第10話

ヨウの笑顔
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2021/07/14 04:10
同級生
同級生
夢咲さんたちが、クラスの人間に興味ないのって、そういうことだったんだ
同級生
同級生
やっばい、笑える
同級生
同級生
まあ、相手がアンドロイドだって割り切ってるなら別にいいんだけどさ
同級生
同級生
敢えてそっちにいくとか……頭が良すぎると考え方も違うんだな

蝶子も栄一も、嫌みな言葉には慣れている。


だが、今の言葉は栄一には聞かせたくなかったと、蝶子は思った。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
はあ……。
勝手に言っておけば?

蝶子は、俯いているハナの手を取って歩き出す。


栄一も反論はしないが、その拳は強く握られていた。


しかし、ひとりだけ蝶子の横を通り過ぎて、彼らの前に出た人物がいた。


――ヨウだ。
ヨウ
ヨウ
何かを勘違いされているようですが、私たちは雇用主と従業員です

彼らの前に立って、ヨウは淡々とそう言った。
ヨウ
ヨウ
もし恋仲だったとしても、人間とアンドロイドの交際は認められているので、何が笑えるのか分かりません。
あなたたちの方がおかしいのではないでしょうか。
もしそうなら、蝶子さんたちを笑わないでください

抑揚はなくても、ヨウの言葉には少し悔しさが滲んでいるように聞こえた。


同級生たちが、反論もできずに固まっている。


通常、アンドロイドは人間に好かれようと行動するプログラムが仕組まれているため、こうして人間に強く意見することはあり得ないのだ。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ぷっ……くくくっ

蝶子は、堪えきれずに吹き出してしまった。


栄一も口を押さえて必死に笑いを堪えているし、ハナはヨウに同意して大きく頷いている。


隙を見て、蝶子はヨウの手を、栄一はハナの手を引っ張って、走り出した。


そして、同級生たちが見えなくなったところで立ち止まり、蝶子は手を伸ばしてヨウの頭を撫でる。


なんとなく、そうしたい気分だったのだ。
ヨウ
ヨウ
これは、賞賛ですか?
小さな子がよくされる……
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
そうだよ。
よくできました

ヨウはされるがままだったが、少し戸惑っている様子だ。


微かに頬を赤くし、胸の中心辺りを押さえている。
ヨウ
ヨウ
なんだか、この辺りがむずむずします
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
それは多分、〝嬉しい〟か〝恥ずかしい〟のどっちかかな?

ヨウに、また感情が芽生えかけている。
ヨウ
ヨウ
恥ずかしい、とは違う気がします。
これがきっと……〝嬉しい〟気持ち

ヨウはそう呟いて、口角を上げた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
……!

初めてヨウの笑顔を見た蝶子は、息を呑んだ。



***



栄一たちと街に出てから、数週間。


蝶子はヨウを連れて外に出る機会を作り、ヨウも出会ったアンドロイドと積極的に交流するようになった。


ヨウは、蝶子が学校に行っている間に学習を続け、驚異的な早さで高校卒業レベルまで身につけてしまった。


しかも、屋敷にあった本や資料も読み切ってしまったので、今は映像や書籍の配信サービスを使って時間を潰している。


本来であれば、派遣先で仕事をしながら少しずつ学んでいくことが博士の理想だったのだろう。


しかし、ヨウには基盤となる知識が少なかったせいで、仕事を覚えようにもできなかった。


現場の人間が根気強く教えていれば、こんなことにはならなかったはずだ。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(ヨウの学習能力は、元々かなり高いんだ……。
人間の比じゃない)

蝶子が驚いている目の前で、ヨウは真剣にドラマを見ていた。


3年前くらいに流行った、恋愛ドラマだ。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(外に出始めたおかげか、感情も少しずつ出てきてる)

今なら、ヨウを社会に出しても問題ないだろう。


だがそう考えると、蝶子の胸がちくりと痛む。


ヨウに対する感情は、言葉にすると愛情なのかもしれないが、それは家族に向けるようなものだ。


彼は博士の形見であり、蝶子の好奇心を満たしてくれる存在だったに過ぎない。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(私は、栄一とは違う……。
ちゃんと、わきまえてる)

蝶子はそうやって、無理に自分を納得させた。


端末で視聴していたドラマが無事ハッピーエンドを迎えたらしく、ヨウは満足げに頷いて立ち上がる。
ヨウ
ヨウ
蝶子さん、今日のご飯は何を作る?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
鶏ささみの天ぷらでもしようかなって
ヨウ
ヨウ
美味しそう……。
僕も一緒に作っていい?
食べてみたい
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
いいよ、勉強になるだろうし。
あっ、食べ過ぎたらダメだよ

ヨウは嬉しそうに微笑んだ。


『家族のように親しい人には、敬語を使わない』ということを学んでからは、次第に蝶子に対する敬語も取れ、一人称が「僕」に変わった。


言葉遣いが柔らかいものになり、表情も豊かになりつつある。


蝶子の目標とするところに近づいているのに、困ったことも出てきていた。


【第11話へ続く】