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第20話

僕の永遠は、全部きみに
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2021/09/22 04:00
蝶子の弔いが全て終わって、数日後。


ヨウはチームに復帰したが、もう研究の続きをする気はさらさらなかった。
研究員
研究員
ヨウ、お前本気で言ってるのか?
ヨウ
ヨウ
はい。
博士が僕に施したAI変更不可のロックは、僕の意思で外れるようにプログラムされていました。
僕が初期化されたいと望めば、解除される仕組みです
研究員
研究員
だからって、記憶を消せなんて……

ヨウは自ら研究チームに直訴し、記憶を消去してもらおうとしていた。


今なら、AIを好きなように研究できるし、上書きでもなんでも、思い通りだ。
研究員
研究員
そりゃ、蝶子さんがいなくなって辛いのは分かる。
でも、君は既に国にとっても貴重な存在なんだよ
研究員
研究員
蝶子さんだって、記憶の消去なんか望まないって。
きっと、自分のことを君に覚えていてほしいと思うよ
ヨウ
ヨウ
……勝手に、蝶子の気持ちを語らないでください

ヨウは、他の世間一般のアンドロイドより抜きん出て優秀になっている。


そして、貴重な研究対象でもあるため、誰も協力したがらなかった。


また、アンドロイドの記憶を国の許可無く消すことは、法律上グレーだ。


いくら研究チームの一員とはいっても、アンドロイドに危害を加えたとみなされ、処罰される可能性がある。


それだけのリスクを冒して、協力してくれる相手は――。


ヨウが相手を思い浮かべた時、背後から声がした。
鳳 栄一
鳳 栄一
記憶を消したがってるんだって?
ヨウ
ヨウ
栄一さん……

ヨウを煙たがって、研究員たちは一度部屋から出て行ってしまった。


噂を聞いて説得を任されたのか、隣の研究室から栄一がやってくる。
鳳 栄一
鳳 栄一
どうして、最初に俺のところに来ないのかな
ヨウ
ヨウ
すみません。
……え、協力してくれるんですか?
鳳 栄一
鳳 栄一
手伝ってほしいことがあったら、遠慮無く言ってと伝えたはずだけど
ヨウ
ヨウ
……逮捕されるかもしれませんよ。
あなたは蝶子が大事にしていた人だから、巻き込みたくない。
あなたに何かあれば、ハナさんだって悲しませることになる

栄一の申し出は嬉しかったが、ヨウは首を横に振った。


自力で記憶を消すにしても、方法が分からないし、準備には相当な時間を要するだろう。


もう諦めるしかない、と思うヨウの前で栄一が小さく笑った。
鳳 栄一
鳳 栄一
大丈夫だ。
俺がやったって痕跡を残さないように、上手くやるよ
ヨウ
ヨウ
……本当に、いいんですか?
鳳 栄一
鳳 栄一
君と、蝶子のためだ。
これだけは、俺に協力させてくれ……

そう言った栄一は、うっすらと涙を浮かべていた。


彼がどんな気持ちで、どれほどの覚悟を決めてそう言ってくれたのか、ヨウはやっと分かった。
ヨウ
ヨウ
……ありがとうございます。
やはりあなたは、優しい人だ

ヨウは笑って、目を閉じた。



***


夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウ? ヨウー?
どこー?
ヨウ
ヨウ
ここ、ここにいるよ

暗闇の中で、ヨウを呼ぶ声がする。


声のする方向へ進んでいくと、ヨウの足元から光の粒が広がり、周囲があの日の公園へと変わっていった。


白いワンピースを着た蝶子は、ヨウを見つけるなり溢れんばかりの笑顔を見せる。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウ!

駆け寄ってきた彼女を、ヨウはぎゅっと抱きしめた。
ヨウ
ヨウ
僕の永遠は、全部きみに……

――それがたとえ、胡蝶の夢だとしても。


【完】

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