第30話

この痛みは…
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2018/07/07 07:47
「ねーねーお父さん!」

「ん?なんだ」

「空港まで後どのくらいー?」

「そうだなー、10分ぐらいだろう」

「わーい!もうすぐだ!」

昔の私はとにかく元気でうるさかったと言う。

当時、小学六年生。12歳だ。

その日は、みんなで家族旅行に行く日で今は空港へ向かっているところだった。

そこで、事故は起きた…

父が突然

「危ない!!」

と大きな声を出したんだ。

私は突然の事で気付かず隣にいた兄、快斗が私を守るように抱いた。

「きゃぁぁぁ!」

母は叫んだ。

そして、私も気が付いたら目の前に大きなトラックが左に寄っており、父と兄が見当たらなかった…

そして、いつの間にか病院にいた。

兄は即死だった…。
私を守るためにトラックの後ろ部分が直撃だったらしい。

父は、体が麻痺し動けない状態だった。

母と私はかすり傷で済んだものの…。

それから、ある事実を知った。


トラックが左側に来たのはある子供が飛び出したからだという。突然の事にトラックの運転手は左側にハンドルを回し、私達の車にぶつかったと…。

そして、母は言った。

「莉久、よく聞いて…。
あの時の…男の子は…、圭くんだったわ…。」

と申し訳なさそうに言った。

私は息が上手くできなかった。

(圭くん…?なんで圭くん…?圭くん、夕方に何しているの?)

とたくさんの疑問が浮かんだ。

そして母は、それ以外話すことはなかった。

それから、少しして私達は引っ越した。

圭くんと何も話すことなく…。

(またいつか…、会えるよね?)


──────

「成瀬圭です。よろしくお願いします。」

「………圭くん?」

私は小さな声で名前を呼んだ。

あの時の圭くん…圭くんだって。

また会えて嬉しかった。

また、あの時みたいに仲良くできるかなって…思ったから…。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「おめでとう!」

「きゃー!おめでたい!」

クリスマスが終わり、一月の登校日。

お正月も終わり、高校一年はもう3ヶ月という短い時間だ。

凛ちゃんから大沢くんとカレカノになれたと今さっき聞いたのだ。

あの日(クリスマスの日)に、あったことを全て話してくれた。

私は素直に嬉しかった…。
でも、自分と重ねてしまい悲しくなる。

(あれから、圭くんとは目もあってない…)

やっぱり、避けられている。

そんな気がした。

「そ、それでね…初詣一緒に行ったの…」

「え!?ほんとに」

「う、うん…」

「どんな感じなの!?」

「え?ふ、普通…に?」

「ふ、普通!?」

「でも、楽しかったな」

「そうかそうか~。凛もやーっとだね!」

と奈々ちゃんと凛ちゃんはおしゃべりに夢中だった。

私はひとりで考え事をしていたけどバレていないみたいだった。

「ほんと、おめでとう!凛ちゃん」

「へへ、ありがとう。莉久」

すると奈々ちゃんが突然、

「莉久はどんななの?」

「…へ?」

「ほら!なるくんと」

「け、圭くん…?」

「…やっぱり」

凛ちゃんは下を向いて言った。

「なると莉久はやっぱ、知り合いなんじゃない…?」

「え?な、なんで?」

「結構前だけど、なるが言ってたの。
「莉久ちゃんって、どこかで見た事あるんだよな~」って。でもそれは、なるのただの思い込みだと思ってた。

でもさ、なんか引っかかるの。
その" 圭くん " って!

そんなの仲いい子ぐらいしか言わないんじゃないかなって」

凛ちゃんが言う。

私は本当だと思い、上手く反応ができない。

「わ、私ね…。圭くんとは小学校で同じだったの」

「小学校…って、なるが引っ越してからか。
なるさ、引っ越した事何も話してくれなくてさ~、どんなだったの?」

「明るくてクラスの中心にいたの。
だから、私でもしっかり覚えてるな…」

「そっか~、なるってクラスの中心だったんだね。」

「…うん」

力ない返事になった。


ズキズキと心が痛む。
何も無いかのように過ぎる毎日。

避け続ける圭くん…

これからどうしよう…

もうすぐ、テストだ。

勉強にも手に入らない。
こんなの初めてだった。

こんな痛みは…。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

莉久ちゃんとはあれから話していない。

正直に言うと、僕が避けているのかもしれない。
自然と莉久ちゃんと見ると目をそらしてしまうんだ。

昔、僕の家族はバラバラだった。

父は会社が倒産しかけストレスが溜まり母は父に虐待を受けていた。

それを知らなかった…
知ったのは、小学六年の時だった。

母は首元に黒いアザがあった。

「か、母さん?首、どうしたの?」

「あ…こ、これはね!ぶつけちゃったのよ…」

力なく言うその言葉に僕は疑問を持っていた。

そして、ある日の夕方だった。

僕は友達と遊ぶため公園にいた時。

ボールを取りに行こうと家へ戻った時だった。

「お前がそんなフラフラしてっから、圭の成績が落ちるんだろう!?」

「…ふっ…、ごめんなさい…ごめんなさい…ッ」

バキッバキッ

ドカッ

殴る音がする。

「か、母さん!!!?」

僕は急いで家の中へ入ると、母は父に虐待を受けていた。

「け、圭…」

母は泣いていた。

それを見た僕は怒りが増し、父に飛びかかった。

「母さんを…母さんをおおお!!」

泣きながら父を叩いた。

まだ小学生だったから叩く力は弱かったが…。

そして父は、またキレ僕に殴りかかろうとした。

それを母が止めようと父に抱きつく。

「圭、逃げなさい!!私の携帯で警察に!!早く!」

僕は思うがままに母の携帯をとって、外へ出た。

そして警察へ連絡する。

「母さん、母さんが!!父さんに殴られてて…!」

そう言うと警察は分かった!と言い、電話を切った。

これで安心だ。

そう思い立ち止まると…

キキーーー!!!

トラックが左側により、隣の車とぶつかっていた。

「…え?」

僕はいつの間にか道路のど真ん中にいたみたいだった。

僕は、車を見て怖くなり逃げようとした…。

そしたら…、

「お、おばさん!!?」

そう。
小学校で仲のいい女の子の母、莉久ちゃんの車だったんだ。

それに気付いた僕はますます怖くなり逃げ去ってしまった…。

それから父は警察に捕えられ母は病院へ。

そしてそこの病院には莉久ちゃんの家族がいた。

母に後から聞いた話だが、莉久ちゃんの兄が亡くなり父が体の麻痺という重症だった…。

それから莉久ちゃん達は引っ越してしまった。

──────

だから…だから僕は逃げてたんだ。

ずっと…ずっと…!

莉久ちゃんと一緒にいる資格はない。
幸せになる資格はないんだ。

もうこれ以上、莉久ちゃん達を不幸にさせたくない。

そこから僕は莉久ちゃんを避けていたんだ…。

──────

莉久と圭の辛い過去。

次回は、凛と光の初詣の話を…

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