第6話

アンドロイドの職場見学
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2021/06/16 04:00
蝶子はヨウを連れて鳳家の屋敷――栄一の家へと向かった。


蝶子の屋敷は1階建てだが、栄一の家はもっと大きく3階建てで、地下まである。


管理には使用人が必要なほど広いのだ。
ハナ
ハナ
蝶子様、ヨウさん。
お待ちしておりました

蝶子たちが車を降りてすぐ、門の向こう側で女性の声がした。


アプリコットオレンジの明るい髪と、柔らかな笑顔が、蝶子の瞳に映る。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
あ! あなたが……
ハナ
ハナ
鳳家の使用人、ハナでございます

栄一の言っていたアンドロイドは、彼女だ。


外見の年齢はヨウと同じくらいで、20歳前後だろうか。


小柄で可愛らしく、ワンピース姿がよく似合っている。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
急なことですみません。
今日はよろしくお願いします。
あ、こっちがヨウです
ヨウ
ヨウ
初めまして。
よろしくお願いします
ハナ
ハナ
こちらこそ、よろしくお願いしますね。
さあ、どうぞ中へ

門の開き方までも優雅に完璧に、ハナは蝶子たちを招き入れた。


玄関までの美しく舗装された道を彼女について行く。
ハナ
ハナ
ヨウさんはご存知ないかもしれませんが、私もあなたと同時期のロールアウトでした。
噂を伺って、心配していたんですよ
ヨウ
ヨウ
私を、心配……?
ハナ
ハナ
はい。
同じアンドロイドですから
ヨウ
ヨウ
どういうことでしょうか

ヨウにはまだ、〝心配〟という感情が理解できない。


首を傾げて、意味を聞き返している。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(本来なら、ヨウもハナさんくらいの感情表現が備わっているのにな……)

蝶子はヨウを、不憫に思った。


博士は――蝶子の祖父は何を思って、彼にこんな試練を課したのか。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(私が彼に、感情を教えるなんてできるのかな)



***



鳳 栄一
鳳 栄一
ああ、着いたか

玄関から入ってすぐのところで、栄一が三人を待っていた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
栄一、呼んでくれてありがとう。
お邪魔します
鳳 栄一
鳳 栄一
うん。
君がヨウくん、か……
ヨウ
ヨウ
はい。
よろしくお願いします

ヨウは淡々と言い、頭を下げた。


栄一とハナは顔を見合わせ、軽く頷いている。


やはり、通常のアンドロイドとヨウは、かなり違うようだ。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
じゃあ、ハナさんの仕事を見学させてもらっていい?
鳳 栄一
鳳 栄一
もちろん。
ハナ、頼んだ
ハナ
ハナ
かしこまりました。
ヨウさん、まずは一緒にキッチンに向かいましょう
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウ、行ってらっしゃい
ヨウ
ヨウ
……はい

屋敷に上がるなり、ヨウは表情をやや引き締める。


それが緊張なのか、気合いなのか、蝶子には分からなかった。


蝶子もヨウが心配で、2人の後ろ姿をキッチンの外側から窺う。


ハナが手際よく紅茶を入れ、菓子類を準備する様を、ヨウは真剣に見つめていた。
ハナ
ハナ
お客様がいらしたら、こうしてお茶とお茶請けを用意するんです。
お客様の苦手なものをお出しするといけないので、それは事前にご主人様に伺います
ヨウ
ヨウ
……分かった
ハナ
ハナ
これを蝶子様たちにお出ししたら、他の仕事もお見せしますね。
使用人の仕事はたくさんありますから
ヨウ
ヨウ
はい

ハナとヨウが客間に向かう素振りを見せたので、蝶子は慌てて栄一の元へと戻った。


栄一はソファに深く腰掛けながらも、少し落ち着かない様子だ。
ハナ
ハナ
蝶子様はハーブティーとパウンドケーキがお好きだと伺ったので
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
わ、ありがとうございます!
ハナ
ハナ
どうぞ、ごゆっくりお過ごしください

ハナは紅茶と切り分けたパウンドケーキをテーブルに並べ、ヨウを引き連れて別の場所へと向かった。


蝶子自身、働くアンドロイドと接触する機会は何度もあったが、ハナは一層人間らしさを兼ね備えたアンドロイドのように思う。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
なんだか、最近のアンドロイドって、人間っぽさが増してるよね
鳳 栄一
鳳 栄一
そうだな。
そういう風に、親父も、博士たちも改良を続けてきただろうし……

蝶子の問いに、栄一はぼんやりと返した。


そして、ハナたちの行った方向をちらちらと気にしている。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
さっきからどうしたの?
鳳 栄一
鳳 栄一
いや……あのさ。
ヨウくんを呼んでおいてあれなんだけど。
ハナが彼を好きになるってことはないよな?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
はあ?

突拍子もない栄一の懸念に、蝶子は間抜けな声を出した。


【第7話へ続く】

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