第31話

晴れの日(再録)
85
2021/10/27 05:28





一緒に暮らして変わったこと。


気持ちが落ち着いた。


前は、会えない間、いつもどっか寂しくて、物足りなくて、無くしたカケラを取り戻したかった。
心の1番柔らかな1部を、彼のところに置いたままだったから。
離れてるのが苦痛で耐え難くて、彼を俺のものにしたくてたまらなくて。
俺も、彼のものになりたくて。

別に、一緒に暮らしたって、それが解消するかどうかなんてわからなかったけど。


なし崩し的に、彼の所に泊まる日が増えていったから、生活が落ち着かない。
どんどん自分の事ができなくなる。
なのに、彼を離れてうちに帰ると、もう彼の事ばかり考えてしまう。



俺たち、一緒に暮らさない?って言ってみた。

彼は合鍵くれたけど、もちろん嬉しかったけど、それじゃダメなんだ。
俺は俺の部屋が必要だし、ピアノの為には防音の部屋がいる。
彼の所はワンルームだから、洋服だって持ち込めない。
既に俺のもので、ごちゃごちゃになってきてた。
そこらへんを説明したらわかってくれて、新しく部屋探しをする事になった。



幸い都内は、音大のそばに、防音のマンションがある。
あとは、ふた部屋以上の間取りが必要。
できたら2LDKか 3DK。
寝るのはベッドひとつでいいけど、体調悪いとか、独りで寝たい時もあるかもしんないから、ソファを置きたい。


そんな条件付けてたら、家賃が高くなった。
だけど、ふたりで払えば何とかなる。



ひとつひとつ、条件をクリアして、いざほんとに生活を始めたら、心が驚くほど安定した。
彼は最初、面倒がってたけど、人がいるってやっぱりいいな、って言う。



彼は、思った以上に可愛いかった。


ある時、お腹が張って、って言うから、便秘なの?って心配してたら、いきなり俺に向けてオナラをかけてきた。
くっさー、って怒ったら、無邪気に、毒ガス攻撃ーってゲラゲラ笑う。
ひどいよーって言ってんのに、マーキングだよって笑うから、もう怒れない。
こんな事、一緒に暮らす前には無かった。



料理は、彼が、ひと鍋でできるものを教えてくれた。
カレーやシチューや、肉じゃがとか。
とにかく鍋に入れて煮ればいいもの。
何回かやって、案外うまくできるようになった。
丁寧に洗えば、皮付いたままだって、全然構わない。
俺が指を怪我するのが心配だから、皮剥くなって彼が言った。
皮付きでもけっこう美味しいんだよね。



洗濯も、下着やTシャツならできるようになった。
干して畳むのが面倒だって言うけど、俺は基本畳まない。
ハンガーで干して、乾いたらそのままワードローブに直行。
ただ、アイロンがまだ難しい。
家じゃ、Tシャツも全部母親がアイロンしてたってわかる。
色んなことに気付けたのは、離れたからこそなんだ。
きっとダディは今でも、母親のそんな細かい気遣いに気付いてないと思う。



そして、1番いいのが、いつも一緒に寝れる事。
俺たち、もともとセックスには慎重で、スケジュール見ながらやってきたけど、同居したら、セックスしなくても一緒に寝れる!
キスしたりハグしたり、スキンシップは格段に増えた。
セックス自体も、都合を合わせる必要がないから、ナチュラルに楽しめる。


彼がどこかに遊びに行っても、絶対帰ってくるから焦らない。
あとはもう、この幸せが、1日でも長く続くよう願うだけ。



心の中が、いつも晴れてて温かく、青空だなんて、こんな風になれるとは思ってなかった。
自分でもびっくりだ。
今なら何でもできそうな無敵モードの俺。


世界、ありがとう。
歌っちゃうよ!



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