☆0☆
ずっと…
がむしゃらに頑張ってきた。
試合に出る事だけを目指してた。
あの日までは…
☆1☆
先生「桐山!起きろーーーッ!!!」
桐「はい!起きてます、起きてます!」
クラス中が笑いに包まれるこのやり取り。
最近 流行りになりつつある。
桐「足りひんなぁ〜購買 行ってくる〜」
流「食い過ぎや!太るで!」
桐「しゃーないやん!朝練あると、腹減るねん!流星も行く?」
流「や、屋上で寝る。」
照史くん、最近 バスケばっか。
朝練してるのに、部活終わってからも自主練してるって聞いた。
やっぱり…私の為なのかな?
2年前、私は女バスに入部した。
背が高くない私は、誰よりも練習を重ねてきた。
今の照史くん みたいに。
バスケだけに集中してた日々。
毎日、隣のコートに、照史くんが居る事さえも、気付かなかった。
その甲斐あってか、1年生でスタメンを勝ち取った。
まぁ〜2、3年生が人数少なかったってのもあるけどね。
でも…初めての試合で、悲劇は起こった。
☆2☆
他校での不慣れな会場。
勝つ事だけを視野に、意気込んで挑んでいた。
向かってきた『私の手から外れそうなパス』を追い、ギリ 仲間に繋げたが…
その勢いのまま、コートの外へ放り出され、ボロい体育館の扉に激突した。
その扉は衝撃で外れ、私者共、外の崖へと落ちていった。
そのまま気を失い、目が覚めると病院だった。
その日から、私の左手の指は、上手く動かなくなった…
あんなに好きなもの、この先 存在しないんだろうな…
今でも思う。
バスケ…もっと続けたかったな〜
後から聞いた話し。
あの時、一目散に私の元へ駆けつけてくれたのは、照史くんだった。
血だらけの私を崖から救い出してくれたらしい。
私は覚えていないけど…
病院の先生に言われた。
「もう、バスケは出来ない」と。
分かってるよ…
指 動かないんだもん。
当たり前じゃん…
☆3☆
そりゃあ、泣いたさ〜
命 賭けてたから。
大げさじゃなくて、真剣に。
そんな大切な物が無くなって、何を想って生きていけばイイのかさえも、分からなかった。
しばらく休んで学校へ行くと、皆んなが心配してくれた。
〇「ありがとう!大丈夫だよ(笑)」
なんて、元気を装う日々が続いた。
ある日。
辛くて 遠ざけていた部室へ、荷物を取りに行く事にした。
部員が居ない昼休み。
ドアノブに伸ばした右手が震えていた。
桐「〇〇?どないしたん?」
〇「えッ?」
隣の部屋へ入ろうとしていた、照史くんだった。
この時、初めて知った。
隣…男バスなんだ…
私は本当にバスケにしか集中していなかったらしい。
周りが全く見えていなかったのだ。
桐「チョット、話せる?」
〇「え?、う、うん…イイけど…」
私は照史くんと一緒に、ウチの学校の広い広い校庭が見渡せる、桜並木の下の段差に腰掛けた。
☆4☆
〇「あ、そうだ!ありがとね。あの時…助けてくれたんでしょ?」
桐「…助けには ならんかったけどな…」
いつも、明るいクラスでもムードメーカーの照史くんとは、違う人みたいだった。
桐「でも、スゴイよな、〇〇は!1年でレギュラーて!」
〇「・・・だね。頑張ったからね…」
桐「俺もレギュラーなりたいんやけどな…」
〇「頑張れば、なれるよ。」
桐「簡単に言うなぁ〜他人事みたいやん。」
〇「だってもう…他人事だもん。」
皆んなの前で、あんなに頑張って『大丈夫』を演じてたのに…台無しだ…
〇「ゴメンね…」
笑おうとしたけど、笑えない。
桐「やっぱり…無理しとったんやろ?」
〇「・・・うん…」
桐「なぁ〇〇?俺が頑張ってレギュラー取れたら、俺の気持ち、伝えてもええかなぁ?」
〇「えっ?気持ち?」
桐「頑張ればさ、レギュラー取れるんやろ?」
〇「う、うん…」
桐「俺、〇〇の言葉、信じるから!」
〇「照史くん…」
☆5☆
それは、この先の未来を、どう生きていけばいいのか分からなくなっていた私に、
生きている意味を持たせてくれた程の事だった。
〇「照史くん…がんばって!!!」
桐「おんっ!任せときぃ!!!」
私は、いつも、いつも、強く願っていた。
照史くんが、レギュラーになれます様に…
でも、2年間、レギュラーの座を勝ち取る事は、出来なかった…
もうすぐ…最後の大会なのに…
最近の照史くんが、バスケ漬けなのは…
きっと、私の為。
でも、心配だった。
レギュラーになれないんじゃないか…
じゃなくて…
身体を壊すんじゃないかと。
☆6☆
ある日。
委員会で遅くなり、急いで教室を後にした。
ある建物の傍を通った時、二階の体育館に明かりが点いていて、まだ誰かが居るのが分かった。
照史くん…かな?
私は階段を駆け上がり、体育館の入り口へ向かった。
近づくと、誰かが練習をしてるであろう音が聞こえてきた。
ボールが床を打ち付ける"バンッバンッ!"という音。
ゴールへぶつかる"ガガンッ!"という音。
シューズと床が擦れる"キュッ!キュッ!"という音。
全部 私の好きな音だ…
私はその音に、少しワクワクしながら、
体育館の入り口から、そっと覗いてみた。
…え……
そっか。
だから…頑張ってたのか…
もう、2年も経ったんだ。
私との約束なんて…
いや…私の存在なんて…忘れたんだろう。
☆7☆
マネージャーらしき、どう見ても可愛い女の子から、タオルを受け取ると、汗を拭いて、またそのタオルを渡した。
笑顔で うなづき合う ふたりは、とてもお似合いだった。
女の子がカゴの中のボールを投げ渡す。
照史くんは それを受け取ると、その場からシュートをし、外れたボールをフォローする。
その繰り返し。
何度も渡されるボール…
その目に、私は映らない気がした。
蚊帳の外か…
泣きそうになり、階段を降りた。
濵「あれ?〇〇じゃん?どないしたん?」
〇「や、何でもないよ…」
濵「照史 おるで?」
〇「う、うん。知ってる。」
濵ちゃん…
なんで、照史くんの事を?
私、照史くんとは関係ないのに…
濵「練習してんの観た?照史、メッチャ頑張っとるで!」
〇「うん…頑張ってるね。」
濵「どうかしたん?元気 無いやん。」
〇「そ、そう?そんな事…」
濵「俺で良ければ…聞くで?」
濵ちゃん…優しいな…
☆8☆
思い切って、聞いてみよう!
誰かの口から聞けば、スッキリするかも知れない。
〇「あのさ…付き合ってるの?あの女の子と?」
私は体育館の方を指差して聞いた。
濵「えッ!なんでバレたん?」
〇「…だって…見れば分かるよ…」
やっぱり…
〇「お似合いだから。」
胸が…ギューッと、何かに掴まれている感覚だった。
どうして…
私の好きなもの…いつも無くなっちゃうの?
私…
なんの為に生きてるの?
それからの私は、ただ、日々をやり過ごすだけだった。
笑うことも無く…
泣くことも無く…
殻に閉じこもった。
☆9☆
流「最近、元気ないやん?」
私は、屋上のベンチでボーっとしていた。
〇「…流星くん……ほっといて欲しい…」
流「救世主が来たのに、それはないや〜ん!」
めんどくさ…
流「照史、頑張っとるな!」
〇「え…どうして?照史くんの話しするの?」
流「〇〇の為に頑張っとるんやないか〜」
〇「え、何 言ってんの?」
流「忘れたワケやないやろ?照史との約束。」
忘れるワケないよ…
あの約束は…
私の生きる道を、照らしてくれてたんだから。
〇「もう……忘れた…」
流「ホンマは?忘れてないんやろ?」
〇「だって!彼女いるじゃんッ!!!
レギュラーになったからって、何があるって言うのッ?!!!
彼女いるなら…私に伝える気持ちなんて…ないでしょ?」
私は、月日が経った事を悔やんだ。
☆10☆
あの時…
嬉しかった私の気持ちを、伝える事ができていたら…
今頃、自主練でボールを渡す役目は、私がしていたはずなのに…
もっと傍で、照史くんを支えてあげられたのに…
流「ふふっ(笑)」
えっ?えっ?笑われた?!
流「照史に言ってみなよ。〇〇の伝える気持ちは、あるんやろ?」
〇「私の…気持ち?待ってよ。振られるの分かってて、告る人いる?」
流「気持ちを、伝えるだけや。このまま閉じこもってても、進めんのやろ?」
この気持ち…
ブチまけたら、楽になるの?
分からなかった。
けど…なんか…だんだんと…
アッタマにきた!!!
だって私、2年間も待ってたのに!!!
なに この仕打ち!ヒドすぎるよ!!!
〇「分かった。言う!!!」
私は、恐らく この時間なら自主練してるであろう時間まで待った。
もう、こんな事しなくなるんだろうな…
そう思いながら、教室の照史くんの席に座って。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!