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第19話

蝶子の最期
481
2021/09/15 04:00
穏やかな日々が続いた。


蝶子は、残された時間をできるだけ今まで通りに過ごしながら、症状を遅らせる治療も、研究も、ヨウと過ごす時間も大切にしている。


大学だけは先に中退してしまったが、悔いはないらしい。


体調の良い日は研究を放り出して、ヨウと外に出てのんびりしたり、デートをしたり、2人だけの思い出を増やしている。
ヨウ
ヨウ
蝶子って、スケッチは得意?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
うーん、どうだろう。
中学まではそれなりに描けたと思うけど、私より上手い人たちはいくらでもいるよ
ヨウ
ヨウ
じゃあ、僕と勝負。
お互いの顔を描こう
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
何それ! 楽しそう!

公園でのんびりしていると、突然ヨウは蝶子に勝負を持ちかけた。


スケッチブックと色鉛筆まで準備していて、蝶子に手渡す。
ヨウ
ヨウ
僕の方が上手だったら……ご褒美は何にしてもらおうかな
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
そういうこと、どこで覚えたの?
ヨウ
ヨウ
内緒

2人が笑っていると、近くでバドミントンをしていた栄一とハナがやってきた。


彼らは興味津々で、それぞれのスケッチブックを覗き込む。
鳳 栄一
鳳 栄一
蝶子、ヨウくんはもっと美形だと思うけど……
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
分かってるよ!
私だって格好良く描きたいんだって!
ハナ
ハナ
ヨウさんは、蝶子様が大好きって感じの絵ですね
ヨウ
ヨウ
もちろん

4人の笑い声が響き、驚いた小鳥たちが一斉に空へと飛び立った。



***


鳳 栄一
鳳 栄一
蝶子が……
ハナ
ハナ
笑ってますね
鳳 栄一
鳳 栄一
ああ、よかった

蝶子がお手洗いに行っている間、栄一とハナがしみじみと言った。


蝶子の両親も、海外での研究を一度切り上げて、今度戻ってくるという。
鳳 栄一
鳳 栄一
俺たちだけじゃ、蝶子をあんな風に笑わせられなかった。
ありがとう、ヨウくん
ヨウ
ヨウ
え……いや。
僕はただ、蝶子のためだけに行動しているだけです

思わぬ方向から感謝されて、ヨウは照れた。


栄一もまた、ヨウに何度も助言をくれた人だ。
ヨウ
ヨウ
むしろ、僕が栄一さんたちに感謝しないといけないのに……
鳳 栄一
鳳 栄一
いや、同じ男として、君のことも気に掛けてるんだ。
手伝ってほしいことがあったら、遠慮無く言ってほしい

なんてできた人なんだろうと、ヨウは思った。


ハナが彼の隣で、誇らしそうに微笑む。
ヨウ
ヨウ
僕はずっと前、あなたに嫉妬していました。
蝶子のことを何でも知っているから……
鳳 栄一
鳳 栄一
え、嫉妬?
ヨウ
ヨウ
でも、それが恥ずかしくなるくらい、あなたは優しい。
ありがとうございます。
助けてもらいたいときは、遠慮無く言いますね
鳳 栄一
鳳 栄一
……ああ

栄一は照れくさそうに笑った。


その背後に、蝶子が杖をつきながらゆっくりと戻ってくる姿が見える。


ヨウは蝶子を迎えに行き、そっと寄り添った。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
なんだか楽しそうに話してたね。
何だったの?
ヨウ
ヨウ
ん? 蝶子のことだよ
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
えっ、気になる

ヨウは笑い、蝶子の頭を撫でた後、ふと表情を引き締めた。



***



2123年、春。


蝶子は20歳の誕生日を迎えた。


屋敷には、蝶子の両親、栄一、ハナ、研究チームの面々が集まった。


――が、彼らの表情は、晴れやかなものではなかった。
ヨウ
ヨウ
蝶子。
みんな、おめでとうって言いに来てくれたよ
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
……うん。
ありがとう

蝶子はかなり衰弱しており、移動用の電動椅子に座ったまま、苦しそうに笑顔を作った。


もういつ〝その時〟が来てもおかしくない状態だったが、誕生日までは屋敷にいるのだと、蝶子が言って聞かなかった。




翌日、蝶子は意識を失って倒れ、病院に運ばれたが――数日後に、息を引き取った。
ヨウ
ヨウ
蝶子……

ヨウは、冷たくなった蝶子の手を握って看取り、涙を流した。


蝶子は言っていた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
本来、アンドロイドは涙を流すものではないのに、ヨウには涙腺がある。
おじいちゃんがそう設計したみたい。
ほんと、何を考えてたんだろうね

ヨウは博士を恨み、それと同じくらい、感謝した。


【最終話へ続く】