第48話
Airplane Pt2 【BTS】
僕があの時みた少年はなんていうか……
一言でまとめてしまうと『変な子』だった。
その子が歌う歌にはなんだか、人それぞれの魂が埋め込まれてるみたいな気持ちになって不思議と引き込まれていた。
その子の歌い方にも少しだけ特徴があって、まるで、歌を台詞のようにして歌うような……
“息をするように歌っていたんだ“
その少年にきいた。
「なんでこんな場所で歌っているの?」
そう言うと、少しの間も開けずに少年は
「音楽をする場所なんてどこでもいい。ただ、音楽がしたかったんだ。」
そういったんだ。
僕はその言葉を聞いた時、心臓が高鳴っていくのを確かに感じた。
そんな少年からの言葉を聞いて早3年になる。
今僕は音楽の道を歩んでいる。
そう。それはまるで、しっかりと整えられた、ただ一つだけの道を歩いていた。
だけど、そんな真っ直ぐな道を歩んでいるくせにすごく難しくて簡単ではない。
それが“音楽“
僕が今まで経験したのは失敗と絶望のみ。
疲れた僕は口ずさむように少しの歌詞を歌っていた。
すると、僕を誰かが呼び止めて言ってくれた。
「君は歌うスターだ。」
そんな言葉をかけられた僕だけど、全く僕の夢には煌めくような星みたいなものもなくて
そんな日々を続けてさらに数年が過ぎてしまった後。
まだ僕は空高く、空を飛んで……
“またどこかの街で歌う“
空は最高だ……そう毎回思う。
また、僕は同じ挑戦と同じ傷跡同じ作業すべてを背負って生きている。
僕は今でも世界のどこに行ってもホテルの個室のような場所での作業に追い込まれる。
僕は今でも音楽の活動を続けていて、長年やってくるとわかる事が一つや二つ見つけた。
その1日だけは調子が良く進むけれどその次の日は昨日のようになったことがすべて嘘のように台無しになってしまう。
………僕には才能の「さ」の字もないのか……
そう思っていると、ふとある考えが浮かんでくる。
“今日はなにとして生きようかな“
僕の本名?それとも芸名?
僕はたしかに普通の人、でも僕には2つの名前がある。
ひとつの名前は親がつけてくれた誇りのある名前。
もうひとつは音楽を通して知り合った僕を入れての7人のメンバーが提案してくれて出来た名前。
どちらも大切な名前だけれど、その名前のせいか自分が自分なのか、人のことよりも自分のことのほうが分からなくなることがよくある。
だから、“今日は誰として生きようかな“そう考えるように自然と僕はなっていった。
今僕の歳は25だけど、そんないい歳した大人でもうまく生きる方法なんてきっと分からない。
だから今日も、僕たちは進む。
僕達が乗った飛行機はニューヨークからカリフォルニアへ。
そしてロンドンからパリ。
僕らがすでに音楽界で生きていくのを認められるようになると、ほとんど観客もいなかった正解が180度変わり、僕達が行くその場所がどこであろうとパーティー状態だ。
昔の自分がまるで、自分じゃないみたいで少し怖くなることもあるけど、そこまで成長したんだな。と、わかる瞬間でもある。
次の週には東京からイタリアへ。
香港からブラジルに。
僕達はいろいろな所を飛び回り歌った。
飛行機が僕達の家みたいだった。
雲に乗るような楽しさと同時にこんなに上手くいっている自分が少し怖い。
そういえば、あの少年は元気にしているだろうか。
今頃何をしているんだろうか。
少しだけ気になる少年がいたあの場所が今度の公演場所にならないかな、そう考えたりもする。
ある日僕達のPDがいった。
「今回は番組撮影だ。しっかりとやれよ。」
……あぁ、なんだこの感覚
“全然わかんねぇよ“
メンバーのなかの1人が静かにいった。
「俺達は休む方法を知らない……か……」
誰が放った言葉かもわからずにいたが、僕はその言葉に激しく共感した。
僕は思わず
【あぁ、わかんねぇよな】
そう言っていた。
ほかのメンバーはみんな頭が「?」って感じだったけど、しっかりとそいつの耳には届いていたみたいでこくりと頷いて右の口角を上げていつものように笑っていた。
今回の番組では散々な内容だった。
ただ、ほかの人のカネ自慢をただひたすら聞かされるだけの収録。
僕には自慢ほどつまらないものなどない。
正直うんざりだった。
それから最近パスポートの期限が過労死寸前で普通に困ってる。
だからそんなことも合わせてみると僕達は神でもなんでもない。
みんなと同じ条件で生まれた、ただの人にすぎない。
メディアの恩恵はむしろ僕の周りにいるやつのほうがよっぽどもらっているわけだからセレブごっこは周りにいるやつのほうがきっとうまいだろう。
ちなみに俺は初心を忘れないために相変わらずあの時と同じ生活をしている。
一気に売れたからと言って、わざとらしく高価なものは買わない。
でも、それが本物のセレブごっこだろ?
僕は時々宿舎から出て少しの旅をする。
そこで僕は歌う。
ただひたすら言葉を並べてみて歌ってみる。
そうしたらまたあの少年が現れると思って。
今日もただひたすら歌ってみる。
すると聞き覚えのあるような声で……
“あの時のまんま“の声で
「やっぱり君はスターになったね。」
そう言われた。
うしろを振り返ってみると誰もいなくなっていた。
でも、僕がもってきていたキーボード入れにはお札が数枚入っていた。
「……………」
これは一体どういう意味なのだろう。
僕はみんなよりもきっと、物欲がないのかもしれない。
だって、数枚もお札を貰っているのに喜びさえもない。
もしかしたら僕は知らないうちに
“お金に溺れて金銭感覚が狂っていたのかもしれない“
❦ℯꫛᎴ❧