私が選んだのは、文庫本。
福原くんは、花言葉の図鑑のような本を選んでいた。
見た目とのギャップもあって、余計にそう感じる。
一ページ目から読み進める私とは違って、福原くんは最初にもくじを調べて、パラパラと目的のページまでめくっていく。
福原くんの手が、とあるページで止まる。
本に指で差され、覗き込む。
ジャスミンのページ。
私の名前は、茉莉花と書いて“まりか”と読むけど、
花の名前の方は、茉莉花と書いて“まつりか”と読むらしい。
読み方は少し違うけど、小さい頃にそれを知った時から、私にとってジャスミンは、一番好きな花だった。
私は私が、ずっと嫌いだった。
人が苦手で、両親ですら呆れるほど、本の世界にばかり入り込んで。
暗い、無口、地味。
そんなふうに言われるだけだった私を……。
差し出した手のひらに、小さな包みが乗せられる。
近くにある雑貨屋さんの紙袋で、軽くテープ止めされてある。
言われるがままに、テープを剥がす。
中から、小さな白い花が三つ付いたヘアピンが現れた。
鼓動が速くなる。
ずっと見ていたいのに、目を合わせられない。
この気持ちは。
ギュッと胸に抱きしめる。
*
しばらくすると、店員さんがメニュー表を取り替えた。
時刻は、11時。
ランチタイムに突入したらしい。
福原くんが、本当にずっと優しいから、勘違いしそうになる。
*
結局、ランチタイムの終了時刻ギリギリまで長居してしまい、時刻は午後三時。
本を読むのに没頭しすぎて、店員さんに声をかけられるまで気づかなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。