第4話

プロローグ-4
1,828
2022/03/29 09:00
店員
お待たせ致しました。こちら『鎌倉野菜の前菜盛り合わせ』でございます
橘詩織
橘詩織
わあ……!
 私は、目の前に置かれた料理に、思わず感嘆の声を上げた。
 平皿に、センスよく何種類かの料理が盛られている。
 紅芯大根、紫人参などの珍しい野菜を使ったバーニャカウダ。
 ほうれん草のニョッキにはたっぷりとソースが絡んでいて、ホカホカと湯気を上げている。
 それと──。
橘詩織
橘詩織
これが、西洋たんぽぽの葉ですか? 初めて食べました
店員
ヨーロッパでは春の味として親しまれているそうですよ
橘詩織
橘詩織
へえ……! 鯛のお刺身と合いますね
 ピリッとした辛味を持つ西洋たんぽぽの葉は、淡白な鯛のお刺身にいいアクセントを与えてくれている。
 鯛の身もぷりぷりとしていて味が濃く、まさに春の味といった感じで、とても美味しい。
橘詩織
橘詩織
(なんだ、ただの穴場の店だったのか)
 どうやら私の心配は杞憂きゆうだったらしい。
 予想外の味に、途端にご機嫌になった私は、ウキウキでグラスワインを注文した。
 きょうされた葡萄色の液体に目を細めて、ぐいと呷る。
 ヘルシーな鎌倉野菜。
 それに、ライトボディの赤ワインはぴったりで──ついついお酒が進んでしまった。
橘詩織
橘詩織
おかわり!
店員
……お客様。大丈夫ですか?
橘詩織
橘詩織
ら、らいじょうぶです~
 店員さんの心配そうな視線を受けながら、ご機嫌で空になったグラスを眺める。
 一日歩き回ってくたびれていたこともあり、気がつくと随分と酔っ払っていた。
 自然と口も軽くなり、思わず溜まっていたものを吐き出してしまう。
橘詩織
橘詩織
私だって、好きでひとりで鎌倉にきたんじゃないですよ。『おひとりさま』は別に嫌いじゃないですけどね~。
アイツが、いつか一緒に行こうねって言ってたから
店員
おかわり、どうぞ
橘詩織
橘詩織
ありがとうございます! んぐ……っ! ぷはー! それなのにあの男! 同棲していた部屋に、女を連れ込んでたんです。
私の部屋着を、浮気相手に使わせてたんです。
一緒に選んで買ったベッドで……っ! ああ、ちくしょう!
店員
大変でしたね……
橘詩織
橘詩織
大変でしたよ!!
 自分の他に誰もいないのも手伝って、愚痴が止まらない。
 頭の片隅では、止めた方がいいとはわかっているのだけれど、吐き出さずにはいられなかった。
 ここ鎌倉に、私がきたのには理由があった。

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