第6話

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2022/08/31 11:00
 そんなわけであたしはまた上条と日本酒を飲むことになった。この日はお互い意識したのかしなかったのか、今頃幸せな新婚旅行に行っている二人の話題は出なかった。
 ただ美味い魚と酒に舌鼓を打った。……美味すぎた。

 富山の三笑楽さんしょうらくってねー、ほんっとおいしいお酒なのよ!!!
 調子に乗ってまたまた杯を重ねて北風に酔った身体をふらつかせていると、目の前に昨日泊まったホテルがあった。

 上条があたしを見た。

 あたしも上条を見た。

 明日は会社なのに。こんなインモラルは二度としないって決めたのに。
 ま、いっかーって。
 日 本 酒 っ て 怖 い !!
 終わったあとも、心臓の音がどきどきと溶け合って温かな胸に包まれていると眠くなってしまう。
 でも駄目。
 明日会社だもの。
 あたしは上条の胸の体温を惜しく思いながらも身体を起こした。
牧原美紗
シャワーもらうわ
上条澄
ああ
 今日は流石に上条も寝ないらしい。
 あたしは熱いシャワーを全身に浴びた。
 きっちり洗って着替えて出て行くと、上条もスーツを着込んでいた。
牧原美紗
シャワー使わないの?
上条澄
うん、風呂使うと疲れて寝てしまいそうだからな。そうはいかんだろ
 上条はベッドもきちんと戻してくれていた。シーツや毛布がぐちゃぐちゃしているのはいくらホテルでも好きではないので彼がきれいにしてくれたのは嬉しい。
牧原美紗
ホテル代……
上条澄
ああ
 上条が言った値段はけっこう安かった。会員制なので割引が利くのだと言う。あたしたちはきちんと割り勘にした。
上条澄
タクシーで送ろう
牧原美紗
いいわよ、自分で払うわ
上条澄
夜遅いだろ、君みたいな美人を一人で帰せるか?
牧原美紗
あら、よく見ないとわからないんでしょ
 茶化してはみたが、上条の言い方が彼と同じだったのでどぎまぎした。
 一緒にタクシーに乗る。上条とあたしの間には15センチくらいの距離があった。酔っていない彼はぼんやりと町の灯を見ていた。あたしはその彼の顔を彩る光を見ていた。
 そんなふうにあたしと上条はつきあい始めたが、その後はホテルへは行かなかった。
 ただ旨い酒とおいしい料理だけを楽しんだ。
 上条は23時には必ずあたしを帰した。
 あのホテルへの道はもう忘れた。
 あたしたちは単なる飲み友達なのよ。




 週が明けて、早瀬が新婚旅行から戻ってきた。社内の同僚たちにさんざん冷やかされて、でも幸せそうに笑っていた。
 その笑顔に少しだけ胸が痛むけれど、幸せになってほしい、という気持ちの方が大きかった。
 こんな気持ちになれたのは、先週ずっと上条と飲み歩いていたせいかもしれない。


 上条。
 そういえば向こうの会社でも花嫁が出社したんじゃないかしら。
 大丈夫かしら、あの人。
 タフなようでもけっこう繊細っぽいから。