無料スマホ夢小説ならプリ小説 byGMO

242
2021/03/23

第16話

顔晴れ ~桐山~



あなたside





『あぁ〜、もぅっ......』






目の前にあるデスクの明かりだけが広がる中、
自分の現状に声を上げる


「すみません、そろそろ時間なんで」


そう言われて時計を見ると日が変わったことを示しとって


『すみません、今すぐ出ます』


資料やデータを鞄に詰めると、急ぎ早に会社を出て
高層ビルが並ぶ街をゆっくりと歩く




見上げると、真っ黒な雲が空を覆い
月明かりでさえも見えなくて目をそらすと、
それと同時に見えた高く伸びるビルに
全てを押しつぶされそうな感覚になった。



普段ならそこまで気にならないことも
今は全部が引っかかって、
少し痛む靴擦れも、終電を逃したことも
起きること全てが悪いことに思えて、
何とか持ちこたえるためにただ上を向いて歩いた


あと少しで家に着く、そう思った時



ぽつり、と冷たいものが当たった


その間隔は段々と短くなり
一気に降りかかる冷えた雨、

なんで今.....

そんな言葉は、
誰にも届くことなく雨の中へと消えていった




ポケットの中で震えた携帯を取り出すと


〈今どこに居るん?〉23:03
〈今日は遅なるん?〉23:36
〈雨降りそうやけど傘持っとる?〉23:54
〈雨大丈夫?今からそっち迎えに行こか?〉0:09
〈TEL〉0:15
〈TEL〉0:24


彼からの大量の通知が

普段なら心が軽くなるはずなのに、
今は返す気になれなくて、もう一度ポケットの中に戻した





マンションのエントランスを抜けて
エレベーターを通り過ぎると
普段は使わない階段が顔を出した


重たい足を動かしながら階段を上ると
コツン、コツン、とヒールの音だけが響そく


何故かその足音でさえも孤独を感じさせて
少しずつ、1歩を踏み出すまでの時間が伸びる


玄関の前に立って、鍵を出そうと鞄に手を伸ばすと
取り出すより先にドアが開いた。




「○○!
何しとったん!ビショビショやんかはよ入り
ほら、とりあえずタオルで足拭いて
お風呂沸いとるから入っといで」


そう言って部屋から出てきた彼は
突っ立ったままの私を、脱衣場へと押し込むと
さっきまで持っていた荷物は、いつの間にか彼の手の中へ


「あ、ちょっと待っとり」


そう言い残すとリビングの方に走って行った



あった、と声が聞こえると、すぐに姿が見えて
ほれ、そっちの足出して
そう言って、私の右足を指す


『濡れとるし、汚いから』


彼にその言葉は通用しなくて


「ええからはよこっち貸し、痛いやろ」


と、手が差し出される





「よしっ、とりあえずこれでええわ」


そう言って私の顔を見上げると


「防水用のにしといたから多分シミやんと思うけど、
お風呂上がったら取り替えよな、
ちゃんと肩まで浸かって温ったまるんやで」


そう言ってそそくさと脱衣場から出て行った