいらした人間は、
どういうわけか誰も彼も
貴方と同じ反応をなさいますもの

それぞれ生きる時代も、
血筋も家柄も身分も地位も階級も、
年齢や性別ですらも
千差万別であるというのに……

……実に興味深いですわ……ふふ……


楽しそうに笑う彼女の雰囲気からすると、
どうやらこちらに危害を加えるつもりはないらしい。

ということで思い切ってたずねてみる。
ここはどこか、そして彼女は何者なのかを。

??
??
……そういえば、
まだ名乗っておりませんでしたわね

わたくしは……ええと……

首をかしげた彼女は、
すぐに何かを思い出したような表情になる。
KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そうでしたわ

今は “KOGITSUNE” と
名乗ることにしておりますの、
御覧のとおり
このような面をつけておりますゆえ

どうぞお見知りおきくださいませ……
KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そして此処は、
人間が呼ぶところの
幽世あの世現世この世狭間はざまの片隅”
とでも言いましょうか

本来であれば
生きた人間が訪れることは
不可能であるはずなのですが……

……ごくごくまれ
いらっしゃるのですよ

今の貴方のように
うっかり迷い込んでしまう
奇特な人間が……うふふ……

説明のようで説明になっていない気もする
現実離れしまくりな回答。


だけどもなぜか、すとんと納得できた。

そもそもこの空間自体が
どう考えても変で奇妙なんだ。
これでもし “普通の答え” を返されてたら、
むしろモヤモヤが晴れず仕舞いだったかもしれない。



納得したら、
次は興味がわいてきた。

好奇心のままKOGITSUNEに
ここで何をしているのかと聞いてみる。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……一言で申せば

観察・・、ですわね……


観察って?

KOGITSUNE
KOGITSUNE
…………

KOGITSUNEは、無言で足元を指差した。



下に何かがあるのだろうか?

興味本位で彼女の指の先が示すほうを注視する。

他と同様その場所にも
塗りつぶしたような闇が存在するのみ。
変わったところは特になさそうだが……



 ――ぴちゃ……



唐突に、水滴が落ちる音・・・・・・・

その澄みきった音色が
耳の中いっぱいにこだましたと思った瞬間、
KOGITSUNEの足元を中心にして
ふわふわっと淡い光があふれだした。

その光は白く穏やかでありながら、
ほんのり帯びる赤みのせいか
どこか謎めいた怪しさのようなものも感じられる。


相変わらず辺りは暗いが、
光の広がりと共にほんのわずかだけ視界が広がる。

徐々に徐々に、周辺の地面が見えてきた。




ん?


KOGITSUNEの足元に広がる地面、
何かがおかしい気がする。

土でもなければ、
草でもなく。
板でもなければ、
石でもなく。

そもそも硬さが感じられない。

あのゆらゆら波打つ感じ、何だったかな……




……そうか、水だ。



KOGITSUNEは、
足元に広がる水溜まりの上に
沈むことなく立っている状態だったのである。


いや違う!
彼女だけじゃない!

実は見渡す限りの地面は全部水であり、
水面に立っているというのは自分も同じだった!!

ほんのついさっきまでは、
ただただ真っ黒な暗い闇のみが
広がっていただけだったはずなのに?!

KOGITSUNE
KOGITSUNE
もっと……もっとです……

……もっとよくご覧なさいな


あっけにとられつつも
言われるがまま、水面を見つめてみる。



……おやおや、
水の奥底、とてもとても深いところで

“生き物らしきもの” が動いているみたい。


だけどそれの正体が何なのかが
全くもって分からない。

ぐっと神経を集中し
さらに目を凝らしてみると……


…………


あっこれ、人間だ。



水面には、
多種多様な場所で日々を過ごす
数多くの人間達の姿が
ぽつぽつと散らばって映し出されている。

あるところには
どこかの家の中で食卓を囲む家族の光景が、
またあるところには
オフィスらしき場所で黙々と働く人々の光景が、
そして別のところには
何やら言い争っている男女の光景が、
といった具合に。

その様子はまるで、
TV画面をたくさん並べたかのよう。

しかもどういうわけか、
それぞれの光景の声や物音まで
しっかりと鮮明に聞こえてくるのだ。


KOGITSUNE
KOGITSUNE
……ようやく貴方も
ご覧になれたようですね……

おもむろに歩き出すKOGITSUNE。

自分も一応、後についていくことにしよう。




KOGITSUNEの歩みに合わせ
微かにざわめくような音を響かせる水面は、
ちらちらと揺れては止まり、
揺れては止まりを静かに繰り返していく。

通りすがりの水面に映し出される
1つ1つの光景へとくまなく視線を落としつつ、
彼女は言葉を紡ぎ続けた。
KOGITSUNE
KOGITSUNE
……人間という生き物は
非常に不思議で不可解ですわ

明らかな無理であっても
通れば道理になってしまったり、
頭では理解しているはずなのに
行動を伴なう事が不可能だったり……

……固く禁止されればされるほど
やってはいけないと思えば思うほど、
かえって興味がわいたり
試してみたりしたくなるのは
もはやさがと呼べましょう……
KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そして古くから
その対象のひとつとされるのが

いわゆる “幽霊・・” や“心霊・・” といった
たぐいのものでございます

夏を迎える頃には
心霊現象を題材とした怖い話が
語られたり、

噂の心霊名所を撮影した番組が
放送されたりといった情景は
現代の恒例行事です……

……「怖いもの見たさ」
との言葉も根強く残るあたり、

この世ならざる不可思議な存在に
惹かれてしまうという人間の心理は
今も昔も変わりませんね……ふふ……
KOGITSUNE
KOGITSUNE
……あら?

何かを発見したらしいKOGITSUNEが、
不意に歩みを止める。


彼女はそのまま視線を一切そらすことなく
水面に映し出された光景の1つを
しばらくじーっと見つめたかと思うと……


口元の笑みを強めて言った。
KOGITSUNE
KOGITSUNE
みぃつけた・・・・・……


KOGITSUNEは、何を見つけたんだろう。

彼女がながめている水の中の光景を
一緒になってのぞきこんでみる。


そこに映っていたのは、
10代中盤か後半ぐらいの制服姿の少女2人が
にぎわうハンバーガーチェーン店の客席に座って
ポテトをつまみながらしゃべっている様子。


2人とも系統は違うものの
揃って顔面レベルがかなり高く、
それこそ雑誌の読者モデルかなんかだと言われても
違和感が全く働かないぐらい。

ロングヘアの派手な美少女のほうは
“サナ” という名前で、

そしてショートカットのクールっぽい美少女は
“ユリエ” という名前らしい。

学校の制服らしき
お揃いのセーラー服を着ているし、
たぶん同じ学校に通っているんだろうな。




    *


サナ
ねぇユリエ、
おもしろい話とかないの?

不機嫌そうな顔でぶっきらぼうに言い放つサナ。

ユリエ
え?

そんなのあったかなぁ……
サナ
なんかあるよね?
ユリエ
……あ


唐突な質問に軽く考え込んでいたユリエだったが、
どうやら思い当たるものがあったらしい。

ユリエ
サナはさ、
心霊ちゃん・・・・・” って知ってる
サナ
スマホのカメラアプリでしょ

街の中で、心霊写真みたいな
幽霊入りの写真を撮影できるやつ
ユリエ
そう、それ
サナ
割と流行ってるっぽいよね

なんか最近タイムラインで
「#心霊ちゃん」ってタグついた
心霊写真風画像がよく流れてくるし
ユリエ
“心霊ちゃん” で作った画像って
無駄にリアルだからさ、
流れてきた瞬間
ちょっとビクッてしない?
サナ
それな!

で、“心霊ちゃん” がどうかした?
ユリエ
うん……

“心霊ちゃん” で撮影できる幽霊って
すっごく本物っぽいんだけどさ、
実際のとこ言っちゃうと
アプリ上の画像加工で合成する
偽物の幽霊・・・・・なわけよ

でもね、
あたしらが住んでるM市で
撮れる幽霊に限っては、
偽物幽霊の中に
時々、本物の幽霊・・・・・が紛れ込んでて、
幽霊を示すアイコンの色が
普通と違うんだって
サナ
何それ?
怖い話的なやつ?
ユリエ
そんな感じ

んでさ、
うっかり本物幽霊と・・・・・
一緒に撮影しちゃう・・・・・・・・・と……

……そいつに憑りつかれて
大変なことになっちゃうって噂
サナ
大変なことって何よ?
ユリエ
なんでも
本物幽霊に憑りつかれて

おかしくなっちゃった子とか
性格変わっちゃった子とか
意識不明になっちゃった子とか

色々あったらしいよ
サナ
それ……まじ?
ユリエ
あたしも噂で聞いただけだけど……

なんでもM市内の高校だと
あたしらの北高だけじゃなくて
南高や東高の生徒にも
最近学校こなくなっちゃった子が
けっこういて……

……その中の何人かは
「“心霊ちゃん” のせいで休んでる」
って言われてるみたい
サナ
……

真顔になるサナ。

どうやら彼女には思うところがあったらしく、
そのまま黙って何やら考え込みはじめる。


そんなサナの様子を見たユリエは
大きくため息をついてから、
すっかり冷めてシナシナになったポテトを
再び口へと運び出すのだった。



    *



KOGITSUNE
KOGITSUNE
……おや、大変

今宵もまた新たに1人、
“心霊あそび”に
魅入られてしまったようですわね

果たしてどうなることやら……


……わたくしは、
興味深く見守ることに
いたしますわ……うふふ……


さっきまでよりもはるかに楽しそうな
KOGITSUNEの様子からすると、

どうやらこの光景こそが
彼女の求めていたものである模様。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……そういえば
今宵は、珍しいことに
客人がいらしておられたわね……


顔を上げたKOGITSUNEは、
こちらを見てニヤッと笑った。

KOGITSUNE
KOGITSUNE
……今宵は共に

心霊あそび、あつめましょ……