第9話

嘘じゃない
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2021/03/13 03:25
エマ
エマ
レイ、フィルはザックに任せてきた。
…アイシェ、どうするの?
レイ
レイ
それなんだが、こないだレウウィス達と約束結んだだろ?それを利用させてもらおうぜ。
エマ
エマ
レイ
レイ
アイシェを、鬼達に預けるんだよ。
エマ
エマ
アイシェさえ引き離せば、殺しも殺されもしないってこと?
レイ
レイ
あぁ。
レイ
レイ
アイシェは人間だ、武器さえ奪えば鬼には敵わない。
レイ
レイ
レウウィス達の都合が悪けりゃ、アダムとかに頼めばいい。まぁヴァイオレットあたりに頼みや、すぐ貸してくれんだろ。
エマ
エマ
(貸すって言い方よ…。)
レイ
レイ
それにアイシェは今も他の奴らを狙ってる。
今んとこハウスで一番フィルが人目を引いてる、そいつに何でも怪我をさせりゃ、みんながそっちを向く。みんながフィルしか見なくなる。
それを狙って、次の獲物を襲うってわけ。
レイ
レイ
そんなら全員が全員を守れば、とはなるけどそれじゃ四六時中休まらない。
だったら人間より遥かに力がある鬼に頼めばいいんじゃね?って話。
エマ
エマ
でもさ、ノーマン自身死ぬ気でいるんだよ?
アイシェ一人の為に。
レイ
レイ
そう、そこなんだよな。
あいつはまだ分かってない、責任全て背負おうとしてやがる。
ノーマン
ノーマン
だって…、当たり前だろ。
レイ
レイ
!!
エマ
エマ
ノーマン!
レイ
レイ
お前っ…!
ノーマン
ノーマン
まだ二人共、分かってないんだね。
ノーマン
ノーマン
僕が全て正しい、絶対なんだ。
エマ
エマ
違う!ノーマンは…!
ノーマン
ノーマン
違わない。
2年前の僕の出荷だって、二人は脱獄の失敗だと思ってるんだろうが、あれは成功だ。
ノーマン
ノーマン
だって、僕が出荷されなければみんな脱獄してこれた?
エマ
エマ
脱獄できたよ、それなのに!
ノーマン
ノーマン
いいや、出来ない。
レイ
レイ
なんで、…なんでそんなことが言える!
俺は何年も前から、お前ら二人を救う手を血反吐を吐くほどの努力で積み上げてきたんだ。
レイ
レイ
苦手だった勉強もママやお前らに悟られないように、脱獄のためだけにしてきたんだ。
ノーマン
ノーマン
でも、君も死のうとした。そうでしょう、レイ?
フフッ、アハハッ!アハハハはハッ!
笑えてくるね、二人は物語の勇者、ヒーローみたいな理論で死ぬほど頑張ってる。
エマ
エマ
ノーマン…。
ノーマン
ノーマン
それよりも、効率的に確実にそれが出来る方法があるのに、わざわざ遠回りの方法で頑張ってる。
それで勝手に倒れて、家族みんなに心配をかけてる。
ノーマン
ノーマン
今回の件もそうだよ、僕が死ねば全て片が付くんだ。たった一人が死ねばみんなが助かる、これほど素晴らしいことはないだろう?
レイ
レイ
じゃあなんであの時、脱獄の時お前は逃げた!
ノーマン
ノーマン
逃げた?
レイ
レイ
お前は鬼が、ママが、外(未知)の世界が怖くて俺らに計画を押し付けた。
違うのか?お前は勝手に逃げたんだ。
ノーマン
ノーマン
僕が逃げた?計画を押し付けた?
…ふざけるのもいいかげんにしろ、レイ。
エマ
エマ
っ…!!
ノーマン
ノーマン
僕が死なないことは分かっていたよ、どんなことをこれからされるんだろうって不安はあったけどね。
レイ
レイ
死なないことは分かっていた?
じゃあどうして…!
ノーマン
ノーマン
そもそも、ママが僕を満期で出荷しなかったのがおかしかった。
君も思ったろう?「おかしい、こんなことは有り得ない」って。
僕はラムダで、天才だと言われていたんだ。
ノーマン
ノーマン
これは自賛じゃない、事実だ。
ママはそんな肉を途中で手放すなんて絶対、断固そんなことはしたくない。
自分の利益になり得るものを、簡単に手放すなんてしたくない。
エマ
エマ
(指先でも許されない、高級な肉…。)
ノーマン
ノーマン
それに目の前には研究を手伝ってくれ、とピーター・ラートリーが1人。
明らかに異常だ。
ノーマン
ノーマン
ピーター・ラートリーが目の前にいて、確信したよ。
これは出荷じゃない、移動だとね。
エマ
エマ
死なない道があった、なのにノーマンは行ってしまった。
どうして、どうしてノーマンは自分はどうでもいいみたいに思えるの?
ノーマン
ノーマン
エマ、王都で僕は鬼の絶滅がすべての救済、そう嘘をついた。自分に嘘をついていた。
でもこれは嘘じゃない。
ノーマン
ノーマン
…申し訳ないんだ。
彼女を助けているつもりがこんな事になるなんて、思いもしなかった。
ノーマン
ノーマン
だから、僕はこの道を選んだんだ。
今まで二人の真っ直ぐな想いに助けられてきたけれど、今度こそこれが、僕の本心だ。
レイ
レイ
クソッ…!
ノーマン
ノーマン
ごめんねエマ、レイ。
…二度と僕の邪魔をするな。
エマ
エマ
…やだよ。
エマ
エマ
ノーマンが考えを変えてくれるまで、私とレイはとことん邪魔する。
レイ
レイ
あぁ、納得がいかねえ。
レイ
レイ
俺らは全力で、お前の邪魔をする。
お前を一人で逝かせない。
ノーマン
ノーマン
(ああ…、そうか。君たちはそうなのか。)
ノーマン
ノーマン
ザジ、連れて行け。
レイ
レイ
!?
ザジ
ザジ
………。
エマ
エマ
ザジ!?
ノーマン
ノーマン
聞こえたろ、ザジ。
ザジ
ザジ
あうあー!
ザジは二人の腕を掴んで、ドアの外まで連れて行く。

必死に振りほどこうとしたがびくともしない。
エマ
エマ
待ってザジ!ノーマンと話をさせて!
レイ
レイ
離せっ、おいノーマン!
ザジ
ザジ
あうあっ!!
エマ
エマ
っ!
ノーマン
ノーマン
………。
ドアが閉まって、部屋にはノーマン一人になった。

エマとレイの叫び声はまだ聞こえていた。
ノーマン
ノーマン
(二人共、許してくれ…。僕は僕のせいで、周りが傷ついていくのに耐えられない。)
ノーマン
ノーマン
…さて、彼女に会いに行こう。

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