第9話

歌詞ノート
132
2020/09/26 14:18
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軽い嘔吐表現あります。苦手な方は飛ばすか🔙をお願いします。

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付き合って一日目とか、どうすりゃいいんだろう…
日曜日の昼過ぎ。
そんなことを考えながら今日も東は病室に向かう。

1日目。といっても相思相愛という訳ではなく、今はまだ片思いに近い状態だ。檜谷が告白にOKしたのは、ただ"人と付き合ってみたい"という好奇心からだけ。そう考えると、両片思いとかってすごい奇跡なのかもしれない。

東 直樹
東 直樹
つーか…今日話すネタもないんだよな
数年前に祖母が倒れた時、病室でテレビを見るにはカードが必要だということを知ったので、そう易々と昨日のバラエティーの話をしても全く分からないに違いない。
かといって他にする話もないので、東は大変困っていた。前に1回付き合ったことはあったのだが、その時も上手く事を進められず、結局1ヶ月で振られてしまった。

いつの間にか、病室の前まで来ていたことに気づく。もちろんアルコール消毒は忘れない。
東 直樹
東 直樹
マ、何とかなるでしょ
ガラッと扉を開けると、呑気に和風サラダをほおばっている檜谷の姿と、それを見守る看護師の姿があった。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
あ。
それに気づいた檜谷が手を上げる。東も軽くおう、と答える。
雪野 かなえ
雪野 かなえ
あら、こんにちは。裕二くんのお友達?
東 直樹
東 直樹
あ、はい。こんにちは…
友達、と言われると返答に困ってしまうのだが、ここはあえてはいと言っておいた。
雪野 かなえ
雪野 かなえ
そうなんだ。ゆっくりしていってね。
看護師は食べ終わった檜谷のトレイを配膳車に運び入れると、こちらに向けてにっこり微笑みながらその場をあとにした。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ふぅ。腹いっぱい。
と言うと、おもむろに机の引き出しからノートとペンを取り出した。
ノートを開くと、そこには文字がびっしり。
東 直樹
東 直樹
これは…歌詞?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
そ。半年しかない命、せっかくだから歌の一つや二つも作りたいと思ってさ。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
いつもは平々凡々な生活すぎて何にも思いつかないんだけどさ、歌詞。
でも今ここにいると、色々考えることがあるんだ。苦しい事だったり、まあそういう…恋の事だったり。死ぬのは嫌だけど、こういう所はむしろありがたみを感じてるかも。
恋。檜谷は今の状況をどう感じているのだろか…
東 直樹
東 直樹
そうなのか。…読んでみてもいい?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
いや…別にいいけど、俺がいる前で読まれると…なんか恥ずかしい。
冷房の効いた部屋で、赤面しているのが分かった。
東 直樹
東 直樹
そ、そっか。ごめん。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
いや、謝らなくていいよ。
……ッ!
突然檜谷赤かった顔が、さぁっと青ざめていく。瞳孔が小さくなり、口に手を当て、小さく震えている。
東 直樹
東 直樹
ん?どうした?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ごめ…なんか…気持ち、悪くて……
ナースコール。
東の頭にすぐそれが浮かんだ。素早くボタンを押し趣旨を伝えると、吐瀉物としゃぶつを受け止められる袋とコップに水を入れて準備する。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ゔ…ッ!
数秒くぐもった声を出したかと思うと、その後すぐにビチャビチャと言う音が病室中に響いた。
東 直樹
東 直樹
ひ…ッ!
聞きたくなかった生理的嫌悪な音に、思わず目を閉じる。怖くて嫌で、そのまま何も動けなかった。
ようやく収まってきたところで、ゆっくりと東は目を開けた。
檜谷は体が震え、はぁはぁと息を切らしながら前かがみのまま、ぐったりとしている。
東 直樹
東 直樹
み、水、飲めるか?
水を差し出すも、うんともすんとも言わない。肩で息をしており、かなり苦しそうだ。
東 直樹
東 直樹
ゆ、裕!?大丈夫か?
出来るだけ吐いたものを見ないように袋を縛り、ゆっくりと体を起こすと、もう檜谷は危ない状態だった。

こちらの呼び掛けにも答えず、目は虚ろで、今にも意識を失いそうなくらいだ。
東 直樹
東 直樹
裕!もうすぐ看護師さん来てくれるからな…!
途中、1回ごほっと咳き込むと、口に残っていた吐瀉物がすこし東の手に付いた。でも今はそんなこと気にしていられなかった。
東 直樹
東 直樹
頑張れっ…裕!!

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