第20話

次の約束
3,710
2021/03/22 04:00
私が選んだのは、文庫本。

福原くんは、花言葉の図鑑のような本を選んでいた。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(チョイスが可愛い……。花言葉とか、興味があるんだ)
見た目とのギャップもあって、余計にそう感じる。
一ページ目から読み進める私とは違って、福原くんは最初にもくじを調べて、パラパラと目的のページまでめくっていく。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(気になっている花があるのかな?)
福原くんの手が、とあるページで止まる。
福原 雪哉
福原 雪哉
茉莉花は、白、黄色、ピンク、青だとどれが好き?
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
四色? それなら、白かな
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(占い?)
福原 雪哉
福原 雪哉
へー、ピッタリ
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
ピッタリ?
本に指で差され、覗き込む。

ジャスミンのページ。
福原 雪哉
福原 雪哉
“茉莉花”って確かジャスミンの一種だっただろ。名前聞いた時から気になっててさ
私の名前は、茉莉花と書いて“まりか”と読むけど、
花の名前の方は、茉莉花と書いて“まつりか”と読むらしい。

読み方は少し違うけど、小さい頃にそれを知った時から、私にとってジャスミンは、一番好きな花だった。
福原 雪哉
福原 雪哉
ジャスミン自体の花言葉は“愛らしさ”で、
白だと“温順”と“柔和”だってさ。
茉莉花にピッタリだよな
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(福原くんが気になって、わざわざ調べたのが“茉莉花”?)
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(それに、ピッタリって……)
私は私が、ずっと嫌いだった。

人が苦手で、両親ですら呆れるほど、本の世界にばかり入り込んで。

暗い、無口、地味。


そんなふうに言われるだけだった私を……。
福原 雪哉
福原 雪哉
白が好きなら、ちょうどよかった。手、出して
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
うん……?
差し出した手のひらに、小さな包みが乗せられる。

近くにある雑貨屋さんの紙袋で、軽くテープ止めされてある。
福原 雪哉
福原 雪哉
開けてみて
言われるがままに、テープを剥がす。

中から、小さな白い花が三つ付いたヘアピンが現れた。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
えっ、これって……
福原 雪哉
福原 雪哉
それ、ジャスミンの花なんだってさ。茉莉花に似合いそうだったから
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
でも、そんな、私、代わりに何も……
福原 雪哉
福原 雪哉
それも、いつものお礼だと思って、もらって。茉莉花に持っててほしい
鼓動が速くなる。

ずっと見ていたいのに、目を合わせられない。

この気持ちは。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
ありがとう……、大事にする
ギュッと胸に抱きしめる。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(……どうしよう。分かってしまった)
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(私、きっと、福原くんのことが好きだ)
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(ニセモノの彼女なのに)
しばらくすると、店員さんがメニュー表を取り替えた。

時刻は、11時。

ランチタイムに突入したらしい。
福原 雪哉
福原 雪哉
昼もここでいい?
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
うん、私は……
福原 雪哉
福原 雪哉
そっか。茉莉花が気に入ったんなら、今日はここでゆっくりしようと思ってたから
福原くんが、本当にずっと優しいから、勘違いしそうになる。
結局、ランチタイムの終了時刻ギリギリまで長居してしまい、時刻は午後三時。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
ごちそうさまでした
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
でも、こんなに長く居座っちゃって、よかったのかな
本を読むのに没頭ぼっとうしすぎて、店員さんに声をかけられるまで気づかなかった。
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(迷惑じゃなかったらいいんだけど……)
福原 雪哉
福原 雪哉
ああ、それなら大丈夫。前にここを見つけた時に、聞いておいたから
福原 雪哉
福原 雪哉
店長が本好きで、本が好きな人なら、時間内ならいくらでも居て欲しいって言ってたし
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
……福原くんは、すごいね。本を持っちゃうと、そこから動かなくなっちゃう私を予想してたんだね
福原 雪哉
福原 雪哉
当たり前だろ。最近毎日一緒にいるんだから
福原 雪哉
福原 雪哉
楽しかった?
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
うん、すっごく!
福原 雪哉
福原 雪哉
それなら、次のデートもここだな
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
……次?
福原 雪哉
福原 雪哉
あ、嫌だったら無理にとは
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
ううん! また一緒に出かけてくれるの? 嬉しい!
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(すごい。次の約束だなんて)
吉岡 茉莉花
吉岡 茉莉花
(本当に、デートみたい)

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