第8話

相違
105
2020/09/16 15:52
檜谷 裕二
檜谷 裕二
直樹と、付き合いたい。
にこにこ笑う檜谷の言葉に東は一瞬、何を言ったのか理解できなかった。
東 直樹
東 直樹
え、い、今更何言ってんだよ。俺は付き合って欲しいなんて言ってないし……あれはただ伝えたいだけだったからさ。それに……
東 直樹
東 直樹
…本当に俺のことが好きだったら、お前そんな顔しないじゃん…
東は知っていた。

それは中学生の頃、檜谷が好きな女子に告白することになったという話だ。
なかなか話しかけることも出来ず、靴箱に手紙を入れることになったのだが、あまりの緊張で結局何も入れずに作戦は終わった。あの時の酷く赤面した、ぐしゃぐしゃの顔を今でも覚えていた。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
……
東 直樹
東 直樹
俺、知ってるから。いきなり異性愛者ノンケに告白しても、そう簡単に「はい」なんてこと言える人いないだろ?
東 直樹
東 直樹
だから、そんな"親友"だからみたいな理由だけで付き合うとか、なんて言うか、軽すぎる気がして……やめた方がいいと思う。
それが半年で本当にやりたいこと、じゃないはずだ。


数分の間、お互い押し黙っていた。言いすぎたかな、と思ったその時、檜谷が口を開いた。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
……確かに、今までただの親友だったから、恋愛的に好きって訳じゃない。でも、俺は今のこの気まずい空気のまま、気づいたら疎遠になってるって方がもっと嫌だ。それに、
檜谷はベッドに腰かけながら、少し俯き気味にこう言った。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
…俺だって、付き合ってみたいし……
東 直樹
東 直樹
檜谷 裕二
檜谷 裕二
俺1回も付き合ったことないってのは分かってるだろ?でもずっとリア充撲滅しろとか言ってる身でも、この際女でも男でもいい、1回くらいはそういうことしてみたいとか、羨ましがってみたり……
東 直樹
東 直樹
でも…
檜谷 裕二
檜谷 裕二
…何でもするって言ったの、誰?
東 直樹
東 直樹
それは…!でも、そんな、俺が裕のやりたいこと決めちゃったみたいじゃん……
檜谷 裕二
檜谷 裕二
…そんな罪悪感抱えないで欲しい。決めたのは俺なんだから。
東 直樹
東 直樹
………
東 直樹
東 直樹
本当に、裕はそれでいいのか?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
何回も言わせないでよ。そんなに要領悪かったっけ?
東 直樹
東 直樹
なっ…!
檜谷 裕二
檜谷 裕二
とりあえず。
突然、檜谷がその黒く焼けた手を握る。いきなりすぎて、胸の鼓動が高まる。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
今の俺とお前じゃ、手を握って思うことは違うかもしれない。でも、これからを通して、俺の想いが変わるように、俺も頑張る。だから…
お前も、直樹も頑張ってな?
俺が。お前を。

東の決意は、既に固まっていた。
東 直樹
東 直樹
…あぁ、もちろんだ。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ありがとな。これからまた新たに、よろしく。
檜谷が、また笑う。
東 直樹
東 直樹
おうよ。
つられて東も笑ってしまった。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
…良かった。
東 直樹
東 直樹
え?何が?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
昨日から、直樹ずっと顔色悪かったから。久しぶりに笑ってくれて安心したよ。
東 直樹
東 直樹
…俺そんなに顔色悪かったか!?
あまりにも無意識すぎて、自分のほっぺたをつねった。案外顔に出てしまうタイプなのかもしれない。
東 直樹
東 直樹
…あ、16時か。塾あるし、帰らねえと。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
そうか。じゃあ、またな。
東 直樹
東 直樹
おう!明日も行けたら行くよ。
病室を出て、エレベーターが閉まる。閉鎖空間になった瞬間、
東 直樹
東 直樹
っしゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!
つい嬉しくて、雄叫びを上げてしまう。



東がああ思っていたのは、本心だ。迷惑なんじゃないかとずっと思っていたが、檜谷の意志の強さから、大丈夫だと感じた。
東 直樹
東 直樹
これから…
これから、色々なことをするんだろうな、と空虚な妄想がどんどん出てくる。

色々な場所に行って、色々な試練を乗り越えて、そしてハグとかキスもして、最後には────
ちょうどニヤニヤしているところでエレベーターが開き、待っている看護師さんに変な目で見られてしまった。
でも、正直今はそんなことどうでもいい。
東 直樹
東 直樹
これから頑張るぞーっ!!

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