第11話

分からないよ
133
2021/03/21 00:45
エマとの約束から、3時間が経とうとしていた。

エマの言っていた奥の部屋からは、誰の声も聞こえない。

深呼吸をして、ゆっくりとダイニングのドアを開けた。
ノーマン
ノーマン
…おまたせ。
ドアを開けると、ドンやギルダ達が席についてこちらを見ていた。

席には座らずこちらを見ている家族もいた。
フィル
フィル
あっ、ノーマン!
ノーマン、こっちの席!
ノーマン
ノーマン
あ、ありがとうフィル。
フィル
フィル
エマぁ〜!ノーマン来たぁ!
エマ
エマ
来た?ありがとうフィル!
じゃあ、ノーマン、お話しよう。
ノーマン
ノーマン
う、うん…。
レイ
レイ
お前はなんで死のうと思ったんだ?
ここでもっかい、こいつらに聞かしてやれ。
ノーマン
ノーマン
…申し訳ない、アイシェに申し訳がないんだ。
レイ
レイ
具体的に、もっと心の内晒せよ。
ノーマン
ノーマン
生きているのが辛い。
僕が生きている限り、彼女は幸せになれない。僕の願いは全ての食用児の幸せだ。
ドン
ドン
で?それにアイシェも含まれてるから、片をつけようとしたってわけか。
ドン
ドン
なぁノーマン。お前、2年前の脱獄のときから悪い意味で変わってねえぞ。
ドン
ドン
自分でも分かってるんだろ?
ノーマン
ノーマン
分かっているよ。
…僕だって、生きれるものなら生きたいさ。
でもアイシェは僕の存在で、一生幸せになれない、僕はそれが嫌なんだ。
ギルダ
ギルダ
そっか、ノーマンはずっとそんなことを…。
ノーマン
ノーマン
あの時、あの鬼のこともきちんと知っていれば…。フィルに怪我させずに済んだのに…。
フィル
フィル
ノーマン、あんまり自分を責めないで?
…僕は大丈夫だよっ!
ノーマン
ノーマン
………。
フィル
フィル
…ノーマン?
レイ
レイ
…大丈夫か?
ノーマン
ノーマン
…僕は、どうすればいいのか分からない。
ノーマン
ノーマン
僕はエマ達に心配をかけたくない。
でもアイシェに、僕は何も出来ていない。
レイ
レイ
…だから、あの時悪ぶったのか。
レイ
レイ
俺達に嫌われて、自分から遠ざけようとした。
その上で死ぬつもりだったのか。
エマ
エマ
っ!?
ギルダ
ギルダ
そんな…!
ドン
ドン
おいノーマン!
ノーマン
ノーマン
っ!
…ごめん、ごめんみんな!
ノーマン
ノーマン
僕はもう、耐えられない…!
僕のせいで、周りが傷ついていくのが耐えられないんだ!
ドン
ドン
…どうしてだよ。
ノーマン
ノーマン
…え?
ドン
ドン
どうしてノーマン、そんなになるまで隠してたんだよ。耐えてるんだよ。
…2年前のあの日、話したじゃねえか。
ギルダ
ギルダ
頼ってもらえるように頑張る、だからノーマン達も頼ってって…。
トーマ
トーマ
俺達、あのときの弱え俺達とはちげーんだ!
出来ることも増えたし、みんなのために頑張ってる!
ラニオン
ラニオン
ノーマン、少し休めよ。
そりゃ、何でも出来るかって言われればノーマン程じゃねえけどさ。
ラニオン
ラニオン
言われりゃ何でもする!頑張るからさ、…無理しないでくれよ。
ノーマン
ノーマン
…でも、僕はみんなに期待をされている。
全員の幸せを期待してくれているんだ。僕はそれに応えなきゃいけないんだよ…。
エマ
エマ
…それ、みんなでやっちゃいけないの?一人で期待に応えていかなきゃいけないの?
エマ
エマ
私は、ノーマンが辛い思いをするの、みんな望んでないことだと思う。
ナット
ナット
エマの言う通りだ!
レイ
レイ
一応、レウウィスにアポはとった。
アイシェをレウウィスに預けて、これからどうしていくか考えようぜ。
エマ
エマ
(アイシェさえ預ければ、ノーマンが殺されることがないから…。)
エマ
エマ
抵抗されないように、ヴィンセントに睡眠薬を作ってもらった。それも3日くらい保つやつ。
ヴィンセント
ヴィンセント
そう、それもこれも全部ボスのためだ。
ヴィンセント
ヴィンセント
エマ、申し訳ない。
ボスの隣にいたというのに、こんな不調を見抜けないとは…。
エマ
エマ
え?大丈夫大丈夫!
エマ
エマ
だからノーマン、一人で悩まなくていいんだよ。
ノーマン
ノーマン
………。
レイ
レイ
まだ納得がいかない?
エマ
エマ
じゃ、納得いくまで話そう。
ノーマンは何が納得いかないの?
ノーマン
ノーマン
僕はアイシェに人外非道なことをした。許されるべきではない事だ、だから自分が死ぬことで今の状況を変えたい。
ノーマン
ノーマン
エマ達の理想は素晴らしい、それで今まで何でも成功させてきた。
でも今回は無理な気がするんだ。
エマ
エマ
どうして?どうして無理だと思うの?
ノーマン
ノーマン
アイシェは僕が死なないと幸せになれないんだ!和解は出来ない!
エマ
エマ
無理じゃない、きっと何か道があるよ!諦めちゃダメだよノーマン!
ノーマン
ノーマン
無理なんだよエマ!なぜ分からないんだ、分かってくれよ…。
レイ
レイ
分かんねーよ。
お前の自分勝手な理想なんか、分かりたくねーよ。
ノーマン
ノーマン
じゃあ、アイシェの気持ちはどうするんだ!
エマ
エマ
ノーマンへの憎しみ以上の楽しみを見つければいいんじゃないかな?
ノーマン
ノーマン
え…?
エマ
エマ
私ね、脱獄したあと鬼の世界の森の事とか生き物の事何も知らなかったから怖かったの。
アルヴァピネラの蛇とか、ほんっと怖かったの。
エマ
エマ
でもね、…なーんていうか。
みんなと笑いながら話して、進んでいくのが楽しかったんだ。
それで、農園の事も少し忘れられたような気がしたの。
レイ
レイ
いや農園の事は忘れちゃダメだろ。
エマ
エマ
いやそうなんだけどね。
ドン
ドン
…確かにそうかもな。
ドン
ドン
俺も、エマ達から農園のこと聞いて、すっげえ怖かった。
コニーが里子じゃなく死にに行ったなんて信じられなくって…、怖かった。
ドン
ドン
でもこれからはずっと一緒なんだって分かったら、…アハハッ、なんか怖えのどっか行っちまったよ。
ナット
ナット
俺達も怖かったよな、アンナ。
アンナ
アンナ
そうね、いきなりドン達に呼ばれていきなりここは農園なんだって言われて。
トーマ
トーマ
な〜、エマとノーマンとシスターが話してる部屋に行って盗み聞きしてな〜。
ラニオン
ラニオン
なんか色々喋ってて、ほとんど内容覚えてねえや!…でも、奪われないために逃げるんだ。家族と一緒に逃げるんだって分かったら、怖えの吹き飛んじまったよなトーマ!
トーマ
トーマ
おうっ!あのロケットみたいにぶしゅううぅぅ、ってな〜!
レイ
レイ
(ぶしゅううぅぅて、語彙力急にどこ行ったんだよ。)
エマ
エマ
アハハハハハ、…まぁそうなんだよね。アイシェ、これからずっと一生ノーマンの事を恨み続けてたら身体が参っちゃうし、そういう意味でも恨み続けるのはやめてほしい。
エマ
エマ
でもアイシェの恨みは本物で、深い深い悲しみもある。それをすぐに変えろなんて言えないと思う。
エマ
エマ
私達が鬼への考え方を少しずつ変えたように、アイシェにもノーマンへの考え方を変えてほしいんだ。
レイ
レイ
………。
エマ
エマ
だから、明日にでもアイシェにもう一度会って、話そう。
エマ
エマ
レウウィスに預けるの、二日後だっけ?
レイ
レイ
違う、三日後。
エマ
エマ
あ、そっか。
じゃ、それまでになんとかアイシェを説得しよう!
エマ
エマ
ねっ、ノーマン!
ノーマン
ノーマン
………。
ノーマン
ノーマン
…分かった、エマを信じる。
エマ
エマ
………うん!
トーマ
トーマ
よっしゃあっ!
ノーマン
ノーマン
(みんな、こんな僕のために……。)
ノーマン
ノーマン
(…そうだな、結局僕はレイの言った通り逃げてばかりなんだ。……今度は逃げない、現実から逃げない!)
そうして、話し合いは無事に終わりエマ達もノーマンも心が少し軽くなった気がした。

そして、この話し合いを部屋の外から聞いていた者がいた。

それは………____________________
イザベラ
イザベラ
素晴らしいわ、本当に…。
エマ、みんな…、本当にこの2年で大きくなったわね…。

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