――“本物の幽霊” としか思えない物体
そんなものが映る映像をいきなり見せられ、
やや黙り込んでしまったカホだったが、
落ち着いたところで、1つ気になることがあった。
メイリは、手元のスマホで
先程とは別の動画を再生した。
*
場所はどこかの室内。
白い壁を背にした状態で、
無言のまま、神妙な面持ちで深々と頭を下げる
マスク姿の配信者・がすら。
心労のせいだろうか。
彼の目の下には、
肝試し動画の時には無かったはずの
大きなクマができてしまっている。
彼のトレードマークとも言える
鮮やかな紫色の髪の毛も、
心なしか以前よりボサボサになったようだ。
一呼吸おいて、彼はゆっくり喋り始める。
と、がすらは再び頭を下げる。
がすら、深いお辞儀3回目。
と、4回目に彼が頭を下げたあたりで、
動画は終了したのだった。
*
メイリはスマホを操作し、
今度はSNSのタイムラインをカホに見せる。
画面に表示されていたのは、
“#がすら” での検索結果。
そのほぼ全てが、がすらを責める内容だった。
もちろん無断での侵入行為をとがめる投稿が
大半ではあったのだが、
中には、彼の容姿を
ボロクソにけなすような投稿をはじめ
「そこまで言わなくても……」
と思わずカホが言いたくなるような
過激な内容のものも少なくなかったのだ。
カホの場合、
インターネットを使うのは
もっぱらスマホでの調べ物が中心である。
あまり自分から積極的に書き込みをしたり
ましてや動画を上げたりなんて
したいともしようとも思ったことはない。
というわけで今のところ
彼女自身にネット炎上の経験があるわけではない。
だが一応、
ちらっと見たネットニュースか何かで
「ネットの炎上は怖いらしい」
ってことぐらいは知識として持っている。
そんな想像をするだけで、
カホはちょっと身震いしてきてしまうのだった。
がすら炎上話から受ける激烈なインパクトで
カホはすっかり忘れてしまっていた。
今日こうやってメイリが来たのは
「カホに頼みたいことがあるからだ」
ということを。
メイリの唐突な提案に、
一瞬、カホの思考が止まった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。