第2話

透明な君〜後編〜
1,529
2020/08/29 07:58
さとみside
さとみ
さとみ
てん…し…びょう?
聞きなれない言葉だった。しかし、容易く想像がつく。
さとみ
さとみ
天使病ってお前…背中に羽根でも生えてんのかよ…?
頭が理解に追いつかず、引きつった笑みを浮かべてしまう。
ころんは静かに服を脱ぎ始めた。そしてその背中には────
50cmほどの白銀の羽が生えていた。
ころん
ころん
……き、
ころん
ころん
気持ち悪いよね…!!!こんな…バケモノと一緒…っ!!!
顔を真っ赤にして必死に笑うころん。
俺はその美しさに目を奪われていた。
その羽は雪よりも白く、透き通るようできっと誰しもが1度見たら息を飲むだろう。
さとみ
さとみ
ころん…俺、治るように協力するよ
ころん
ころん
えっ…?!
さとみ
さとみ
ん?
ころん
ころん
受け入れてくれる、の…?!
さとみ
さとみ
…あたり前だろ!!パートナーのピンチ見て見ぬふり出来るわけないって!!
ころんが心配にならないようにわざと大袈裟に笑ってみせる。
ころん
ころん
あ…う…さとみくっ…ほん…っとに…ありが…と…っ
さとみ
さとみ
あーあー泣くな泣くな笑 ほら大丈夫だから、な?
ころんの頭をなでてやるとえへへ、と安心しきった笑顔を見せた。
ころんには今、俺しか頼れる人がいないんだ。
絶対治してやる。
────────────
さとみ
さとみ
…というわけで、まあ天使病の特徴を調べてみたんだけど…
ころん
ころん
うんうん
ころんが身を乗り出してきた。
さっきより元気で活力がでてきた気がする。
さとみ
さとみ
"羽が大きく美しくなっていくにつれ、命を吸い取られ痩せこけて死んでいく病気…"って、こんなえぐいものなんか?!
ころん
ころん
うえ…やばいね…
さとみ
さとみ
治す方法は…まだ見つかってないみたいだな
ころん
ころん
さとみ
さとみ
やばい…またころんが泣き出して…
ころん
ころん
じゃあさ!
さとみ
さとみ
ビクッ お、おう!
ころん
ころん
たくさん栄養をとるとか、羽を手術で取ってもらうとか、色々あるんじゃない?!
さとみ
さとみ
…あぁ!たしかに!お前頭いいなー!
ころん
ころん
え、えへへ///
さとみ
さとみ
もっと方法があるかもしれないし調べてみるか!
──────────────
さとみ
さとみ
…忘れ物ないよな?
ころん
ころん
だーいじょうぶだって!さとみくん心配しすぎwww
さとみ
さとみ
いやあ、でもなあ…
ころん
ころん
…うん、ちゃんと全部持ってる!
じゃあ…行ってきます!
さとみ
さとみ
おう!気をつけてな!
ギイ…バタン
さとみ
さとみ
っはぁ〜〜…
ころんから天使病を告白されてから2週間。
俺ところんは出来ることは全てやった。
カロリーや栄養価が高いものを沢山食べ、間食を一日に何度もした。
あまりいい方法とは言えないが、ころんは通常の天使病の進行スピードより明らかに遅れていたのだ。
医者だって「2週間も経てば大体は亡くなっている」って言ってたし。
今日はころんの手術の日だ。
羽を取り除く手術が出来るようになったのだ。
「さとみくんをびっくりさせたいから!」と1人で行って帰ってくる宣言をされ、ころんを信じて一人で行かせた。
けどやっぱり心配だなあ…
さとみ
さとみ
まあ、ころんなら大丈夫だよな!
さとみ
さとみ
ふあ…1人になったら急に眠気が…
さとみ
さとみ
昨日も徹夜だったし、少しだけ寝るか
ソファーに倒れ込んだ俺は死んだように眠った。
────────────
ピリリリリピリリリリリ
さとみ
さとみ
んぅ…な…誰だよ…
さとみ
さとみ
ふぁあ〜…
ピッ
さとみ
さとみ
もしもし…
救急隊員
もしもし?!桃里さとみさんですか?!
さとみ
さとみ
はい…そうですけど…
救急隊員
青柳ころんさんが車に跳ねられました…!!!
さとみ
さとみ
…は?
救急隊員
今から青柳さんを〇✕病院に搬送しますのでそちらへ向かってください!!!
ピッ
ツ-ツ-ツ-…
さとみ
さとみ
ころん…?車…?はねられ…
さとみ
さとみ
っ!!!!!!
考えるより先に体が動いていた。
気づくと体は外へ飛び出し、俺はがむしゃらに走っていた。
さとみ
さとみ
はぁっ、はぁっ、っは…っ!!!
頭は空っぽ。ただころんの元へ。
【病院】
自動ドアをすり抜けるように入り、受付に飛び込む。
さとみ
さとみ
あおやな…っぎ…ころん…どこ、ですか…っ!!
受付
受付
え…ああ、4階の手術室の前でお待ちください
さとみ
さとみ
ありがとうございます!!!!!
受付の方へお礼を叫びながらエレベーターに飛び乗り『4』のボタンを連打する。
頼む…早く…!!!
ピ-ンと虚しい音がなったと思うと目の前のドアがゆっくり開き始めた。
隙間から体をすりぬかせると。
薄暗い廊下の一番奥に「手術中」という文字が赤く浮かんでいた。
さとみ
さとみ
はあ…はあ…
息を整えつつ近くのベンチに座る。
ただただ時間がすぎていくのを見守った。
─────────────
どれくらい時間が経っただろう。
ただひたすらにころんの安全を願う俺の前に医者が立った。
医者
桃里さん…
さとみ
さとみ
先生…ころん…ころんは無事ですか…?
医者
ゆっくり話すので落ち着いて聞いてください。
さとみ
さとみ
…はい。
医者
青柳さんの手術は2つとも成功しました。ただし…
さとみ
さとみ
…?
医者
はね飛ばされた衝撃で脳がスリープ状態に入っています。世間的な言葉で言うと…そうですね、植物人間でしょうか
さとみ
さとみ
植物…人間…?
医者
申し訳ないのですが、こちらでもいつ青柳さんが目を覚ますか分かりません…。ひたすら待っていただくことしか…
さとみ
さとみ
そう、ですか…
植物人間…
その言葉が俺の頭をぐるぐる回っていた。正直実感がわかなかった。
さとみ
さとみ
ころんの部屋は何号室ですか…?
医者
今日は手術したばかりなのでICUにいます。明日からは8階の個室に移ります。資料があるので、どうぞ。
さとみ
さとみ
ああ、ありがとうございます…
資料と一緒にICUに入るためのカードとマスクも渡された。
─────────
【ICU】
ピピッ
マスクをつけ、カードをドアの横にかざして中に入る。
ころんのベッドは奥か。
さとみ
さとみ
…!!!
ころん
ころん
…ス-ス-ス-
ピッピッピッピッ
さとみ
さとみ
ころん…っ!!!
そっところんの手を握る。
さとみ
さとみ
なあ、ころん…手術成功したんだぞ…もう起きていいんだぞ…
さとみ
さとみ
…俺のせいだよな、俺が…俺があの時1人で行かせなければなあ…
どんどん涙声が交じっていく。
目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
さとみ
さとみ
ほん、と…ごめ…なあ…っ
ヒックヒックと肩を震わせて泣いていると、看護師が1人近づいてきた。
看護師
あの…そろそろお時間が…
さとみ
さとみ
あぁ…すみません…
目は真っ赤に充血し、俺はフラッと力なく立ち上がりそのままICUを出ていった。
意識が朦朧としたまま家路に着き、帰宅すると突然睡魔に襲われた俺はベッドにそのまま倒れ込んだ。
───────────
〇月✕日△曜日
さとみ
さとみ
はー…いい天気だなあ…
ころんが寝たきりになってから半年。
季節は春になり、早いところでは桜が顔をのぞかせ始めている。
最近の俺はというと、定期的にころんの家を掃除しに来たりしている。今はちょうどころんの家にいた。
さとみ
さとみ
お、これ…
さとみ
さとみ
今年も来たのか
ころんの祖母が毎年送ってくれる苺が届いていた。
そういや、いつもこのくらいの時期になるところんが「おすそ分け」つってくれてたな。
さとみ
さとみ
ころんにも持ってってやるかあ〜
病室で食おうかな。
そんなことを考えながらいつも通り支度をして病院へ向かう。
エレベーターで8階まで上がり廊下を歩きながら顔見知りになった看護師に挨拶をしたり。
そしていつものように扉に手をかけた時。
…?何かがおかしい。
機械音が聞こえないのだ。
あの、無機質なピッピッピッと言う音が。
コードが取れたのか…?それならすぐに差し込んでやらないと。
ガラガラッと扉を開けベッドに目をやると──
ビュオッと窓から風が吹き、桜の花びらと一緒に視界に薄い水色の髪の毛が映りこんだ。
ころん
ころん
───さとみくん?
ドサッ
さとみ
さとみ
ころん…?
久方ぶりに聞くその声。
久方ぶりに開かれた透き通るような青い瞳。
久方ぶりに動くその唇。
さとみ
さとみ
あ…あぁ…っ…!
痩せ細って華奢になってしまった肩を覆い被さるように抱くと、背中に手を回される感覚があった。
ころん
ころん
えへへ…遅くなっちゃってごめんね笑
ころん
ころん
ただいま。
さとみ
さとみ
お、かえ…り、っ…!!
ころん
ころん
あはは笑 そんな泣かないで?笑
ころんに頭をよしよしと撫でられる。
その手は小さくて、けどすごく安心できて。
ころん
ころん
んー、とりあえずこの椅子座ったら?これで涙拭きな?笑
ベッドの横のかばんからタオルを取り出し、渡される。
さとみ
さとみ
っあ、ありが、とう…っ…
医者
あぁ、桃里さん!
医者
今朝の10時くらいですかね?突然青柳さんが目を覚ましたんです!
先生がこれまで見た事がないくらいの笑顔で病室へ入ってきた。
医者
我々もこのままだと目が覚めないのではと思っておりましたので本当に良かったです!青柳さんの状態も良いので手続きを澄ませばすぐ退院できますよ
さとみ
さとみ
ほ、ほんとですか?!良かった…本当に良かった…
ころん
ころん
やったあ!!さとみくん、もう早く準備しちゃお!
医者
それでは、受付の方に通しておきますので準備が出来次第ナースステーションへお越しください
────────────────
ころん
ころん
ん〜〜〜〜〜!!
ころん
ころん
はあ!
ころん
ころん
空気が美味しいなあ
さとみ
さとみ
久々の外なのに、フラフラしないのか?
ころん
ころん
ん!大丈夫みたい!
ころん
ころん
…なんかさ
さとみ
さとみ
ん?
ころん
ころん
僕が眠ってる間に本当に心配かけたし、迷惑も…
ころん
ころん
ご、ごめん…
さとみ
さとみ
だーっ!いーんだよ!!俺はころんが無事だったからそれでいーの!!
ころん
ころん
ほ、ほんと?
さとみ
さとみ
ほんとほんと!ほら、早く行こうぜ!
ころん
ころん
うん!!
ころん
ころん
ころん
ころん
…さとみくん!
さとみ
さとみ
なんだ?
ころん
ころん
命の恩人だよ。本当に本当にありがとう!!!
さとみ
さとみ
な、そんな急にやめろよ!w照れるだろ!w
さとみ
さとみ
…いいんだよ、相棒だろ?
ころん
ころん
っ!!う、うん…!!
涙を流したように見えたころんはゴシゴシと目元を擦った。
ころん
ころん
行こっ!!寝てた分、楽しみ取り戻さなきゃ!!
さとみ
さとみ
おう!!
君の髪色によく似た空は、あの透き通った羽と一緒に僕らの涙も吸い込んでいったようだった。
〜Fin〜

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