ざっ、ざっ、ざっ
と私が歩く度にそんな音が鳴る。
目の前は真っ暗で、携帯電話からの光でかろうじて見えるくらい。
山へと入ってきたけれど、狐火らしきものは見当たらない。
(やっぱり伝説は伝説なのかな…。)
ため息がこぼれる。
祖父のあの言葉は嘘、か。
まぁユーモアがあって良かったけど。
ぽつり、とそう呟き、踵を返す。
残念だけど、この冒険?は楽しかったから良いかも。
(さすがにそろそろ眠くなってきたな…。)
欠伸をすると、うっすらと開けた目の端に、淡い赤色が映る。
それ はふよふよと浮いており、蛍でもないようだった。
そもそも赤い蛍なんて聞いたことがないし、見たこともない。
(も、もしかして…。)
その光は、現れては消え、現れては消え。
次第に2個、3個、と増えていく。
携帯の光を消しても周りが見えるくらい明るく、まるで案内をされているよう。
1列になった光…否、狐火は山の奥へと進んでいく。
(見失わないようにしないと…!)
私が調べた限り、狐火は追いかけているうちに消えるらしいから…。
目を開き、出来るだけ瞬きをしないよう注意しながら山道を進む。
だけど狐火が消える様子はない。
本当に、案内されてる?
ここまで来たのなら、もうどこまででも着いてってやろう。
朝になる前に帰れば良いのだ。
考え込んでいると、危うく見失うところだった。
危ない危ない。
私はぬかるんだ地面を蹴り、駆け出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。