前の話
一覧へ
次の話

第10話

甘く、優しく交わる気持ち
8,145
2020/01/10 04:09
いつもより長引いた撮影も、何とか無事に終え、駅までの道をかおるちゃんと並んで歩く。
小林 かおる
小林 かおる
冷えるね〜
栞那
栞那
本当、寒すぎる
車持ってる彼氏でも作ろうかな
小林 かおる
小林 かおる
あ、それいいね
賛成〜
栞那
栞那
アハハ、でも大野さんは
運転できるじゃん?
車、持ってないの?
小林 かおる
小林 かおる
こら、大野さんは
彼氏じゃないでしょ?
栞那
栞那
イイ雰囲気だと思うけどな〜
クリスマスも一緒だったんでしょ?
小林 かおる
小林 かおる
あれは、一緒だったって言うか
本当にたまたま遭遇して
ノリで一緒に過ごすことになって
小林 かおる
小林 かおる
あっ!先に言っとくけど
大野さんとは本当に何もないから!
栞那
栞那
……そんな必死に否定されると
逆に怪しいんですけど〜
小林 かおる
小林 かおる
……何言ってもこうなるのね。
さすが現役女子高生、
恋バナに引きずり込むのが上手い
栞那
栞那
まあね〜!友達の恋バナ聞くのが
最近の楽しみだったりするし
小林 かおる
小林 かおる
でも、栞那くらい可愛かったら
学校でもモテるでしょ?
小林 かおる
小林 かおる
てか、モデルだったり俳優だったり
そっち方面からも声かけられない?
栞那
栞那
そんなことないよ。
みんな、私が好きってよりも
モデルの彼女が欲しいって感じ
小林 かおる
小林 かおる
……なるほど。
モデル特有の悩みね
栞那
栞那
あー!
早く次の恋に進みたいな〜
小林 かおる
小林 かおる
栞那はまだまだこれからでしょ?
私はもう三十路……。あとがないわ
栞那
栞那
かおるちゃんはとにかく
大野さんにアタックするべし!
小林 かおる
小林 かおる
……この歳になると
勢いだけじゃ動けないわよ!
とりあえず、明日は駅で待ち合わせて
スケジュール確認しながら
一緒に現場入りしましょう
栞那
栞那
そういうもん?

了解〜!じゃあまた明日ね!
駅のホームでかおるちゃんと別れて、ひとりになった瞬間。

今でもふと、伊吹のことを思い出す。
同時に来栖さんのことも思い出して……。そうすると、自然と恐怖や不安が消えていく。

大丈夫って思える。

会えなくなった今でも、私のことを護ってくれる来栖さんは、私にとって永遠のヒーローだ。
【栞那のマンション】

エレベーターに乗り込んで、ふとスマホを見れば、21時を少しすぎたところ。

昨日とほぼ同じ時間だな〜なんてぼんやり思っていた私に、チンッとアナログな音が聞こえてエレベーターのドアか開いた。

月明かりだけに照らされた、見慣れた共用廊下を進んで、もうすぐ私の部屋の前ってところで、壁に持たれて立ち尽くす人影を見つけて思わず一瞬で冷や汗をかく。
栞那
栞那
っ……!?
伊吹は逮捕されて、今も刑務所にいる。

頭では分かってるのに、もしかしたら”アイツかも”なんて思ってしまうほど、私の中に根深く居座る伊吹の存在。

完全に恐怖で動けなくなった私に、その人影がゆっくりと顔を向けた。


───ドキッ


その人を見た瞬間、上手く呼吸が出来なくなって、心臓は壊れそうなくらい波打った。

ずっと、ずっとずっと会いたかった人だったから。
来栖
来栖
よぉ
栞那
栞那
……来栖さん!?
なんで、ここにいるの?
短い挨拶の後、私に向かって歩いてくる彼はすっかり元通り。

……良かった、元気になって。

”傷口に響く”なんて言ってたのがまるで嘘みたい、
来栖
来栖
管理人に警察官だって話して
特別に入れてもらった
栞那
栞那
い、入れてもらったって……
警察官だってこと
そんな簡単に信じてもらえたの?
来栖
来栖
……さすがに、これ見たら
信じないわけにいかねぇだろ
そう言って、来栖さんが胸ポケットから取り出したのは警察手帳だった。
栞那
栞那
……職権濫用
来栖
来栖
フッ、なんとでも言え
栞那
栞那
こんなに寒いのに
いつから待ってたの?
来栖
来栖
そんな待ってねぇよ。
栞那がいつ帰ってくるか、
だいたい予想出来たし?
来栖
来栖
……でも、すげぇ長く感じた
栞那
栞那
……っ、
暗がりの中で、伏し目がちな来栖さんの表情はよく分からない。

───だけど。

来栖さんの言葉が『会いたかった』って意味に聞こえて、慌てて自分に”そんなはずない”って言い聞かせた。
栞那
栞那
急に来るなんて
……どうしたんですか?
来栖さんとの間に見えない境界線を引こうと、咄嗟に敬語を使ってみたけど、違和感が境界線を浮き彫りにしていく。
来栖
来栖
昨日から、なんなんだよ
栞那
栞那
……え?
来栖
来栖
それで俺との間に
距離作ってるつもりなら、
無駄だから諦めれば?
栞那
栞那
……どういう意味?
別に距離作ろうなんて
来栖
来栖
退院しても会いにも来ねぇのな
栞那
栞那
そ、それは……ごめん。
元はと言えば私のせいで怪我したのに
来栖
来栖
そういう意味で言ったんじゃなくて、

……会いたかったって言ってんだよ
───ドクンッ
栞那
栞那
な、なに言ってんの
来栖さんの瞳が、真っ直ぐ私を射抜く。

何を言われたか一瞬理解出来ずに、脳内で噛み砕くように何度も何度も来栖さんの言葉を繰り返した。
来栖
来栖
気づけば栞那のこと考えてた
ずっと、会いたかった
夢でも見てるみたいな、来栖さんの言葉に息を飲む。

だって、それじゃまるで……来栖さんも、私と同じ気持ちなのかもって勘違いしてしまいそうで。
栞那
栞那
またそうやって冗談ばっかり……
私のことからかって遊んでる?
来栖
来栖
からかってねぇよ
栞那
栞那
嘘ばっかり……!
栞那
栞那
……私は、会いたかったよ
ずっとずっとずーっと
寝ても醒めても忘れられなくて
栞那
栞那
会えない間も
来栖さんのことばっかり考えてた
栞那
栞那
だけど、高校生の私じゃ届かない。
相手は23歳で、ましてや警察官で、
私なんか眼中にもなくて、
おまけに超美人な彼女までいる
栞那
栞那
……やっと、諦めるって決めたのに
栞那
栞那
どうして会いに来るのよ!!
……これ以上、好きになる前に
来栖
来栖
もう、俺が手遅れだ

───グイッ
栞那
栞那
っ!?
来栖さんの声が聞こえた次の瞬間には、強く腕をひかれて。

驚きに声を出す暇もないまま、来栖さんの腕の中に閉じ込められた。来栖さんの匂いに包まれて、何も考えられない。
来栖
来栖
そもそも超美人な彼女って誰だよ
……彼女なんて、いねぇよ
栞那
栞那
……う、うそ!
だって病院で会った麻実さん
来栖
来栖
あれは!姉貴。
……あいつ、いい歳して
かなりのブラコンなんだよ
栞那
栞那
……お姉さん?
来栖
来栖
……本当は、このまま
気持ちごまかして終わらせようって。会わなくなったら忘れられるって思ってた
来栖
来栖
だけど、全然消えねぇ
来栖
来栖
高校生なんてありえねぇって思ってた。
でも、仕方ねぇだろ。
……好きなんだから
栞那
栞那
〜〜っ!
一生、交わることなんてないと思ってた。

私を命懸けで守ってくれたヒーローからの、熱い言葉たちに胸が焦げ付くような心地のいい甘さが広がっていく。
来栖
来栖
仕事だから、なんて嘘。
お前だから命掛けてでも護りたかった
栞那
栞那
来栖さん……っ
ギュッと私を抱きしめる腕に力を込めるから、私もその背中に抱きついた。

2人の距離がゼロになって、さっきまで感じていた寒さが嘘みたいに暖かい。
来栖
来栖
これからも誰よりも傍で
栞那のこと護らせて欲しい
栞那
栞那
……っ、本当に私でいいの?
まだ高校生だし、生意気だし、
その上すっごくワガママだし
来栖
来栖
……知ってる。
全部ひっくるめて、栞那がいい
栞那
栞那
……っ、私も。
口が悪くて、意地悪で、その上
すっごく偉そうな来栖さんが好き
来栖
来栖
……好き?
栞那
栞那
だ、大好き!
来栖
来栖
なら、俺の勝ちだな
栞那
栞那
え?
来栖
来栖
俺は、愛してる
栞那
栞那
〜〜っ!!
他の誰かじゃ満たせない。
来栖さんの代わりなんていないから。

この先、変えることのできない年の差を、ふたりの愛で埋めていこう。

そして、ずっとずっと私だけのヒーローでいてね。

プリ小説オーディオドラマ