第2話

”カップルみたい!?”
10,487
2020/01/10 15:24
毎日、眠い目を擦って電車に乗って。
2駅先の県立高校に通う。

授業中はもっぱらボーッと窓の外を見て過ごし、休み時間は友達と流行りのコスメや、恋バナなんかに花を咲かせて。

放課後になれば、カメラに向かってポージングを決めて、眩しいほどのフラッシュを浴びる。

───そんな私の毎日は、
来栖
来栖
遅い、3分遅刻だ
栞那
栞那
こ、これでもかなり急いで……!
来栖
来栖
でも、遅刻は遅刻だろ?
栞那
栞那
……むっ、
この男に出会って一変した。


朝は毎日、車でマンションまで迎えに来て、放課後は私の通う高校からほんの少し離れた場所で待っている。

そのまま撮影現場まで私を送った後、仕事を終えた私を再び迎えに来て、マンションまで送り届けると帰っていく。


まるで、専属の運転手だ。
もちろん、それもこれも全部、ストーカーから私を護衛するためで、捜査の一環なんだけど。
来栖
来栖
で、今日は?
栞那
栞那
昨日と同じ現場まで
来栖
来栖
了解
初めて会った日から、早いもので1週間と少し。

相変わらず意地悪で、性格がひねくれてて。
6つも年上のくせに大人気なくて。
栞那
栞那
毎日、私の送り迎えばっかりで
来栖さん、仕事してるの?
来栖
来栖
してるように見えるか?
栞那
栞那
……全く、見えない
来栖
来栖
なら、してないんじゃねぇの
栞那
栞那
え!ほんとに1日中、
私を送り迎えするだけが仕事なの!?
来栖
来栖
配属されてから1番イヤな仕事だよ
栞那
栞那
ちょっと!どういう意味!?
フッと鼻で笑って、少しだけ口元を緩める。
その仕草に、無意識のうちに見惚れていることに気付いて、慌てて目を逸らす。

ほんと……無駄に顔だけはいいんだから。

ムカつくことばかりだけど、最近はようやくこの人の意地悪にも慣れてきた。


【撮影現場】
カメラマン
栞那ちゃん、今日もいいよ〜!
カメラマン
もっと自由に動いてみて!
カシャカシャとシャッター音が響いて、フラッシュの光が反射する。

何度も着替えて、色んな雰囲気の服を身にまとい、その服の雰囲気に合わせてポージングをする。

いつも3時間は軽くかかる撮影を、最後まで笑顔を絶やさず、疲れを見せずに終えなければならない。

それが、モデルという仕事。
カメラマン
よーし!
じゃあ、10分休憩挟んで
ラストの撮影しようか!
そんなカメラマンの声に、フッと肩の力が抜ける。

この仕事は好きだけど、求められれば求められるほどその分、プレッシャーも大きくなる。

特にここ最近は、そんなプレッシャーに押しつぶされないように、いつも必死に仕事をこなしているような気がする。
小林 かおる
小林 かおる
栞那、お疲れ様
栞那
栞那
かおるちゃん、ありがとう
すかさず差し出されたペットボトルを受け取りながら、かおるちゃんに笑顔を向けた私は、
来栖
来栖
……お疲れ
栞那
栞那
な、なんでいるの!?
目の前に来栖さんの姿を見つけて、思わず目を見開いた。

……慌てて回りを見渡すけれど、ここは撮影現場で間違いない。
小林 かおる
小林 かおる
時間になっても連絡がつかないから
って、心配して来てくれたのよ
栞那
栞那
……え?
そう言いながら、私のスマホを差し出したかおるちゃんから、スマホを受け取れば。

そこには20時35分の文字。

……うわ、もうこんな時間?
来栖さんには20時に迎えに来てもらうことになってたから……待たせちゃったんだ。

しかも、3回も着信入ってる。
栞那
栞那
待たせちゃって、ごめんなさい!
来栖
来栖
……無事ならいい
いいもんも見れたしな
栞那
栞那
し、心配してくれたの?
来栖
来栖
当たり前だろ。
護衛頼まれてんのにお前に何かあったら
俺のメンツに関わるからな
栞那
栞那
むっ、それじゃあ……
”いいもん”って、何?
私の頑張ってる姿とか!?
来栖
来栖
……バカ、自惚れんな。
仕事なんだから頑張って当たり前だろ
栞那
栞那
……もう!ちょっとくらい
褒めてくれてもいいじゃん
栞那
栞那
なんでそんなにひねくれてんのよ!
もっと素直に”心配した”って
言えないわけ?
来栖
来栖
俺は事実しか口にしないんだよ
栞那
栞那
”俺を信じて護られてください”
とか恥ずかしいこと言ってたくせに
来栖
来栖
……お前、今日歩いて帰れよ?
栞那
栞那
え!?……そっ、それはヤダ!
小林 かおる
小林 かおる
……アハハッ
いつもみたいにキーキーと言い合う私と来栖さんを見ていたかおるちゃんが、突然堪えきれないとばかりに笑い出すから、私と来栖さんは訳が分からず顔を見合わせた。
小林 かおる
小林 かおる
まるでカップルみたいね
小林 かおる
小林 かおる
2人とも、いつの間にそんなに
仲良くなったの?
栞那
栞那
カッ、カップルって……!
来栖
来栖
俺も警察官相手に、
こんな生意気言う高校生は
初めてですよ
栞那
栞那
なによ〜!
来栖
来栖
すぐムキになる
バカにした言葉とは裏腹に、びっくりするほど優しく笑うから……。

不覚にもドキッと心臓が跳ねた。
栞那
栞那
帰り、コンビニ寄って
来栖
来栖
コンビニ?
栞那
栞那
今日はやけ食いするって決めたの!
来栖
来栖
ふっ……太るぞ?
栞那
栞那
いつも気をつけてるんだから
たまには……いいの!
栞那
栞那
……いや、でも……
来週も大事な撮影控えてるし
……やっぱり、やめておこうかな
来栖
来栖
……ぶっ
栞那
栞那
なんで笑うのよ!
来栖
来栖
いや?……くくっ、
すげぇなと思って
栞那
栞那
バカにしてるでしょ……
来栖
来栖
褒めてんだよ。
さっきも……自分が大変な時でも
ちゃんとプロとして仕事してる姿、
かっこいいなって思ってた
栞那
栞那
……!!
なんだろう、この感覚。
ギュッと胸を掴まれたみたいに苦しいのに、ポカポカと温かい気持ちが溢れてくる。


来栖さんの真っ直ぐな言葉を、素直に嬉しいと思った。
来栖
来栖
……あ。
ちょっと褒められたからって
調子に乗るなよ?
栞那
栞那
の、乗らないし!!
私が喜んでいるのを見透かしたように、ニヤッと口角を上げた来栖さん。

やっぱり、意地悪く笑う来栖さんを見ると、バカにされてるみたいで悔しい!!って思う。

だけど、もしかしたらこの人の中にも優しさってものが存在していて。

分かりづらいけれど、その分かりづらい優しさを時々私にも与えてくれているのかもしれない……なんて思った。
小林 かおる
小林 かおる
やっぱり、カップルみたいね
小林 かおる
小林 かおる
間に入る隙もないくらい仲良しで
見てて微笑ましいわ
栞那
栞那
か、かおるちゃん……!
小林 かおる
小林 かおる
あら、いいじゃない?
今どき年の差なんて関係ないし
小林 かおる
小林 かおる
恋をすると綺麗になるって言うし?
仕事がんばってくれるなら全然OK
来栖
来栖
6つも下の”高校生”とデキてるなんて
噂が流れたら”警察官”としては
シャレにならないですね
「冗談、冗談」なんて笑うかおるちゃんに、もう!と思いながらずっと手に持ったままだったペットボトルの水を口に含んだ。

口の中が潤って、知らず知らずのうちに口の中が乾いていたことに気付かされる。
カメラマン
よーし!
じゃあ、ラストの撮影に入ろう〜!
栞那
栞那
うそ、もう休憩終わり?
カメラマンの声に、一気に現実に引き戻されたような気分になる。

慌ててペットボトルとスマホをかおるちゃんに預けて、撮影へ戻ろうとした私は、
栞那
栞那
.......っ、
チラリと視界に映った来栖さんの口元が、音もなく「が」「ん」「ば」「れ」と動いたのを見逃さなかった。

あぁ、もう!!不意打ちばっかり。

こんな適当警官なんかに簡単にドキドキさせられてしまう自分が悔しい。


来栖さんに見られながら撮影するって思うと、不思議と緊張する。
栞那
栞那
(もっと綺麗に見えるポージングを練習しよう.......!)
なんて思ったことは、来栖さんには絶対内緒だ。

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