第4話

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2022/08/17 11:00
 それが。
 どうしてこんなことになってるのかな……



 男の熱い腕に抱かれながらあたしはぼんやりと思っていた。
 初めて会った男とホテルに来るなんて。
 あたしってこんなにモラルが低かったっけ。
 でも。
 なんか気持ちいいわ。
 誰かに抱き締められているって何年ぶり?
 酒臭いけどお互いさまね。
 髪をかきあげられた。真正面から上条が覗き込んでいる。
上条澄
よく見ると美人だ……
牧原美紗
よく見る、は余計よ
 口づけられる。舌が何度もあたしの舌を絡めて強く吸い上げる。濃厚なキス。
 唾液も吐息も互いの味もみんな混ぜこんで。
牧原美紗
…ン……ッ
 上条の手があたしの胸を柔らかく包んだ。こんなに大きな手。優しい手。
 花嫁はバカだわ、こんな優しい男の気持ちに気づかずに、あんなあまちゃんの青二才に嫁ぐなんて。
 花婿もバカね。こんな美人の先輩の気持ちを知らないなんて。
 そしてあたしたちもバカね。言いたいことも言えずに黙って失恋なんて。そしてその悲しみを抱き締めあうなんて。
牧原美紗
ああ……
 上条の手が背中を優しく撫でた。あたしはのけぞって声を上げる。
 寒いから抱き合うと暖かい。さびしいから抱き合うと暖かい。それだけよ……



 翌朝。

 あたしは痛む頭を押さえた。痛いのは二日酔いと現状のせいだ。
 あたしは、会社の、後輩の、花嫁の、上司と、寝てしまった。
 昨日初めて会ったのに。
 これだからお酒って怖い。
 どーでもいいかーって気になるのが怖い。
 まあいいかーってなるのが怖い。

 この男、上条って言ったっけか? 上条ナントカ。彼はつっぷして眠っている。ぴくりとも動かないけど苦しくないのかしら。
 しかもここ、連れ込みとかラブホテルとかじゃなくてちゃんとしたシティホテルじゃないの。
 一泊いくらすんのよ。
 あたしは急いで顔を洗って服を身につけると財布から1万円出して上条のバッグの上に置いた。
牧原美紗
(確か昨日二軒目の飲み代を出してもらったような……)
 だからというわけでもないが、この上ホテル代まで全額払われるとなんだか一方的な感じもしたからだ。
牧原美紗
(とにかく、これでもうおしまい。あたしとあなたは関係ありませんからね! いくら失恋同士でも――うう、失恋って言葉が胸に響く! いいえ、だんじて同士でも仲間でもないから! じゃ、さよなら!)
 転がったヒールをはいてそっとそっと部屋を出る。最後に振り返ったとき、上条が寝返りを打って逞しい背中が見えた。