第9話

プロローグ-9
1,130
2022/05/03 09:00
 青藍さんによると、どうも、あやかしと人間の間のトラブルを解決することを生業にしている人たちがいるらしい。
 彼らは「祓い屋」と呼ばれ、古くから対あやかしのトラブル解決に一役買ってきた。
 問題を起こすあやかしは、同種からも煙たがられていたから、祓い屋の存在自体は受け入れられていたようだ。
 しかしここ近年、祓い屋の中に、無差別にあやかしを殺める者が現れたらしい。
青藍
アタシたちを殺したって、人間社会じゃあお咎めなしだからね。
面白半分でそういうことをする奴がいるのよ。
困ったことに、まだ捕まってない。
でも、ソイツが『よそ者』だってことはわかっている──だから、危ないって言ってるの
 その祓い屋に間違われて、あやかしたちに追いかけられたり、齧られたりしないといいわね、と青藍さんは笑っている。
 さあっと血の気が引いていく。
 これって、たとえ無事に鎌倉から出られたとしても、どこかであやかしに遭遇でもしたら──命が危ないってことじゃないか。
橘詩織
橘詩織
つ、詰んだ……?
 彼氏に捨てられたばっかりでこの仕打ち!?
 と、ひとり絶望感に包まれていると、突然、青藍さんがポンと手を打った。
青藍
いいこと思いついたわ! アンタがあやかしに襲われないように、ボディーガードを貸してあげましょうか
橘詩織
橘詩織
いいんですか!?
 思わず、興奮して身を乗り出す。
 すると、青藍さんはニコニコと笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い出した。
青藍
そのかわり、この店で働くの
橘詩織
橘詩織
へっ……!?
青藍
住む場所も用意してあげるわ。
職も家もないんでしょ? ちょうどいいわ!
 待って、と静止してみても、青藍さんは聞く耳を持ってくれない。
 私の意思とは関係なく、トントン拍子で話が進んで行く。
青藍
給料はこれくらいでどう? 安心して、うちの福利厚生はしっかりしているから。
有給も、まかないもつく。
このご時世、いい条件だと思うのだけど?
橘詩織
橘詩織
確かに
 思わぬ好条件に、うっかり了承しそうになる……が、青藍さんの背後にひしめくあやかしたちを見て、言葉を飲み込んだ。
 おどろおどろしい彼らがいるこの場所で、私は上手くやっていけるだろうか。
 正直なところ、不安しかない。
 すると、そんな私を見かねたのか、おもむろに店員さんが口を開いた。
店員
急な話だからね、慎重に考えるべきだとは思うけど……。
でも、もし君が働くことになったら、精一杯手助けさせて貰うよ
 イケメンが浮かべた笑顔。
 それは落ち武者やら、骨やら野生動物の犇めく店内にあって、まるで太陽の光のようだった。

プリ小説オーディオドラマ