久々に7人そろった夜ごはん。
でも、なんか見えない壁があるみたいで、
なんというか、よそよそしいというか、気を遣いすぎというか。
なんやろう、この嫌な空気。
どうしたらええんやろう。
延々そんなこと考えていたら、淳太君のスマホが鳴り響いてハッと顔を上げた。
本人は電話に気付かないほどうわの空で、そう言うと慌てて電話に出た。
少し離れた所で電話に出た淳太君は、だんだんと顔を上げていく。
小声でしゃべっていたしげも照史も黙って、みんなが淳太君の方を見た。
淳太君は電話を切ると、「ふぅ」っとため息をついて、その後少し笑って僕らを見た。
一瞬しんとなって、
照史の耳をつんざくような声が響く。
喜ぶ照史と望も、よっしゃって拳握っていたしげも、周りのあまりの静けさに笑顔が消えた。
笑交じりの声に、神ちゃんの、「分かってるよ」って低い声が響く。
流星にかぶるように言った淳太君は、右手で前髪をぐしゃっとおさえた。
神ちゃんの名前が出て、今度は神ちゃんの方に視線が行く。
そう低い声で言った神ちゃんは、言い終えて頭を掻きながら深いため息をついた。
頭を下げた神ちゃんは、顔を上げて淳太君をまっすぐ見た。
涙を一筋流して、もう一度、ごめん、と頭を下げていった神ちゃんの言葉は、紛れもなく、俺らが聞こうとしなかった神ちゃんの本音。
そんな神ちゃんに、珍しく泣きじゃくって謝る淳太君に、見ている俺らまで泣きそうになる。
ふいに響いた声に、淳太君も顔を上げた。
しんどいのか、背もたれに深く腰掛けたしげが、目を潤ませて、でも柔らかく笑った。
ふわっと笑ったしげは、目を閉じて、しんどそうに俯いた。
でも、嬉しそうに口元をゆるませて、
なんて呟いている。
そんなしげの額に手を当てた照史は、「すごい熱」って心配そうになる。
「照史君の手冷たい」って笑ったしげがふせた目から、涙が零れ落ちた。
人一倍敏感で、俺らの気まずい空気を今までなんども勘付いてきたしげは、
こんな時でも笑わせようとする。
素なのか、それともそうじゃないのか、もう俺にもわからへん時もあるけど、
こいつは、俺らが笑ってるのが1番の幸せ。
それだけは分かる。
しげと照史のやり取りに、神ちゃんも流星も、みんな笑顔になって、
久しぶりに、元の7人に戻った気がした。
やっぱり、これがいい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。