器用にささみの筋を取りながら、ヨウが言った。
このところ、毎日この言葉を口にしている。
ヨウの言い方もだが、完全に信頼を寄せてくれていることが、蝶子の心をくすぐった。
家の中のことも、蝶子の知らないうちに綺麗に掃除されることが増えている。
ハナに学んだことと蝶子のやり方を見て、覚えたようだった。
ただし、洗濯だけは頑として譲っていない――はずだったのだが……。
翌朝、蝶子が目を覚ました時、ヨウは洗濯物をベランダに干し終わっていた。
蝶子の下着は、上下全て綺麗に干されていた。
恥ずかしさのあまり、蝶子は咄嗟にヨウの目を塞ぐ。
ヨウが良かれと思ってやってくれたことだとは分かっているのに、蝶子は自分のことでいっぱいいっぱいだった。
次第に落ち着いてきて、しゅんとしてしまったヨウの顔から手を離す。
ヨウは落胆の感情も覚えたらしい。
そんな姿も、蝶子は可愛いと思うようになってしまった。
ヨウに対して、愛しさが増している。
今まで違う違うと否定していたが、もう間違いないと、蝶子は自覚した。
早いうちにヨウを国に帰し、仕事を割り振ってもらった方がいい。
今のヨウならば、充分に力を発揮できるだろうし、新しいことも覚えられるだろう。
蝶子はこれまでのヨウの成長記録を、急いでまとめた。
そして夕方、ヨウが外に出掛けている間に、アンドロイド事業部に報告することにした。
明日の夜、正式にヨウの迎えがくることになった。
あとの問題は、ヨウにどうやって告げるかだ。
***
翌日、いつもの屋上で、栄一は蝶子の報告にそんな反応を示した。
苦いものでも歯に詰まったような、気まずい顔をしている。
栄一には、素直にヨウが好きだと言えなかった。
「人のことを言えない」と指摘されるのが、蝶子は怖かったのだ。
気持ちの整理もできないまま蝶子は帰宅し、出迎えてきたヨウに、国に帰ってもらうことを伝えた。
言葉とは裏腹に、ヨウは俯いて胸元を押さえた。
いつか、商業施設で初めて笑ったときも、同じような仕草をしていたが――今回の理由は違うようだ。
ヨウは頬を膨らませて、悔しそうだ。
遂に、不満や怒りの感情もヨウは覚えたのだ。
それは蝶子にとって感慨深くもあり、寂しくもあった。
【第12話へ続く】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。