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第1話

『 心にケガ 』前半
262
2019/07/23 04:21
☆0☆





ずっと…

がむしゃらに頑張ってきた。

試合に出る事だけを目指してた。



あの日までは…







☆1☆


先生「桐山!起きろーーーッ!!!」

桐「はい!起きてます、起きてます!」


クラス中が笑いに包まれるこのやり取り。
最近 流行りになりつつある。








桐「足りひんなぁ〜購買 行ってくる〜」

流「食い過ぎや!太るで!」

桐「しゃーないやん!朝練あると、腹減るねん!流星も行く?」

流「や、屋上で寝る。」



照史くん、最近 バスケばっか。

朝練してるのに、部活終わってからも自主練してるって聞いた。


やっぱり…私の為なのかな?







2年前、私は女バスに入部した。
背が高くない私は、誰よりも練習を重ねてきた。

今の照史くん みたいに。

バスケだけに集中してた日々。
毎日、隣のコートに、照史くんが居る事さえも、気付かなかった。

その甲斐あってか、1年生でスタメンを勝ち取った。
まぁ〜2、3年生が人数少なかったってのもあるけどね。

でも…初めての試合で、悲劇は起こった。







☆2☆


他校での不慣れな会場。
勝つ事だけを視野に、意気込んで挑んでいた。

向かってきた『私の手から外れそうなパス』を追い、ギリ 仲間に繋げたが…

その勢いのまま、コートの外へ放り出され、ボロい体育館の扉に激突した。

その扉は衝撃で外れ、私者共、外の崖へと落ちていった。

そのまま気を失い、目が覚めると病院だった。

その日から、私の左手の指は、上手く動かなくなった…


あんなに好きなもの、この先 存在しないんだろうな…

今でも思う。
バスケ…もっと続けたかったな〜


後から聞いた話し。
あの時、一目散に私の元へ駆けつけてくれたのは、照史くんだった。

血だらけの私を崖から救い出してくれたらしい。

私は覚えていないけど…


病院の先生に言われた。
「もう、バスケは出来ない」と。



分かってるよ…

指 動かないんだもん。
当たり前じゃん…







☆3☆


そりゃあ、泣いたさ〜

命 賭けてたから。
大げさじゃなくて、真剣に。

そんな大切な物が無くなって、何を想って生きていけばイイのかさえも、分からなかった。

しばらく休んで学校へ行くと、皆んなが心配してくれた。



〇「ありがとう!大丈夫だよ(笑)」


なんて、元気を装う日々が続いた。



ある日。
辛くて 遠ざけていた部室へ、荷物を取りに行く事にした。

部員が居ない昼休み。

ドアノブに伸ばした右手が震えていた。



桐「〇〇?どないしたん?」

〇「えッ?」



隣の部屋へ入ろうとしていた、照史くんだった。

この時、初めて知った。
隣…男バスなんだ…

私は本当にバスケにしか集中していなかったらしい。
周りが全く見えていなかったのだ。



桐「チョット、話せる?」

〇「え?、う、うん…イイけど…」



私は照史くんと一緒に、ウチの学校の広い広い校庭が見渡せる、桜並木の下の段差に腰掛けた。






☆4☆


〇「あ、そうだ!ありがとね。あの時…助けてくれたんでしょ?」

桐「…助けには ならんかったけどな…」


いつも、明るいクラスでもムードメーカーの照史くんとは、違う人みたいだった。


桐「でも、スゴイよな、〇〇は!1年でレギュラーて!」

〇「・・・だね。頑張ったからね…」

桐「俺もレギュラーなりたいんやけどな…」

〇「頑張れば、なれるよ。」

桐「簡単に言うなぁ〜他人事みたいやん。」

〇「だってもう…他人事だもん。」


皆んなの前で、あんなに頑張って『大丈夫』を演じてたのに…台無しだ…


〇「ゴメンね…」


笑おうとしたけど、笑えない。


桐「やっぱり…無理しとったんやろ?」

〇「・・・うん…」

桐「なぁ〇〇?俺が頑張ってレギュラー取れたら、俺の気持ち、伝えてもええかなぁ?」

〇「えっ?気持ち?」

桐「頑張ればさ、レギュラー取れるんやろ?」

〇「う、うん…」

桐「俺、〇〇の言葉、信じるから!」

〇「照史くん…」







☆5☆


それは、この先の未来を、どう生きていけばいいのか分からなくなっていた私に、

生きている意味を持たせてくれた程の事だった。


〇「照史くん…がんばって!!!」

桐「おんっ!任せときぃ!!!」


私は、いつも、いつも、強く願っていた。



照史くんが、レギュラーになれます様に…



でも、2年間、レギュラーの座を勝ち取る事は、出来なかった…

もうすぐ…最後の大会なのに…



最近の照史くんが、バスケ漬けなのは…
きっと、私の為。

でも、心配だった。

レギュラーになれないんじゃないか…

じゃなくて…
身体を壊すんじゃないかと。






☆6☆


ある日。
委員会で遅くなり、急いで教室を後にした。

ある建物の傍を通った時、二階の体育館に明かりが点いていて、まだ誰かが居るのが分かった。

照史くん…かな?

私は階段を駆け上がり、体育館の入り口へ向かった。

近づくと、誰かが練習をしてるであろう音が聞こえてきた。

ボールが床を打ち付ける"バンッバンッ!"という音。

ゴールへぶつかる"ガガンッ!"という音。

シューズと床が擦れる"キュッ!キュッ!"という音。

全部 私の好きな音だ…

私はその音に、少しワクワクしながら、
体育館の入り口から、そっと覗いてみた。


…え……

そっか。
だから…頑張ってたのか…

もう、2年も経ったんだ。
私との約束なんて…
いや…私の存在なんて…忘れたんだろう。






☆7☆


マネージャーらしき、どう見ても可愛い女の子から、タオルを受け取ると、汗を拭いて、またそのタオルを渡した。

笑顔で うなづき合う ふたりは、とてもお似合いだった。

女の子がカゴの中のボールを投げ渡す。

照史くんは それを受け取ると、その場からシュートをし、外れたボールをフォローする。

その繰り返し。


何度も渡されるボール…

その目に、私は映らない気がした。


蚊帳の外か…


泣きそうになり、階段を降りた。


濵「あれ?〇〇じゃん?どないしたん?」

〇「や、何でもないよ…」

濵「照史 おるで?」

〇「う、うん。知ってる。」


濵ちゃん…
なんで、照史くんの事を?
私、照史くんとは関係ないのに…


濵「練習してんの観た?照史、メッチャ頑張っとるで!」

〇「うん…頑張ってるね。」

濵「どうかしたん?元気 無いやん。」

〇「そ、そう?そんな事…」

濵「俺で良ければ…聞くで?」


濵ちゃん…優しいな…







☆8☆


思い切って、聞いてみよう!
誰かの口から聞けば、スッキリするかも知れない。


〇「あのさ…付き合ってるの?あの女の子と?」


私は体育館の方を指差して聞いた。


濵「えッ!なんでバレたん?」

〇「…だって…見れば分かるよ…」


やっぱり…


〇「お似合いだから。」


胸が…ギューッと、何かに掴まれている感覚だった。



どうして…

私の好きなもの…いつも無くなっちゃうの?


私…

なんの為に生きてるの?






それからの私は、ただ、日々をやり過ごすだけだった。

笑うことも無く…
泣くことも無く…

殻に閉じこもった。






☆9☆


流「最近、元気ないやん?」


私は、屋上のベンチでボーっとしていた。


〇「…流星くん……ほっといて欲しい…」

流「救世主が来たのに、それはないや〜ん!」


めんどくさ…


流「照史、頑張っとるな!」

〇「え…どうして?照史くんの話しするの?」

流「〇〇の為に頑張っとるんやないか〜」

〇「え、何 言ってんの?」

流「忘れたワケやないやろ?照史との約束。」


忘れるワケないよ…

あの約束は…
私の生きる道を、照らしてくれてたんだから。


〇「もう……忘れた…」

流「ホンマは?忘れてないんやろ?」

〇「だって!彼女いるじゃんッ!!!
  レギュラーになったからって、何があるって言うのッ?!!!
  彼女いるなら…私に伝える気持ちなんて…ないでしょ?」


私は、月日が経った事を悔やんだ。







☆10☆


あの時…
嬉しかった私の気持ちを、伝える事ができていたら…
今頃、自主練でボールを渡す役目は、私がしていたはずなのに…

もっと傍で、照史くんを支えてあげられたのに…


流「ふふっ(笑)」


えっ?えっ?笑われた?!


流「照史に言ってみなよ。〇〇の伝える気持ちは、あるんやろ?」

〇「私の…気持ち?待ってよ。振られるの分かってて、告る人いる?」

流「気持ちを、伝えるだけや。このまま閉じこもってても、進めんのやろ?」


この気持ち…
ブチまけたら、楽になるの?

分からなかった。

けど…なんか…だんだんと…




アッタマにきた!!!



だって私、2年間も待ってたのに!!!
なに この仕打ち!ヒドすぎるよ!!!


〇「分かった。言う!!!」


私は、恐らく この時間なら自主練してるであろう時間まで待った。


もう、こんな事しなくなるんだろうな…

そう思いながら、教室の照史くんの席に座って。




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