悠虎を玄関まで見送って数分が経ち、次は私が家を後にしなければならない。
スマホを触っていた指を止め、用意に手を向けた。
前回の授業でインクが切れてしまった赤ペンを見て、しまった、とわかりやすいであろう表情を浮かべた。
自分の部屋のデスクの引き出しを開けると、予備の赤ペンがひょっこりと顔を出しているようだった。
良かった、と安堵し、直ぐにペンケースに入れた、
そして鞄を持ち、家を出た。
冬の朝は当然のごとく寒い。
冷たい風が吹き、容赦なく皮膚に当たる。
それが嫌でマフラーに顔をうずくめ、駅まで歩いた。
と、電車に座った直後、通路を通りかかった男性がパスケースを落とした。
私はそれをとっさに拾い、落とし主であろう男性に声をかけた。
私が渡したパスケースを受け取った男性はどこか見覚えのある制服を来ていて、身長が高く、そして…髪色が金色だった。
そう言うと男子高校生は座る場所を探すようにして歩いていった。
そして、気がかりなのが見覚えのある制服…。
と気づいた。
私の母校である『藍音坂高校』の制服だ…。
確かに、藍音坂高校に勤務する悠虎もこの電車に乗っている。
藍音坂の生徒だと確信した。
今度悠虎に聞いてみよう、と、思っていたら、ゆっくりと電車が動き出した。
所々雪が薄く積もっている。
外に出るには寒すぎるけど、この景色も悪くない。そう思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。