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第1話

ストーカーは犯罪です
16,444
2019/11/08 04:09
私、倉木 栞那くらき かんな

中高生向けのファッション雑誌『 Lovelyラブリー』の専属モデルをしている。

自分で言うのもなんだけど、現役女子高生モデルとしてそれなりに知名度も高くて、若い子の間では結構人気があったりする。

最近じゃCMやドラマのオファーも頂けるようになった。

たくさんのファンが私を応援してくれることは、もちろん嬉しいけれど、有名になればなるほど困ったことも増えて……。


───ガチャガチャ
栞那
栞那
あれ.......?
モデルとして活動を始めた私は、所属事務所が借りてくれたマンションに一人暮らし中。

両親との暮らしが恋しくなることもあるけど、電車で30分ほどの距離にある実家には頻繁に会いに行ってるし、案外一人暮らしも悪くない。


今日も学校帰りに雑誌の撮影を終わらせて帰宅した私は、いつも通り部屋の鍵を開けようと鍵を差し込んだ。


だけど───。
今朝、確かに鍵をかけて家を出たはずなのに。


差し込まれた鍵は、もう既に部屋の鍵が開いていることを伝えている。
栞那
栞那
おかしいな……。
私ってば、鍵閉め忘れたのかな?
不思議に思いながら、ガチャリとドアを押し開いて部屋の中へと1歩足を進める。


いつものように手探りで電気を付け、パッと明るくなった部屋の中を見た瞬間、心臓が大きく波打った。
栞那
栞那
っ.......なに、これ
開けっ放しのタンスや引き出し、あちこちに散乱した洋服、綺麗に畳んでいたはずの毛布がぐしゃぐしゃになったベッド。

.......もしかして……!?
そう思った瞬間、背中を冷や汗が伝う。
同時に全身が震え出す。


慌ててバッグからスマホを取り出した私は、震える手でマネージャーに電話をかけた。
小林 かおる
小林 かおる
もしもし、栞那?
栞那
栞那
か、かおるちゃん……!?
今どこにいる?
───小林かおる。
私がモデルとしてデビューしてからずっと、一緒に頑張ってきた誰より信頼できる人。

普段は、親しみを込めてかおるちゃんと呼んでいるけれど、今年30歳を迎えた彼女は仕事のできる大人の女性だ。
小林 かおる
小林 かおる
……?
どうしたの?何かあった?
栞那
栞那
へ、部屋が……!!
誰かに荒らされたみたいなの……
小林 かおる
小林 かおる
え……!?強盗?それとも……
今、近くにいるからすぐ向かうわ!
栞那
栞那
分からない……
また”アイツ”の仕業かも。
……まだ近くにいたらどうしよう
小林 かおる
小林 かおる
……やっぱりもっと早くに
警察に相談するべきだった
栞那
栞那
かおるちゃん……
早く来て……怖いよ
「私の判断ミスだわ」と、続けて申し訳なさそうに謝るかおるちゃんに、電話口で小さく「ううん」首を振る。


そう、私はここ数ヶ月、ストーカー行為に悩まされていた。犯人は特定出来ていない。

帰り道に後をつけられたり、事務所に差出人不明の贈り物が届いたり、無言電話がかかってきたこともあった。
だけど、まさか……家を荒らされるなんて想像もしてなくて。予想外すぎるできごとに軽いパニック状態のままその場にうずくまってかおるちゃんが来るのを待った。
【警察署】


───翌日。
私は学校を休み、かおるちゃんに付き添われて警察署を訪れた。

昨日はあれからすぐにかおるちゃんが来てくれて。

警察へ連絡したら”今日のところはとりあえず精神的にも疲れただろうからゆっくり休んで、明日、警察署で詳しい話を聞かせて欲しい”


───と、言われたらしく。
そのままかおるちゃんのマンションに泊めてもらった。

けれど、私の中の不安が消えてくれることはなくて……気付けば、眠れないまま朝を迎えていた。


そして……。
来栖
来栖
ストーカー対策室対策第1係
来栖俊太くるす しゅんたです、よろしく
大野
大野
来栖は23歳の新米ですが、
誰よりも仕事ができるエリートで
栞那
栞那
……は!?
新米警官……!?
大野
大野
いえ、新米とは言っても
きちんと警察学校を卒業して
日々、研修を受けていますので
来栖さんの先輩らしい大野さんという人は、来栖さんと大して歳が変わらないように見える。

おまけに、私を言いくるめようとニコニコ胡散臭い笑顔を向けてくるし。正直、こういう人、苦手だな……と思いながら絶望的な気持ちになる。


新米警官を担当に付けられるなんて、もしかして私が高校生だからってなめられてる?
小林 かおる
小林 かおる
事務所側としましても、
栞那の身に危険が及ばないよう、
きちんと護衛をお願いできる方に
担当していただきたいのですが
大野
大野
安心して下さって大丈夫ですよ!
私たちもしっかり考えた上で
来栖を選任しましたから
「な?」と、来栖さんの肩を叩く大野さんに、一瞬、来栖さんの眉間にシワが寄った……気がした。

うわ……態度に全部出る感じの人!?
栞那
栞那
こんな新米警官で本当に大丈夫なの?
栞那
栞那
いざって時、この新米警官は
ちゃんと私を護ってくれる?
生意気だって思われたっていい。
むしろ、大人しいと思われるよりずっといい。

うるさいくらいに噛み付いて、適当になんか扱われてやらないんだから。

そんな気持ちで口を開いたのに───。
来栖
来栖
……なるようになる
栞那
栞那
……っ、は!?
めんどくさいと言わんばかりに、冷めた目。
”成り行き任せ”と言わんばかりのセリフ。
来栖
来栖
人気モデルだろうが、なんだろうが
俺にとってはただの一被害者、だ
来栖
来栖
護って欲しいなら口に気をつけろ
……って、その女に伝えてください
小林 かおる
小林 かおる
……えっ、
散々、私の顔を見ながら言いたい放題言っておきながら、最後はかおるちゃんへと視線を向けて下手くそな笑顔を作った来栖さん。

あの出来る女代表のかおるちゃんが、思わず横でフリーズしている。
栞那
栞那
全部、バッチリ
聞こえてるんですけど!?
大野
大野
おい、来栖……!
すみません、後でキツく言っときます
小林 かおる
小林 かおる
……と、とりあえず!
事務所側が高セキュリティマンションへ
引っ越し手配を整え次第、場所の共有を
大野
大野
分かりました!
今後の流れとしましては
しばらく調査が続くことになります
栞那
栞那
……調査?
来栖
来栖
ストーカーを特定して
捻り潰すための調査です
来栖
来栖
そのためには安心して
過ごせるようになるまでの間、
来栖
来栖
俺を信じてまもられて下さい
栞那
栞那
……っ!
なにこれ。
真っ直ぐ見つめられただけで、ビビっと痺れる感覚に思わず体を抱きしめる。

口は悪いし、愛想はないし。
23歳の新米警官のくせになんか偉そうだし。


……それなのに、それなのに。
栞那
栞那
ちゃんと、まもってよね

その迷いのない瞳を見つめ返せば、ブワッと体中から熱が込み上げてくる。

こんな適当人間が担当なんて本当にツイてないし、この先まだまだ不安で仕方ないけど。

今は……この男を信じる以外に道はなくて。


───あぁ、神様……。
どうか私に、平穏な毎日が戻りますように。

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