第55話

少しだけ、お別れ
1,090
2023/05/10 12:00
~あなたside~



さて、マネージャー業務はどうにかなることになったけど…

急遽今から実家へ帰らないといけなくなったことを紫耀くんに伝えなくてはいけない


どうやって伝えようかな…と思考を巡らせながら紫耀くんが居るであろう待機室の中に入ろうとした時、とある光景を目にしてしまい胸がギュッと締め付けられた


鳳条
鳳条
……っ、


紫耀くんとレイナちゃんが親しそうに喋ってる
会話までは聞こえないけど、紫耀くんの顔…とても優しそうっていうか、穏やかっていうか…

そんな顔…私以外の人に見せないで…

なんて思ってしまってる私はもう、すっかり紫耀くんのことが好……


平野紫耀
平野紫耀
あれ?あなたさん?
鳳条
鳳条
んえっ!?


部屋の中に入るタイミングを伺ってると、紫耀くんの方から気付いてくれた
でも見ちゃったんだよね、一瞬顔を歪ませたレイナちゃんの顔を…


平野紫耀
平野紫耀
そんなとこで突っ立ってないで入ってくればいいのに
鳳条
鳳条
あはは…なんかお邪魔しちゃ悪いかなって思って
平野紫耀
平野紫耀
ンな事ねえよ。それより差し入れさんきゅ!めっちゃ嬉しい!
鳳条
鳳条
喜んでもらえて良かった
ぁ、レイナちゃんありがとね、渡してくれて
レイナ
レイナ
いえいえ!どういたしまして!


今は私に向けてにっこり笑ってくれてるけど…さっきの顔は一体なんだったんだろう


平野紫耀
平野紫耀
電話してたらしいね?
鳳条
鳳条
うん、実は母からで…
レイナ
レイナ
どうかされたんですか?
さっき急ぎの電話って仰ってましたけど…
鳳条
鳳条
父がね、倒れたんだって…だから今から実家に帰らないと…ぇ、ちょ、紫耀くん!?


私が実家に帰ると言った途端、急に立ち上がった紫耀くん
しかも何か慌てた感じで…


平野紫耀
平野紫耀
すぐに行かねえとじゃん!!
鳳条
鳳条
うん、すぐに行くけど…まさか紫耀くん…
平野紫耀
平野紫耀
俺も行くッ!!だってあなたさんのお父さんが倒れたとかちょー大変じゃん!
鳳条
鳳条
でも紫耀くんが行く必要は...
平野紫耀
平野紫耀
無くねえだろ!?だってあなたさんのお父さんは未来の...
レイナ
レイナ
撮影はどうするの?紫耀くん


紫耀くんの言葉と被せるようにレイナちゃんが口を開いた
レイナちゃんの言葉は本来私が言わなくちゃいけない言葉だけど...

「未来の」

気になるワードを残したまま、紫耀くんはレイナちゃんの問いに答えてしまった



平野紫耀
平野紫耀
やっぱいなくちゃダメだよな...俺
レイナ
レイナ
当たり前だよ!紫耀くんは主演なんだから撮らなきゃいけないシーンもいっぱいあるでしょ?
鳳条
鳳条
レイナちゃんの言う通りだよ、紫耀くん
少しの間、私はいないけど...紫耀くんはちゃんと撮影しなさい
平野紫耀
平野紫耀
...少しの間ってどのくらい?
鳳条
鳳条
それは...父の容態次第だから今は分からない、かな
平野紫耀
平野紫耀
そっか...


しゅん、と肩を落としてる紫耀くん
私だってなるべく早く帰って来れたらいいなって思ってる
それなのに、レイナちゃんは私が思ってることと真逆のことを言ってきた


レイナ
レイナ
この際だからご実家でゆっくりされたらどうです?
鳳条
鳳条
えっ...?
レイナ
レイナ
だって紫耀くんが忙しいってことは、紫耀くんのマネージャーさんも忙しいってことですよね?だからご実家に帰ったらついでにお身体も休んだらどうかと...ね?紫耀くんもそう思わない?
平野紫耀
平野紫耀
ゆっくり休んでほしいとは思うけど...
レイナ
レイナ
ほらっ!紫耀くんもそう言ってくれてるわけですし!
平野紫耀
平野紫耀
でも...あなたさんがいない間...俺はどうなんの?
鳳条
鳳条
もし実家にいるのが長引くようだったら予定が分かり次第事務所に連絡して考えるけど...とりあえず今日はレイナちゃんのマネージャーさんがお家まで送ってくれるって
レイナ
レイナ
ぇ、そうなんですか!?


何故か急にパァ、と表情が明るくなったレイナちゃん
……なんでレイナちゃんがそんな嬉しそうにするの?


平野紫耀
平野紫耀
そっか...ちゃんと色々考えてくれてんだな
鳳条
鳳条
うん、だから心配しないでお仕事に励んでね?
平野紫耀
平野紫耀
わかった...


紫耀くんの表情はレイナちゃんと逆で暗い
もうそろそろ行かなきゃいけないのに...そんな表情されてたら行きにくいよ...


平野紫耀
平野紫耀
あなたさんと...少しだけお別れ、か...
レイナ
レイナ
紫耀くんのマネージャーさんが帰ってくるまで私と撮影頑張ろ?
平野紫耀
平野紫耀
むり
レイナ
レイナ
ぇ、なんで?
平野紫耀
平野紫耀
頑張れは...あなたさんが言ってくんねえと無理だよ


チラッと私に視線を向ける紫耀くん

そうだったね
私が言う「頑張れ」は紫耀くんにとって魔法の言葉ってこの前言ってたもんね

そしたら今日は特別に...飛びっきり心を込めてその言葉を送ってあげよう


鳳条
鳳条
紫耀くん
平野紫耀
平野紫耀
ん?


ゆっくり紫耀くんに近付くと両方の手を取りギュッと握る
そして...


鳳条
鳳条
頑張ってね!!


満面の笑みを浮かべてそう告げると、紫耀くんの顔は、ふにゃっと垂れた


平野紫耀
平野紫耀
おうっ!めっちゃ頑張る!!


よし、これで心置き無く実家へと帰れる

って思ったけど、私と紫耀くんのやり取りを見ながらレイナちゃんの顔が恨めしそうに歪んでたことに気付きもしなかった

プリ小説オーディオドラマ