ころんと出会って20日、こっちの世界軸に来てから20日。
数日で調査が終わるような簡単な仕事で生活費を稼ぎ過ごす毎日の中、ころんは一日たりとも欠かさず事務所へ通ってくる。
まあ毎日来られたら流石に面倒に思う時もあるが、一緒にいると楽しいもんでころんが来るのを少し楽しみにしている自分もいる。
こんな調子で、元の世界のことは思い出すのも少なくなってきた頃。
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1924年5月23日 午後24時
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仕事の内容を備忘録へ記し終わると、時間は12時を回っていた。
ドンドンドン!!!
ガラララッ
ガバッ
いきなりころんに抱きつかれ、扉のヘリを掴む。
ころんは、口から、頭から、血を流して泣いていた。
机や棚をかき分け、包帯や絆創膏を慌ただしく探す。
ピタッと手が止まる。
振り返って見たころんは、泣きながら笑っていた。
声が震える。
笑って開いた口は中が血で真っ黒だった。
穏やかに笑ってころんは言う。
絞られた喉。回らない頭で必死に出した言葉は、
ころんの現状への悲しみより、自分の元へ来てくれたことへの嬉しさの方が勝ってしまったようだ。
目の前の想いを寄せている相手をどうにか1人にしないようにと脳を動かす。
震える瞳に優しく笑う。
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船乗り場から海面までは1mほどある。
そこから身投げしようと2人で決めた。
手を繋いで、地面の端に立つ。
「女の子に興味はないかな」
ころんの台詞。なるほどな。
2人で同時に空へ足を踏み出し、ボチャンと青に沈む。
不思議と苦しくない。
その時、突然元の世界の記憶が再生された。
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「何故か女性の方の遺体が見つかっていなくて…」
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水面の月がゆらゆらと揺れている。
最後の泡を、小さく吐いた。
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Fin
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!