第4話

チャプター4
42
2022/08/18 12:47
 自身の義手を見つめるめぐり。



「そして、私の左腕にはもう1つ能力がある」

 ここからが本題とでも言うように、めぐりは言葉を紡ぎ始める。

「私がこの義手で触れた者の記憶を“消去”することもできるのよ」

 記憶の消去。読み取るだけではなく、消しさることもできる力。使いようによっては、癒やしにも、攻撃にも使う事ができる能力は、めぐりにとって切り札とでも言うべき能力だった。

「ともかく、私がこの義手であなたに触れれば、あなたの犯した罪自体は消えなくても、あなたを苦しめている記憶やトラウマをあなたの心から“消去”して、精神的な苦痛を取り除いてあげることができるわ」

「記憶の消去……そんなこと、できるわけが……」

「あら、超スピードはできるのなら、記憶の消去ができない道理はないと思うけれど?」

「…………」

「さぁ、勝負のルールを確認しましょうか。あなたが、私が落ちるより早く私の所に辿り着いたら私の勝ち。そして私が義手であなたに触れれば、あなたと、そして私の勝ち」

 自分と少女を交互に指差しながら、不敵な笑みを浮かべるめぐり。

「どう? 面白いルールでしょう?」

「な、なによその変なルール……」

「そう? 自信あったのだけれど」

「……ていうか、さっきの男の子が言ってたように、私が嘘をついていたらどうするの? 大体、私があなたを必ず助けると決まったわけじゃ――」

 ニヤリとめぐりが笑った。そして、



 トンッ! っと軽やかに地面を蹴る音。

 次の瞬間、めぐりは横方向にスライドするように、軽くジャンプしながら屋上の“外”に出た。



「危ないッ!!」



 おさげ少女が絶叫する。



 どれくらい時間が経ったのか。宙ぶらりんになっためぐりが我に返り、ゆっくりと上を見た。

 すると、そこには必死の表情で自分の右腕を両手で掴む、おさげ少女の姿が有った。



「すごい……!!あなた、本当に“超速移動”ができるのね!」

「い……今はそんなこと言ってる場合じゃない!!早くどこかに足をつけるか、もう片方の腕でどこかに掴まって!私の力だけじゃ、もう支えきれない!!」



「無理よ。ここまできたら二人ともどうせ手遅れよ?」



「え?」



「二人で一緒に墜ちていきましょう?」



 そう言いながら、自分の左の義手を伸ばし、おさげ少女の腕に軽く触れた。

 その瞬間。



 キィィ……ンンン……!



 二人の頭の中か、それとも心の中で、不思議な音が反射して響き渡った。



「うっ……!!」



「あっあれ……?ここどこ……なんで私、ここに……?」



 突然、不思議そうな顔をして周囲を見渡すおさげ少女。

 しかしやがて、自らの両腕が感じる人一人分の猛烈な質量に気付く。



「えっなにこれ……ってうわああああああああああああああああ!!!」



 おさげ少女はめぐりの腕を掴んだまま完全にバランスを崩し、絶叫しながら落下していった。

 めぐりは目を見開きながらも、相変わらず不敵な笑みを浮かべおさげ少女を見つめたまま、共に落ちていく。



 バスンッ!!

 ボスンッ!!



 少女二人は、「なぜか」そこに設置されていた陸上競技に使う緑色の分厚いマットの上に落ちた。



 そしてそのすぐ傍では、完全に体力を使い果たした真がマットを掴んだまま突っ伏していた。



「ぜぇえええ~……!!ぜえええ~!!ま……間に合った……!!」

 めぐりがむくりと起き上がり、少し優しそうな口調でマットの上から声をかける。

「ご苦労様。ちゃんと“指示”通り動いてくれたようね。」

 なぜこの小柄な美少年が、隻腕の美少女めぐりの考えている事が理解できているかのように行動することが出来たのか。なぜ、二人が屋上から落下する事が彼には前もって読めていたのか。
 その謎を解くには、最後にめぐりと真が別れた、あの屋上のシーンを思い出すのが良いだろう。あの時、めぐりは真を追い払うかのごとくその左腕の義手を使い彼の頭を折檻していた……かに見えて!実は傍目には分からぬよう、彼だけにメッセージを送っていたのだ!

 めぐりの義手に秘められた、件の、“サイコメトリー”を使って……

「あ……ああ。お前がかなり人使いの荒い奴だってことが、よ~く分かったよ。」

「あら、そんなことないのだけれど」

「いやいや……陸上マットを一人で運んでこいなんて、引越し業者並の重労働だぞ……!」

「よかったわね。少なくとも引越し業者で働けそうで。将来安泰」

「どこがだ!」

「う、うう~ん……」

 おさげ少女はめぐりの隣で体をくの字に曲げ、眼鏡をどこかに吹っ飛ばし、苦悶の表情を浮かべたまま気を失っているが、特に目立ったダメージは無いようだった。

「私としては、あなたが私の指示した通り「私の」真下にこのマットを設置してくれるかどうか、そこだけが賭けだった。もしあなたが無難にこの子の真下にマットを敷いていたなら、今頃は二人とも死んでいたでしょう。でも、そこはちゃんと私の指示を聞いてくれた。あなた、見かけによらずなかなか使えるわね。」

「……そりゃどーも。褒めるついでにひとつ聞かせてくれ。」

「何?」

「なんでこいつが妄想じゃなくて本当に超スピード能力が有るって分かった?こいつが能力を使ったのは、お前が飛び降りた直後なんだろ?」

 それを聞いためぐりは、悲しそうにはああ~っと大きなため息をつく。

「前言撤回。あなた、それ本気で言ってるの?」

「なっ……なんだよ」

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