屋敷に戻るなり、ヨウは一目散に蝶子の部屋に向かった。
何かの資料を読んでいた蝶子は、その勢いにびっくりして顔を上げる。
ヨウは、大声で思いのたけを伝える。
蝶子の表情は、驚きから苦しそうなものに変わり、ついには俯いてしまった。
***
ヨウのことが好きなのに、蝶子はすぐに返事ができなかった。
人間とアンドロイドの恋愛には、障害があるから。
だが、栄一とハナが真剣に向き合っているのを見て、羨ましいと思ってしまうのも本当だ。
ヨウは目を輝かせたが、蝶子の表情を見て、言葉に詰まった。
蝶子の頬には、涙が伝っている。
最後は少し強引に、ヨウは言った。
この先に広がるのは、茨の道だ。
それでも今の自分の感情にはあらがえず、蝶子はヨウの手を取って、覚悟を決める。
今までにないくらい、ヨウは綺麗な笑顔を見せた。
***
蝶子とヨウは正式に恋人同士になった。
蝶子は海外にいる両親に連絡をとり、真剣に交際していることを報告する。
最初、蝶子の両親は反対していた。
だが、ヨウは博士の残した特別なアンドロイドであること、そして2人の気持ちが固いことを何度も確認し、渋々認めてくれた。
「互いに覚悟を決めて納得しているのなら、好きにしなさい」と。
通信が終わった途端、ヨウは蝶子を後ろから抱きしめる。
蝶子は驚いて、肩を跳ねさせた。
蝶子は心臓を跳ねさせ、恋愛ドラマをヨウに見せたのは失敗だったかと、少しだけ後悔した。
だが一方で、見せて良かったとも思ってしまう。
蝶子は嬉しくて、幸せで、笑ってしまった。
ヨウはついに、〝嫉妬〟の感情も覚えたらしい。
【第16話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!