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第11話

近づいてくる別れ
606
2021/07/21 04:00
ヨウ
ヨウ
ねえ、蝶子さん。
僕、早く仕事をしたい。
蝶子さんの役に立ちたい

器用にささみの筋を取りながら、ヨウが言った。


このところ、毎日この言葉を口にしている。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(か、可愛い……)

ヨウの言い方もだが、完全に信頼を寄せてくれていることが、蝶子の心をくすぐった。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
分かってる。
もう少し、様子を見たらアンドロイド事業部に連絡するから
ヨウ
ヨウ
……うん。
できるなら、ここで暮らしながら働きたいな

家の中のことも、蝶子の知らないうちに綺麗に掃除されることが増えている。


ハナに学んだことと蝶子のやり方を見て、覚えたようだった。


ただし、洗濯だけは頑として譲っていない――はずだったのだが……。




翌朝、蝶子が目を覚ました時、ヨウは洗濯物をベランダに干し終わっていた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
よ、ヨウ!?
待って、なんで!?
ヨウ
ヨウ
あ、蝶子さん。
おはよう
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
きゃー! み、見た!?
ヨウ
ヨウ
何を?

蝶子の下着は、上下全て綺麗に干されていた。


恥ずかしさのあまり、蝶子は咄嗟にヨウの目を塞ぐ。
ヨウ
ヨウ
蝶子さん?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
あのね、女の人は男の人に下着を触って欲しくないし、見られたくもないの!
ヨウ
ヨウ
……!
そ、そうなんだ。
僕、知らなくて……
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
干してくれてありがとう……。
でも、洗濯はもう、全部私がするから!
ヨウ
ヨウ
分かった。
ごめんなさい……

ヨウが良かれと思ってやってくれたことだとは分かっているのに、蝶子は自分のことでいっぱいいっぱいだった。


次第に落ち着いてきて、しゅんとしてしまったヨウの顔から手を離す。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
あ、私こそ……怒ってごめんね
ヨウ
ヨウ
うん……

ヨウは落胆の感情も覚えたらしい。


そんな姿も、蝶子は可愛いと思うようになってしまった。


ヨウに対して、愛しさが増している。


今まで違う違うと否定していたが、もう間違いないと、蝶子は自覚した。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
(このままじゃ……まずい。
栄一みたいになっちゃう)

早いうちにヨウを国に帰し、仕事を割り振ってもらった方がいい。


今のヨウならば、充分に力を発揮できるだろうし、新しいことも覚えられるだろう。


蝶子はこれまでのヨウの成長記録を、急いでまとめた。


そして夕方、ヨウが外に出掛けている間に、アンドロイド事業部に報告することにした。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ご無沙汰しております。
夢咲です
アンドロイド事業部
アンドロイド事業部
お世話になっております。
我々もネットワークを通じてZ1210の思考を監視しておりましたが、いただいた報告書と照らし合わせ、現状問題ないと判断しました
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
と、いうことは?
アンドロイド事業部
アンドロイド事業部
Z1210を国に返還いただき、適性を見て新たな職場へと派遣します
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
よかった……。
では、よろしくお願いします
アンドロイド事業部
アンドロイド事業部
こちらこそ、夢咲博士のご令孫にご協力いただき、感謝申し上げます

明日の夜、正式にヨウの迎えがくることになった。


あとの問題は、ヨウにどうやって告げるかだ。



***


鳳 栄一
鳳 栄一
え!? それは……。
ヨウくんに断ってからやった方がよかったんじゃないか?

翌日、いつもの屋上で、栄一は蝶子の報告にそんな反応を示した。


苦いものでも歯に詰まったような、気まずい顔をしている。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
やっぱり、そうかな……
鳳 栄一
鳳 栄一
事後報告は、いくらヨウくんでも理由を聞いてきそうだけど。
でも、どうしてまた急に?
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
急じゃない。
機が熟しただけ
鳳 栄一
鳳 栄一
……ふーん

栄一には、素直にヨウが好きだと言えなかった。


「人のことを言えない」と指摘されるのが、蝶子は怖かったのだ。


気持ちの整理もできないまま蝶子は帰宅し、出迎えてきたヨウに、国に帰ってもらうことを伝えた。
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
事後報告になってごめん……。
でも、もう仕事ができるって
ヨウ
ヨウ
そ、そうなんだ……。
それは、嬉しい……

言葉とは裏腹に、ヨウは俯いて胸元を押さえた。


いつか、商業施設で初めて笑ったときも、同じような仕草をしていたが――今回の理由は違うようだ。
ヨウ
ヨウ
僕は、蝶子さんの家にいながら、仕事ができるのが一番いいなって思ってたから……。
離れなきゃいけないのは、嫌だなって
夢咲 蝶子
夢咲 蝶子
ヨウ……
ヨウ
ヨウ
そんなのは我が儘だって分かってるけど……。
このあたりがモヤモヤする

ヨウは頬を膨らませて、悔しそうだ。


遂に、不満や怒りの感情もヨウは覚えたのだ。


それは蝶子にとって感慨深くもあり、寂しくもあった。


【第12話へ続く】