第6話

第一章
605
2021/07/20 09:00
入学式が終わり、席次十位より下の学生たちすべてのペア決めが書かれた長い長い紙が貼り出された。
他の学生たちはその紙の前に群がっている。だが、ペアがすでに発表されている席次第七位のクロエは手持ち無沙汰にぼんやりと、先程知り合ったばかりのパートナーであるソウジロウ・ヒノの姿を眺めていた。
男子にしては小柄な体格。身長はたぶんクロエとそう変わらないか、少し低いぐらいだろう。
首の後ろで、綺麗な飾り紐でくくられた黒い髪はつやがあり、黒い瞳はぱっちりとしていて、長いまつげに彩られている。鼻は少しばかり低いけど小さくて整っているし、肌もいかにもなめらかできめ細かそうだ。
しかし、それより何よりも大事なことがある──彼は、どう見ても東洋系だし、留学生だ。
挨拶はうまくできたが……ちゃんと言葉は通じるのだろうか。
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
ねぇ
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
……何か、用でもあるのか。クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
用というか、私の言葉は通じてる? ちょっと気になって
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
問題ないはずだ。日常会話、それに俺の専門──仕立てに関する言葉ならな
片眉をくいっと上げたソウジロウ・ヒノの小さな唇から紡ぎ出されるのは、意外となめらかな本場式発音の英語。
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
英語以外はどうかしら?
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
英語の他には、フランス語を少し家庭教師に習った。こちらの──アトランティスでよく使われる言語はそのあたりだと言われたものでな
クロエ・ノイライ
クロエ・ノイライ
あぁ、なら大丈夫ね! 私も話せるのは主にフランス語と英語、それに、挨拶ぐらいの簡単な言葉ならスペイン語とかイタリア語が入るってところだもの。ねぇ、ソウジロウは留学生よね、お国はどこ?
緋野蒼司郎
緋野蒼司郎
あぁ、スメラミクニから来た
……たしか、東の果て、絹の道の終着点のそのまた向こうにあるというところだ。
ほんの数十年前まではほとんど他の国と関わりを持たず、閉じていたという謎多き国。
ヨーロッパではそのスメラミクニの芸術などがエキゾチックだともてはやされて、ドレスの流行にも影響を与えたとか──
しかし、大丈夫だろうか──ほんの数十年前まで他の国との交流を持たなかった国から来たなんて。さすがにその国にも独自の魔呪盛装ぐらいはあるだろう。だが、伝統の衣服のデザインはヨーロッパとまったく違う様式であるという話だ。
──彼は、まともに魔呪盛装が作れるのだろうか?

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