第7話

花泥棒
846
2020/08/29 13:55
さとちゃんが、死んだ。
莉犬
莉犬
葬式の帰り道。少し前まで手を繋いで2人で帰っていたのに。
莉犬
莉犬
幸せ、だったな
莉犬
莉犬
(あ、あのベンチ…)
そういえば、あそこでコンビニの帰りに2人で肉まん食べたなぁ…
今考えたらあそこでさとちゃんのこと好きになったのかも。
莉犬
莉犬
(あの花屋は…)
21歳の誕生日にさとちゃん、バラ21本買ってきくれたっけ。
「21本のバラは真実の愛って意味だよ」って言ったあと、「キザすぎるか笑」って笑った顔が本当にかっこよかった。
莉犬
莉犬
(あー…)
日常のかたわらにさとちゃんが散っていて、どこを見ても桃色に染まっている。
莉犬
莉犬
(泣かないって決めたのに…)
莉犬
莉犬
…っ
涙を流すのはこれで最後にする、否、なるんだ・・・・
莉犬
莉犬
(あと…1日)
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莉犬
莉犬
さとちゃんっ!!!
さとみ
さとみ
お、莉犬
莉犬
莉犬
大丈夫なのっ?!?!
さとみ
さとみ
な…走ってきたのかよお前…笑
莉犬
莉犬
だ…だってさとちゃんの帰り遅いなって思ったら病院から電話来るんだもん〜…
莉犬
莉犬
結局なんて病気なの…?
さとみ
さとみ
あ、まあ…ガン?
莉犬
莉犬
ガン?!?!
莉犬
莉犬
な…治る…よね…?
さとみ
さとみ
…当たり前じゃん笑
さとみ
さとみ
すぐ治るよ
さとちゃんは鼻を触りながら寂しそうに笑った。
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莉犬
莉犬
さとちゃん最近やつれてきたように見えるんだけど…薬効いてる?
さとみ
さとみ
効いてる効いてる…笑
さとみ
さとみ
…ごめん、眠くなってきたからちょっと寝ていい?
莉犬
莉犬
あ、いいよいいよ!ゆっくり休んで
さとみ
さとみ
ごめ…ありがと
前まで桃色に色づいていた頬も唇も、すっかり色が無くなってしまっていた。
莉犬
莉犬
(いっそのこと、あの時に殺してくれれば…)
俺の初めてはさとちゃんだった。
恥ずかしいような安心したような、色んな感情が入り交じって。それでも確実に俺は幸せだった。
莉犬
莉犬
あの幸せのまま死にたかったよ、俺
昔のさとちゃんの大きな手で首を締めてくれよ。
…なんて、今はもう白くて弱々しいのに
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パチッ
莉犬
莉犬
…今日だ
1人にしてはやけに大きなベッドから起き上がり、ペアの片方の赤いマグカップにコーヒーを入れる。
莉犬
莉犬
(…ちゃんと午後11時)
この日のために昼夜逆転生活をしてきた。
引き出しを開けて、ピンク色の箱を取り出す。
カチッと火がつけて、咥えた煙草に炎を当てる。
莉犬
莉犬
う゛ぇっ…ゴホッゴホゴホッ
莉犬
莉犬
にが…
莉犬
莉犬
(さとちゃんよくこんなの吸ってたな…)
煙草の味が少し、甘くなった。
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莉犬
莉犬
(夜の海って綺麗だなあ…)
青黒い海は波1つたてずに静まり返っている。
莉犬
莉犬
(ねえさとちゃん、俺知ってたよ)
莉犬
莉犬
(さとちゃんは嘘つくときに鼻触る癖あるんだよね)
「治るよ」って言った時も、薬効いてるって笑った時も、鼻ばっかり触ってさ。
莉犬
莉犬
永遠の幸せなんてないんだよ
莉犬
莉犬
花も愛も、いつかは枯れるでしょ?
堤防の上から1歩前に踏み出す。
莉犬
莉犬
(ねぇさとちゃん)
体も意識も沈んでいく。最後の意識、口を開いて。
莉犬
莉犬
生まれ変わったら、また俺の初めて奪いに来てよ
目の前を浮かんでいく泡の、弾ける音がした。
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引用:「さようなら、花泥棒さん」
/メル feat.初音ミク

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