前の話
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あの時、あの瞬間にもし
薄紫のオキザリスが風に揺られている2月。
校庭では3年生が受験シーズンで下校している。
「いいな。」
この時の私はあの出会いがこんなにも鮮やかで儚い恋になるとは思いもしなかっただろう。
そして、全ては自分の意思でこの世界が動いているという事に気づくことはできなかっただろう。
私の名前は岩嵜 夕希。中学2年生。
この物語は私の風に揺られて散っていく花のように儚い恋の物語だ。
「席替えするよ。」担任の長谷川 美子の声に一瞬でクラス中がざわめく。
「隣になれたらいいね!」と友達の村島 音が言ってきた。私は「うん」と言ってくじ引きを引く。音とは小学校からの友達でクラスが一緒になった。小学校では色々あったけど今は仲良くしている。
音と隣になれたらいいな。後、彼とも。
この時私は気になる男の子がいた。「彼」とは松永 淳という男の子のこと。後、よく一緒にいる、伊藤 雄大、 秋本 大、そして石崎 暖。この4人と音と私でいることが多かった。だから席替えもこの5人の誰かと隣になれたらいいなと思っていた。
「俺12」「私10!」「えー!遠い」「隣じゃん」
と喜声や、悲声が聞こえる中私は紙を見て肩を落とす。淳と隣じゃなかった。音とも。でも後ろには石崎がいて少し気が楽だった。
まさかこの出会いが後に大きく皆の心をゆらがすことになるとは誰も思ってなかっただろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!