学校にも事務員として働くアンドロイドが数人いるが、彼らは人間並みに感情が豊かで、ヨウほど暗い顔はしていない。
一体、ヨウに何があったのか。
蝶子の関心は、急激にヨウへと傾いていった。
***
今から約1年前、ヨウは夢咲博士によって生産され、コードと名前を与えられた。
アンドロイドたちは皆、国から仕事と住居を与えられ、それぞれの場所に派遣されていく。
ヨウもそうして、人間たちの役に立つ……はずだった。
なぜか、ヨウは他のアンドロイドたちに比べ、感情が乏しく、語彙も少なく、知識が圧倒的に足りない。
そのせいで、仕事をすぐには覚えられず、何度も何度も不良品として国に突き返された。
国も、ヨウの扱いに困り、修理をして欲しいとアンドロイド開発研究チームに送る始末。
夢咲博士は、ヨウを生み出してすぐに亡くなった。
ヨウを修復できる人間はもういない、ということらしい。
それくらいは、ヨウにも理解できた。
ヨウは彼らの目を盗み、咄嗟に逃げ出した。
なぜそんな判断をしたのか、ヨウ自身も分からないまま。
自分の中のプログラムが教える方向へ走って走って、走り続けた。
半日以上走ったところで、ヨウはそれが緊急時避難プログラムの作用だったと理解した。
しかし、たどり着いた屋敷には、誰もいない。
ヨウは力なく玄関前に座り込み、目を閉じた。
***
ヨウを屋敷に招き入れてくれた女の子は、名を夢咲蝶子と言った。
博士の実の孫らしい。
蝶子の言葉に、ヨウはもう逃げなくていいのだと悟り、深く息を吐いた。
感情の乏しいヨウには、この胸の奥が落ち着くような感覚が何なのか、いまいち分からない。
ヨウは、ここに辿り着いた経緯を淡々と話した。
幾度となく不良品として扱われていたことや、処分されそうになっていたことを聞いた蝶子は、表情を歪める。
博士がヨウを守ろうとしていたことは、確かだ。
蝶子もヨウの話を信じて受け止めてはくれたものの、どこか研究員たちと同じような目でヨウを見ている。
逃げたってすぐに捕まえられるのは、ヨウ自身が最もよく理解している。
アンドロイドは国のものであり、人間によって傷つけられることも占有されることもない。
法律でそう守られているのに、国はヨウを見捨てた。
最後の望みは、目の前にいる蝶子だけだ。
ヨウは蝶子をじっと見つめ、縋った。
【第3話へ続く】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!