第9話

第一章(4)
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2021/08/10 09:00
魔女の戦い──
古来より、魔女たちのその魔法の力は戦を起こしたり、戦の引き金になったり、あるいは戦に巻き込まれる原因となっていた。
魔女と魔呪盛装は大いなる力の象徴。
だが同時に、きらびやかな美しさと、輝ける富の象徴でもあった。
そこから生まれたのが、娯楽として魔女たちを戦わせ観戦するショービジネスの一種『魔女の戦い』だ。
観客たちは美しい魔呪盛装を纏った麗しい魔女たちが歌うがごとく呪文を唱えるのを、舞うがごとく魔法の動作を行うのを、そして華やかなる魔法のぶつかり合いを楽しむ。
いにしえの大帝国でも大々的に行われていたというこの戦いは、規模の大小はあれど今や世界中どこでも見ることができる娯楽だ。
魔呪盛装や仕立ての技術そのものは、世界各地に存在する。それこそ衣服を纏う文化圏ならどこにでも。国や地域ごとにその技術やデザインは異なる。例えば、インドにはサリーという細長い布を巻きつける伝統的なドレスがある。チャイナでは受け継がれてきたデザインにヨーロッパのデザインを取り入れ、チーパオと呼ばれるドレスを作り出した。
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
この学園で行われるのは、世間で広くに行われているものと同じ、見せる目的……芸術としての『魔女の戦い』だったな
ソウジロウの呟きに、クロエも応える。
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
そうだよ。この学園のルールは魔女が倒れて何秒か起き上がれなければ、あるいは魔法が使えないほどにドレスが破損したり、場外も敗北扱いってやつだね
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
とはいえ、二学年になればたしかダンジョンでの実戦もあったはず……おっと、もう始まりそうだな
上級生
それでは新入学生諸君に、これよりぶつかり合うことになる二人の魔女をご紹介しよう!
上級生のそんな台詞が響きわたると、ステージに上がっていたドレス姿の女子学生たちが一人ずつゆっくりと退場していく。
ステージ上に残ったのは、向かい合う二人の女子学生。いや……若き魔女。
西側には豪奢なピンクのローブ・ア・ラ・フランセーズを纏い、明るい紅茶色の髪には、大きなリボンと造花をこれでもかとばかりに飾りつけた魔女。
ドレスは外側のローブが花模様が浮き出たピンクで、中には雪のようなきらめく純白。リボンとレースが飾られた白い胸元は、元々豊かなのかそれともうまく詰め物をしているのか、こぼれ落ちそうなほどに盛り上がっている。
左右に広がった裾は、ウエストがほっそりとしているだけに、より大きく優美に広がっているように見えた。
白い手袋に覆われた細い指先でつまむのは、白レースの扇だ。そこに取りつけられた薄紫の紐は蛇のように腕に絡みつき、房飾りが下がっていた。
東側には、落ち着いた紫色と生成り色のレースでできたバッスル・スタイルのドレスを纏い、つやのある濃い茶色の髪を結い上げ、ドレスと同じ紫色の帽子をちょこんと載せた魔女。
バッスルのドレスは、正面から見ればほっそりとしたラインにも見えるのだが、後ろ──腰の部分がぽこりと大きく盛り上がっているのだ。そしてその盛り上がった腰の部分は、スカートの布を幾重にも折りたたんでひだを作り、その上に大きなリボンの装飾を施してある。
首元から手首まで、きっちりとドレスに覆われて、長い裾からは茶色の革ブーツのつま先がほんのわずかにのぞく。
そして、手袋をしたその手が持つのは日傘だ。今は閉じている状態だが、小花の散った生成り色の可憐な日傘のようだった。
紹介された二人の魔女は、観客である学園生たちにそれぞれの方法で一礼すると、再び向かい合う。
上級生
……では
上級生代表の学生は、もったいつけたような咳払いをひとつしてから。
上級生
はじめ‼
その戦いの始まりを宣言した。

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