第6話

嘘 ー 伍
475
2019/12/25 21:49
「ところで帝統、何故ビー玉なんて持っていたんですか?」
「あ」

しまった、とでも言うようにピタリと動きをとめる。



「まさかわっちでは無い誰かと…!?
わっちという存在がありながらよもや浮気など…」

態とらしく服の裾で目元を覆いながら泣き真似をして。
それとは裏腹にぐるぐるとこびりつくような考えに吐き気がした。

「んに"ゃー!ちげぇよ!つか俺とお前はいつ恋人になったんだっつの!」
「ふふ、そうですね、小生らは婚約者♡ですよね」
「だめだ…話が通じねぇ…」

体内を隅々まで回るような吐き気は治まることなく
ただ目の前の野良猫に目をやった

呆れたように屈み目頭を抑える中で
雨上がりの烏のような髪は
日光を反射していた

美しい

ただその一言では収まりきらないような
俺の穢れが全て溶けて落ちるような
そんな感覚に浸った

「…で、結局このビー玉は何なんです?」
「あー、パチの景品」

決まり悪そうに後頭部掻き、口を開く

「本当はお前にやろうと思ってたんだけどよ、…
いっつも金貸してもらってるし
飯食わして貰いっぱなしだし、
たまには何かやろうと思って

けどやっぱショボすぎっかなーって
他の金は全部スッちまったし
また今度いいのとってやろーって」

拙いような言葉を紡ぎ、照れ臭そうに話す姿は
まるで幼い子供のようで

ぎゅう、と胸が締め付けられる。
それでもいつも自分が感じるような物ではなく、

幸せな痛みだ。

ただその一言では言い表せない幸福感を抱いては
口角が上がったままで顔を上げることが出来なかった

「…お、おい幻太郎?やっぱ怒ったか?」

と心配そうに此方に寄る帝統は顔を覗き込もうとするも
俺が其方に倒れるようにしたことで遮られる

「げんたろ…」
「ちょっと黙ってください」

キツいようにも聞こえるその言葉だが
嬉しくて嬉しくて、声が震えた

それに勘づいたのか
柔い息を吐き出して笑って

「おう、」

一言だけ
それが何とも言えず心地良くて

苦しいほどに
抱き締めた

プリ小説オーディオドラマ