会場のあちこちから苦笑いがあがる。どうやら、睡魔と戦っていたのはクロエだけというわけでもないようだ。
入学試験を受ける前に知らされていることだとはいえ、新入学生たちに緊張が走る。
もちろん、クロエもだ。
……クロエは、ちらりと仕立て師志望の新入学生たちが座っているあたりを見る。
その八割ほどはグレーのスーツを纏った男子学生だが、残りは白エプロンをつけた女子学生だ。
女しか魔女になれないのは常識だが、仕立て師は男の方が適していると言われ、昔は法で男だけがなれることを定められた国もあったという。
……一体、どこからやってきたどんな子がパートナーなのだろう。そして、きちんと仲良くなれるだろうか。それに一番大事なことがある、その子は……どんなドレスをクロエに作ってくれるのだろうか。
……もう細かい前置きとかどうでもいいので、自分のパートナーが誰なのか早く教えてほしい!
そんなそわそわした空気が、新入学生の間に流れ始めた頃、それは告げられた。
ユミス学園長が何か紙を取り出して名前を読み上げる。
当たり前のことだが、席次が高いのは成績優秀者だ。このアルストロメリア学園で成績がトップクラスということは、それすなわち世界でもトップクラスの仕立て師志望生と魔女志望生ということになる。とても名誉なことであった。
あらかじめ知らされていたことだとはいえ、本当に呼ばれてしまった。
クロエは周囲の新入学生たちの羨望の視線を浴びながら、懸命に手足を動かして照明がまぶしい壇上へと向かう。
──薄暗い中でもつやがあるとわかる薄緑色のおさげ髪が揺れ、猫の目を思わせる形の緑眼がいかにも意志の強そうな光を宿している。それに、この年頃の少女には少し高めの身長。そして制服の裾から伸びる足はすらりと長く、しなやか。
そんなクロエの姿は、明らかに学生たちの注目を集めていた。
壇上には、すでに六組のペアがいた。
そして、グレーの男子制服を纏った小柄で細身の──麗しい少女と見紛うほど美しい少年が、じっとクロエを見つめている。
……この綺麗な子が、私の、パートナー。
彼が唇を開くと、そこから紡ぎ出されたのは思っていたよりは低めの声。
クロエは薄緑色の三つ編みを揺らして小首を傾げながら、歯を見せてにかっと笑った。
魔女志望生クロエ・ノイライ。
仕立て師志望生ソウジロウ・ヒノ。
これが、彼らの出会いの時であった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。