無料ケータイ小説ならプリ小説 byGMO

第16話

がすらチャンネル(6)「既視感」

その翌日の土曜日、昼過ぎ。

待ち合わせたカホとメイリの2人は、
歩いて “目的地” へと向かっていた。

式峯メイリ
式峯メイリ
…………

今日も……あついねぇ……
梓山 カホ
梓山 カホ
…………

そう……だね……
歩き始めてからの2人の会話はといえば、
先程からそういった内容しか聞こえてこない。

というか会話をしているよりも、
圧倒的に無言の時間が多いと言ってよいだろう。



9月というのは、
暦の上ではもう秋と呼ばれる時期のはずだ。

だが現在の2人を取り巻いている、
ギラギラと容赦なく照りつける太陽や
じりじりと汗が噴き出してくるような暑さからは
秋らしさなんてみじんも感じない。

何ならセミまで元気にミンミン鳴いている。

梓山 カホ
梓山 カホ
(……実は、季節が秋に変わった
 というのはただの気のせいで……

 ……本当はまだ
 夏が終わってないんじゃ……?)
暑さで頭が動かなくなってきたカホが
ぼんやりと、そんなことを考え始めていると。

式峯メイリ
式峯メイリ
……だいたい着いたっぽいかも
何の変哲もない住宅街のど真ん中で、
メイリが不意に立ち止まった。

その左手に握られたスマホには
ナビ画面のマップが表示されている。

梓山 カホ
梓山 カホ
ええっと……
カホがあたりを見渡そうとしたその時。
梓山 カホ
梓山 カホ
……あ
式峯メイリ
式峯メイリ
……あ
2人の声がハモった。
どうやら何かを見つけたらしい。




彼女達の目線の先には、見覚えのある玄関口。

この場所こそが、
がすらが例の配信をスタートした地点なのである。

そしてこの玄関口を備えている
小さな小さな一軒家こそが、
彼が無断で侵入してしまった建物なのだ。



ただし例の配信は
夜のかなり暗い時間に行われていた。

現在は晴れ渡った昼間ということで、
目の前の建物やその周囲の様子は
アーカイブの動画で見た時よりも鮮明だった。


明るいからこそ、
家の荒れ果て具合を実感する。

がすらが配信で言っていた通りに
建物にはところどころ蜘蛛の巣が張っていたし、
昔は真っ白であったと思われる外壁は
すっかり黒ずみ、ひび割れも目立っていたし、
建物の脇に植えられている木も
勝手に生えてきたと思われる大量の雑草も
自由気ままに伸び放題だしで、
要するに “手入れされている形跡” や
“人が住んでいる気配” が一切ないのだ。

ここまで荒れているなら、
一般的には “廃屋はいおく” と呼んでしまっても
差し支えないのではなかろうか。

梓山 カホ
梓山 カホ
……間違いない気がする……
建物に近づいたカホが、ぼそっとつぶやく。



先程まで暑くてたまらなかったはずなのに、
廃屋の前まで来たあたりから
ほんのごくかすかにだが、
寒気のようなものを感じるのだ。

カホは、

式峯メイリ
式峯メイリ
そうっぽい……


……ここ、絶対……
梓山 カホ
梓山 カホ
うん……

あえて今さら口に出さずとも、
2人の頭の中に何が浮かんでるかなんて明白。

交差した視線から、
お互いが同じ考えだということを
カホとメイリが悟ったちょうどその時だった。
怖い顔のおじいさん
お゛いコラッ!!
そこで何やってんだ、おめぇらッ?!
急に怒ってきたのは、
鬼の形相をした、小柄な年配男性。
梓山 カホ
梓山 カホ
ひっ?!
式峯メイリ
式峯メイリ
へっ?!
驚いたカホとメイリは、
一目散に走って逃げだしたのだった。





    *****





ひたすらに来た道を駆け戻り
角を4回曲がったあたりで、
まずは先を走っていたメイリが止まり、
続いて少し遅れて追いついたカホも止まる。

梓山 カホ
梓山 カホ
ハァ……ハァ……
全力疾走で息も絶え絶えなカホ。

式峯メイリ
式峯メイリ
……カホさん……ハァ……
だ……だいじょーぶ……?
同じく息を切らしているメイリが
カホを気遣う。
梓山 カホ
梓山 カホ
うん、大丈夫……

……メイリちゃんは?
式峯メイリ
式峯メイリ
あたしもだいじょぶっちゃ
だいじょぶだけど……

……どっかお店とか
入って休みたい気分かも
梓山 カホ
梓山 カホ
それがいいと思う……
式峯メイリ
式峯メイリ
なら、決まりってことで♪
梓山 カホ
梓山 カホ
でもこの辺は住宅街だし
入って休めるお店なんてあるかな?

少なくとも行きがけには
それらしいお店は無かったような……
式峯メイリ
式峯メイリ
ちょっと探してみるねー

サッとスマホを取り出したメイリは、
手慣れた様子で検索を開始。
式峯メイリ
式峯メイリ
……おっ、
徒歩3分で定食屋があるって♪
梓山 カホ
梓山 カホ
それ以外は?
式峯メイリ
式峯メイリ
ん~……
ちょっと歩かないと
他のお店は無いっぽいなぁ

正直あたし、
この状態で長時間歩くの
けっこーキツいかも……
式峯メイリ
式峯メイリ
……ねぇカホさん、
定食屋でもいいかな?

ついでに
お昼ごはんも食べちゃう感じでっ
梓山 カホ
梓山 カホ
うん、いいよ
式峯メイリ
式峯メイリ
やったー♪




    *****





前日、幽霊&がすらについて
調べていくことを決めたカホとメイリは、
調査方針について話し合っていた。


その際メイリが
「まずは動画に映ってた家に行ってみたい」
と、強く主張。

カホの本心としては、
できれば幽霊や、幽霊がいそうな場所に
近づくことは避けたかったため、
返事を渋っていたものの、
「じゃあそれ以外に、なんかいい方法ある?」
とメイリに聞かれる。

うまく答えを返せなかったカホは、
なし崩し的に、撮影場所へ向かうことを
同意させられてしまったのだ。


――M市某所の住宅街にひっそり建ってる

がすらは配信内で、
その舞台として選んだ建物のことを
このように説明していた。

昨日カホが動画を見せてもらった段階では
建物に関する手がかりと言えば、
その言葉と、玄関の外観ぐらいしか
無かったのであるが……



……今朝になって、カホのもとへ
「撮影場所わかったよっ!」
というメイリからの電話があった。


なんでもメイリいわく、
手がかりはないかと
片っ端から友達に尋ねまくったところ、
クラスメイトの1人から
「あの動画が撮影された家、
 自分の知り合いの親戚の近所だって聞いた」
との有力情報を入手。

その伝手つてをたどることで、
メイリは撮影場所の住所を特定できたという。


そして撮影場所は
同じM市内ということもあり
カホやメイリの家からそう遠くなかった上、
2人とも本日は特に予定が無かったため、
前日に続いて急きょ集合し、
とりあえず現地撮影場所へと
向かってみることに決めたところから
この話の冒頭へと繋がっていくのだ。



カホは内心、
「昨日の今日でよく調べたものだ」
と感心していた。


今回の住所特定の成功は、ひとえに
メイリの人脈とコミュ力の賜物だと言える。

反対にカホはといえば、
人とのコミュニケーションが苦手で
スマホに登録されている連絡先といえば
余裕で両手の指で収まるほどの数しかない。


そんな自分とメイリが
こうして一緒に行動しているという現実は、
カホにとって何だか不思議で
とても非日常な時間に思えてしまうのだ。





    *****





目当てのお店は、
いかにも “昔ながらの街の定食屋さん”
といった感じの小さな個人店だった。

店員は男性が2人だけ。
小さいお店のため、この人数で十分なのだろう。

レトロなカウンター内で包丁を使っている
昔気質むかしかたぎの職人っぽいおじさん店員の
真剣な表情を見る限り、
味に間違いはなさそうな雰囲気である。

なお、胸元の名札によれば
このおじさんが店の店長であるとのこと。


お昼時にも関わらず店内は割と空いていたため、
カホとメイリは待つこともなく
奥のほうのテーブル席へと座ることができた。

式峯メイリ
式峯メイリ
カホさんは注文決まった?
梓山 カホ
梓山 カホ
うん、
しょうが焼き定食にする
式峯メイリ
式峯メイリ
りょーかい♪
カホの返事を聞いたメイリが、
早速店員へと声をかける。
式峯メイリ
式峯メイリ
すいませーん、
注文いいですか?
定食屋の男性店員
はいは~い
伝票片手にすぐ注文を取りに来てくれたのは
おじさん店長ではないほうの若めな男性店員。

梓山 カホ
梓山 カホ
(……ん?)

彼の声を聞いたところで、
カホの脳内に訪れる
梓山 カホ
梓山 カホ
(……この店員さん、
 何かが引っかかるんだけど……)


別に、この若い男性店員が
おかしな動きをしているわけではない。

カホは彼に既視感があるというか
いわゆるデジャブのようなものを感じるのだ。


彼の体型は割と細身。

飲食店の店員らしい感じで
髪をぴっちり隠すように
ぐるっと巻いて結んだバンダナ。

気崩すことなく無難に着用している
おじさん店長とお揃いの白いコック服。


顔だって見覚えがあるわけじゃない。

というか彼は
“どこにでもいそうな若者の見本”
とでも言いたくなってしまうような
ほとんど特徴がない顔をしているから、
「仮に昔、会ったことがあるとしても
 記憶に残していられるような自信はないな」
とカホは思う。

梓山 カホ
梓山 カホ
(……でも確実にどこかで
 見たことあるような気がして
 ならないんだよね……

 私、いったい
 いつ……どこで見たんだろう……)

既視感の正体を探ろうと
男性店員を観察しつつ考え込むカホをよそに、
メイリは注文を進めていく。

式峯メイリ
式峯メイリ
えっとー、
ジャンボミックスフライ定食と……
定食屋の男性店員
はい、
ジャンボミックスフライ定食が1つ
式峯メイリ
式峯メイリ
それと、しょうが姜焼き定食で!
定食屋の男性店員
はい、
しょうが焼き定食が1つ


……以上でいいですか?
式峯メイリ
式峯メイリ
はいっ
定食屋の男性店員
では注文繰り返します

ジャンボミックスフライ定食が1つと
しょうが焼き定食が1つで
よろしいでしょうか?
式峯メイリ
式峯メイリ
だいじょぶで――
梓山 カホ
梓山 カホ
?!
メイリが答えかけた瞬間、
カホの頭の中でピースがかちりとかみ合った。
梓山 カホ
梓山 カホ
がすらさん……?
あまりの驚愕きょうがくに、思わず
頭に浮かんだ答えをそのまま口に出してしまう。



彼女が驚くのも無理はない。

目の前の若い男性店員こそが、まさに
昨日カホとメイリが見ていた動画を配信した
だと気づいたのだから。



そして、
カホのつぶやきを聞いたは、
茫然自失の表情で
手にしていたプラスチックの伝票ホルダーを
床へと落としてしまったのだった。