蝶子が仕事を休んで、今日で1週間。
研究員たちの間では、蝶子の体調を心配する声が強くなっていた。
ヨウも、蝶子を屋敷に置いて出てくるのは抵抗があったが、「ヨウは今できることをしなさい」と言われてしまい、追い出された。
熱もないし、食欲はあるのだが、立ち上がって歩き出すとふらついて倒れてしまう。
蝶子は過労だと言っていたが、どうも様子がおかしい。
そんな時、隣の研究チームから栄一が訪ねてきた。
用件はもちろん、蝶子のことだ。
ヨウは頷きながらも、不安だった。
自分の予想が外れてほしいと、強く願っていた。
***
翌日、蝶子は半ば強制的に病院へと連れて来られた。
看護師に支えられて、精密検査を受けに奥へと進む。
昨夜、栄一が「病院に行け」と強く説得してきて、ヨウまでも「僕が連れて行く」と言って聞かなかった。
1週間も続くこの症状が、どこかおかしいことくらい、蝶子も自覚していた。
だが、重い病気かもしれないと思うと、怖かったのだ。
数時間に渡る精密検査を済ませ、蝶子はひとり、医者に呼ばれた。
結果の病名は――長く難しくて、蝶子ですら覚えていない。
確かなのは、若い人でも稀に発症する難病であり、治療法が見つかっていないこと。
蝶子はその初期症状の段階であり、次第に衰弱し、死に至る。
余命は2年ほどだ。
蝶子は絶望した。
この先、いくらでも自由な時間があると思っていた。
ヨウと一緒に暮らして、研究に没頭して、博士の後を立派に継いで。
それらが、あとたった2年で途絶えてしまうとは、受け入れがたかった。
***
迎えに来たヨウと合流し、屋敷へと戻った。
いずれバレてしまうのに、蝶子は嘘をついた。
余命が残り少ないと知ったヨウが、どんな反応をするのかが怖くてたまらないからだ。
蝶子は動揺して、目を泳がせた。
今のヨウは、出会った頃からは考えられないほど、勘が鋭くなっている。
蝶子の僅かな変化も、見逃さず気付いてしまうのだ。
蝶子は、涙ながらに本当のことを話した。
ヨウの予想は当たっていたらしく、彼は頷いて蝶子を抱きしめる。
子どものように、思っていることを全てぶちまけて、蝶子は泣きじゃくった。
疲れきって眠るまで、ヨウはずっと蝶子を抱きしめていた。
【第18話へ続く】