第12話

がすらチャンネル(2)「1ヶ月ぶりだね」
545
2019/09/09 09:09

とある9月上旬の金曜日の、夕方のこと。
梓山 カホ
梓山 カホ
…………
学校から自宅マンションへと帰ってきた
梓山アズサヤマカホの様子は、少しばかり不自然だった。


リビングの椅子に座ったかと思うと
すぐに立ち上がっては無駄にウロウロ歩き回ったり。

左手で固く握りしめたスマホの画面や
壁に掛けられたシンプルな時計を
何度も何度もチラチラ見ては、
時々ふぅっと大きく息を吐いてみたり。

どことなく落ち着きがないというか……
妙にそわそわしているというか……


……とにかく、
いつも通りでないことだけは確かである。




 ――ピンポーン♪


来客を知らせるチャイムの音。

梓山 カホ
梓山 カホ
……来たっ!
カホはバッと顔を上げたかと思うと、
慌てて玄関のほうへと駆け出していった。





    *****



梓山 カホ
梓山 カホ
い……いらっしゃい
少し緊張気味に玄関のドアを開けるカホ。



その先にいたのは……

式峯メイリ
式峯メイリ
こんばんはー♪
人懐っこい笑顔で笑う式峯しきみねメイリ。


実はこの日の昼間にカホのスマホへ
「たのみたいことがある」
というメイリからの連絡が届いた流れで、
放課後に急きょ2人で会うことを決めたのだ。

梓山 カホ
梓山 カホ
こんばんは……

……と、とりあえず中へどうぞ!
式峯メイリ
式峯メイリ
おっじゃましまーす


カホの家にメイリが来るのは
初めてではなく、これで2回目となる。


だが人見知りなカホは、
そもそもというものにあまり慣れていない。

しかも1回目に来た時のメイリは
幽体状態で飲食が不可能であった上、
“犯人との対決前日” ということで
打ち合わせが必要な事項も多かったなど、
特殊な事情がいくつか重なりまくっていたため
カホがあまり深く考えていない部分もあった。


「同年代の女の子が遊びに来る場合、
 どうやって迎えるのが正解なんだろう?」

さっきのカホがやや挙動不審であったのは
そんなことをぐるぐる考えていたから、
という理由からのようだ。




とはいえ、もう既にメイリは来訪済み。

カホは少々ぎこちないながらも
自分の部屋へとメイリを招き入れたのだった。





    *****





部屋に入り、
カホが用意したアイスティーで
一息ついたところで、
思い出したようにメイリが言った。
式峯メイリ
式峯メイリ
……そーいえば、
カホさんと会うのって
けっこーひさびさかもっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
えっと……

だいたい1ヶ月ぶりだよね?
式峯メイリ
式峯メイリ
ですですっ

あたしとカホさんが最後に会ったの、
7月の終わりの
“心霊ちゃん” のことが終わって
ごはん食べに行く約束した日だもん
梓山 カホ
梓山 カホ
しかもメイリちゃん、
あの日はすぐ帰っちゃったし……
式峯メイリ
式峯メイリ
そりゃ帰るに
決まってんじゃんっ、
あたしがいたら悪いでしょ?

兄ちゃんとカホさんの
せっかくの初デートだったもん♪
梓山 カホ
梓山 カホ
(ぶぁっ?!)

思わずアイスティーを吹き出しかけるカホ。


梓山 カホ
梓山 カホ
……ちょ、
ちょ、ちょっと待って?!

だから私とお兄さんって
まだそういう関係じゃなくて――
式峯メイリ
式峯メイリ
おやおや?

” ってことは
「これからそーなる予定だよ」
ってことだよねぇっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
?!
梓山 カホ
梓山 カホ
そ、それは……その……
式峯メイリ
式峯メイリ
おおお?

すぐに否定しないってのは
そーゆーことだと思うけどなー♪
梓山 カホ
梓山 カホ
うううう……


決してカホだって
ハルオミのことが気にならないわけではない。

現に1ヶ月前、
彼と2人でごはんを食べに行った際だって
カホの心臓はドキドキしっぱなしだった。



しかし、何度も言うが
そもそもカホは人見知りである。

家族や親戚以外の人間と一緒に外食すること自体
ほとんど経験がない彼女にとって、
ハルオミに限らず
「誰かとごはんを食べに行く」
というシチュエーション自体が
最初から最後まで新鮮なものだったのだ。


果たしてあの時のドキドキが
ハルオミへの “好き” だったのかどうか……

……正直なところは
「自分でもよく分からない」というのが
現段階の彼女の本音なのである。


梓山 カホ
梓山 カホ
で……でも、ほら

私とお兄さんだって
あの日以来1回も会ってないし――
式峯メイリ
式峯メイリ
そこなんだよっ!

あのあと、
なんでたったの1度も
2人で遊びに行かないわけ?!

カホさんなんか
せっかく長~い夏休みが
あったんだからさー、
「どっか行こう」とか
どっちからともなく誘えばいいのに!
梓山 カホ
梓山 カホ
無理無理無理無理!!
絶対無理ッ!

私から誘うなんて無理だから!
式峯メイリ
式峯メイリ
そーなんだよねぇ……


……こーゆーのって
本人同士で進んでくのが基本だし、
「あたしはきっかけだけ作って
 あとは遠くから見守るぞーっ♪」
って思ってたから、
あえて余計なジャマしないよーに
何もしないことにしてたけど……
式峯メイリ
式峯メイリ
……よくよく考えたら
カホさんってむちゃくちゃ奥手で
兄ちゃんは変わり者だから

2人にまかせてたって
話が進むわけないんだよねぇ……
式峯メイリ
式峯メイリ
……てなわけで、今度からは
あたしももうちょい手伝うからっ♪
梓山 カホ
梓山 カホ
いやいやメイリちゃん、
そんな無理やり
くっつけようとしなくても――
式峯メイリ
式峯メイリ
だいじょぶ!

こーゆーのは
ムリやりやってもダメなの、
あたしだってわかってるって!


てなわけで、ちゃ~~んと
タイミング見てお手伝いするから
安心してまかせてねー♪
梓山 カホ
梓山 カホ
…………
梓山 カホ
梓山 カホ
(……違う、
 そういうことじゃないよ
 メイリちゃん……)


反論したい気持ちはあったものの、
心の中の言葉をぐっと飲みこみ、
カホは話を変えることにした。

梓山 カホ
梓山 カホ
……えっとメイリちゃん、
“たのみたいこと” があるんだよね?

そう。

今日こうやってカホの家に
2人が集まることになったのは、
元はといえば
「たのみたいことがある」
というメイリからの連絡が発端なのである。


式峯メイリ
式峯メイリ
あっ、そーだった!
と自分のスマホを取り出し操作するメイリ。
式峯メイリ
式峯メイリ
カホさんは
ネットで動画とか見る人?
梓山 カホ
梓山 カホ
たまに、ぐらいかな

どっちかと言えば
あまり見ないほうだと思うよ
式峯メイリ
式峯メイリ
じゃあ
この動画は見たことある?
メイリがカホに向けてスマホを差し出した。



表示されていたのは、動画のサムネイル画像。

黒っぽい背景の上に、
赤文字の殴り書きっぽいタイトルが入っている。



動画タイトルを読み上げるカホ。
梓山 カホ
梓山 カホ
「がすらの1人肝試きもだめし」

……ううん、見たことない
式峯メイリ
式峯メイリ
この動画はね、
“がすら” っていう配信者が
ちょっと前にやったライブ配信の
アーカイブなんだけど……


……たぶんカホさんも、
見たらびっくりすると思うんだよっ♪
といたずらっぽく笑ってから
メイリは動画の再生ボタンを押したのだった。

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