──最近、気になっている人がいる。
綺麗に染まった、鮮やかな茶色い髪の毛。
着崩したブレザーは、近くの公立高校のもの。
真剣な眼差しで本を見つめる、横顔。
放課後に通っている街の図書館には、他校生の男子がいた。
*
放課後の教室で、友達のはつみちゃんに手を振る。
扉の近くで大きな声を上げながら楽しんでいる生徒たちの後ろをそっと通ろうとしたけど、ぶつかってしまった。
本当はちょっと肩が痛んだけれど、そんなことは口に出せるはずもない。
教室を出ても、相変わらず賑やかな声は絶えない。
……聞こえてますけど。
あんなこと、もう言われ慣れているけれど、傷つかないわけではない。
吉岡茉莉花、高校二年生。
地味に、目立たないように、今日もひっそりと生きています。
*
そんな私の日課は、放課後に街の図書館に通うこと。
静寂。360°どこを見ても本棚ばかり。本のにおい。
学校から徒歩15分ほどの場所にあるそこは、癒しの空間そのもの。
1歩踏み出して、すうっと空気を吸い込む。
ホッと息を吐いて、新刊コーナーへ。
本を選び、10人くらい着ける大きなテーブルの前の、お気に入りのソファーへ座る。
5ページほど読み進め、すっかり本の世界に入り込んだ頃、カタンとテーブルが鳴いて、ハッと顔を上げた。
テーブルの斜め前の席に、他校の男子生徒が座った。
彼の目の前には、ハードカバーの単行本。
鮮やかな色の髪の毛と、着崩した制服のブレザー。
私が苦手としている、スクールカーストトップにいるタイプの人。
真剣な眼差しで本を見つめる姿は、なんだかミスマッチ。
──彼は、今一番に気になる人。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!