俺はみんながそれぞれの部屋に戻る時、苗を呼んだ。
大浴場の近くにある、自販機コーナーのところにふたりで行った。
「…光くんが呼んでくれたの久しぶりね。」
と濡れた髪を軽く触りながら言った。
「ああ、ごめんな。急に」
「いいよ、それより話って…?」
苗が少し下を向きながら言った。
「実はさ、凛の事なんだ。」
「伊野…さん?」
苗は凛の名前に驚いていた。
「うん、後俺らのこと…」
「やっと、自分の気持ちに気がついたの…かな?」
苗は少し笑いながら言う。
「…うん。苗の言う通りだよ…」
「光くんは…伊野さんが好き…なんだよね?」
「たぶん…」
「いつから…?」
「結構、前からだと思う。」
「…そっか。もう、おしまいなんだ…」
そう言って苗は後ろの椅子にゆっくりと座った。
「わたし、ほんとはね。」
「ん?」
「気づいてたんだよ。光くんが伊野さんを好きだって…」
「え…」
俺は何も言えなかった。
なのに、苗は俺といてくれたのか?
こんな俺と…ッ
「気付いてくれて良かったとも思ってる。
でもね、少し恨んでるかもしれない。」
「う、恨んで…?」
「そ。わたしは大好きなのに…光くんは別の子が好きなんだもん…それは恨んじゃうよ…」
「苗…ほんとに、ゴメン!」
そして、あの言葉を言おうとした。
「俺と、別れ…」
グイッ
俺は苗に引っ張られ、苗のくちびると俺のくちびるが重なった。
とても…一瞬だった。
「な、苗!?」
「…ごめんね。」
と言い、苗は走り去ってしまった。
(俺の…2度目のキス…)
俺は少し落ち着こうと椅子に座った。
そして、
ガタッ
自販機の横から音がした。
「…誰だ?」
俺が見に行くと、そこには
「り、凛…!?」
「あ…え…と……」
凛は小刻みに震えていた。
俺の気持ち、聞かれたのか…?
「あの、キスシーン見ようとはしてないよ!
た、ただ、通りすがったって言うか…」
「……」
くそっ!
俺は、一番見られたくないところを見られたみたいだった。
凛…、もう。
お前に見れる顔がねーよ。
この思いは、絶対に言わない。
鍵をかけて、永久保存だ。
そして、俺は言った。
「いや~まさか見られてるとはね」
とわざと元気に言った。
俺の心はもう、ガラスのように割れそうだ…
そして、凛は「ごめん!」と言って、走り去ってしまった。
そうだ。
これでいいんだ。
俺と凛には何も無い。
ただの友達だ…
────
次回。
なるは凛の引越しを知り…
光は自分の気持ちを隠し…
凛の恋、どうなる…?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。