言い終わる前に、去って行ってしまった善逸。
……何で、冨岡先輩?
1つ、頭の中に疑問符が浮かぶ。
色々と考えていると、
噂をすれば何とやら。
冨岡先輩が、私の教室まで来ていた。
……昼食のことだろうか。
潔くOKを出すと「行くぞ」とだけ言ってスタスタと食堂の方へ歩いて行ってしまった。
とりあえず私も後を追うことにした。
* * * *
あの表情筋が死滅しているという事で有名な冨岡先輩が、鮭大根を食べるとたちまち顔がムフフになっていくのだ。(?)
それはもう驚いた。
冨岡先輩って、こんな顔できるんだなぁって。
……何だろうな。
実弥に別れを告げられて、アレだけ泣いて。
やっと落ち着いてきたのに、こうしてまた人の温かさに触れて。
駄目だ、駄目だとは……分かっていても。
勝手に、涙が出てきてしまう。
何やってんだ、私。
ここ、食堂でしょ。
人が沢山いるんだ、こんな所で泣いてちゃッッ……。
あぁ、優しいなぁ。
優しくされた分だけ、あの頃の……実弥の彼女“だった”時の思い出が、嫌という程に蘇る。
嫌だ、嫌だ……。
なんで。実弥、何でッッ……。
あぁ駄目だ。いつもいつもそうだ。
ずっとずっと……実弥を頼って、甘えて。
こういう所が、きっと……実弥に嫌われたんだ。
直ぐに逃げ腰になる、こういう所が。
……きっと。
何で、何で優しくするのかなぁ。
優しくしないで。
お願いだから。
思い出して、しまうから。
……だから、
* * * *
楽しそうに、あいつが冨岡と食堂で駄弁ってる。
……なァ、そいつと居て、お前は……楽しいのか。
俺の事なんか、もう、どうでもいいのか。
……なァ、あなたッッ…。
ポタリ。
堪えきれなくなった、一滴の涙が。
1つ、また1つと……地面に吸収されていって。
……俺は静かに、その場を去った。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!