蝶子はヨウを連れて鳳家の屋敷――栄一の家へと向かった。
蝶子の屋敷は1階建てだが、栄一の家はもっと大きく3階建てで、地下まである。
管理には使用人が必要なほど広いのだ。
蝶子たちが車を降りてすぐ、門の向こう側で女性の声がした。
アプリコットオレンジの明るい髪と、柔らかな笑顔が、蝶子の瞳に映る。
栄一の言っていたアンドロイドは、彼女だ。
外見の年齢はヨウと同じくらいで、20歳前後だろうか。
小柄で可愛らしく、ワンピース姿がよく似合っている。
門の開き方までも優雅に完璧に、ハナは蝶子たちを招き入れた。
玄関までの美しく舗装された道を彼女について行く。
ヨウにはまだ、〝心配〟という感情が理解できない。
首を傾げて、意味を聞き返している。
蝶子はヨウを、不憫に思った。
博士は――蝶子の祖父は何を思って、彼にこんな試練を課したのか。
***
玄関から入ってすぐのところで、栄一が三人を待っていた。
ヨウは淡々と言い、頭を下げた。
栄一とハナは顔を見合わせ、軽く頷いている。
やはり、通常のアンドロイドとヨウは、かなり違うようだ。
屋敷に上がるなり、ヨウは表情をやや引き締める。
それが緊張なのか、気合いなのか、蝶子には分からなかった。
蝶子もヨウが心配で、2人の後ろ姿をキッチンの外側から窺う。
ハナが手際よく紅茶を入れ、菓子類を準備する様を、ヨウは真剣に見つめていた。
ハナとヨウが客間に向かう素振りを見せたので、蝶子は慌てて栄一の元へと戻った。
栄一はソファに深く腰掛けながらも、少し落ち着かない様子だ。
ハナは紅茶と切り分けたパウンドケーキをテーブルに並べ、ヨウを引き連れて別の場所へと向かった。
蝶子自身、働くアンドロイドと接触する機会は何度もあったが、ハナは一層人間らしさを兼ね備えたアンドロイドのように思う。
蝶子の問いに、栄一はぼんやりと返した。
そして、ハナたちの行った方向をちらちらと気にしている。
突拍子もない栄一の懸念に、蝶子は間抜けな声を出した。
【第7話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!