教室の席に着き、1人。
私は……考え事をしていた。
朝に見た、夢の事で。
──…あなたッッ……!!
夢の中で私のことを呼ぶ誰か。
その声には聞き覚えがあった…のだが、如何せん誰なのか思い出せない。
その人物は、中学男子の制服のようなものに、白い羽織を羽織っていた。
手には……刀。
今の時代じゃあ考えられない服装に、刀。
……妙な既視感。
ただの夢では無いことだけは確かで。
思い出そうとすると、頭痛がした。
頭が割れるように痛い。
…机に肘を着いて、頭を抱えながら唸っていると。
ガララッ
という音が教室に響き、誰かが入って来た。
何故か、歯切れの悪い話し方をする善逸に「どうしたの?」と問えば。
目を泳がせながら、恐る恐ると言った感じで善逸が口を開く。
その瞬間、善逸の言葉を遮るように「夜風!」という声が教室に響いた。
言葉足らずは相変わらずのようで。
冨岡先輩の手元には、昨日なくしてしまった私のハンカチ。
……つまり冨岡先輩は、なくした私のハンカチを届けに来てくれた、という事だ。
相も変わらずの死んだ目で、此方を見つめながらそう言っては静かに去っていく先輩。
その後ろ姿を見送る。
……ふと、善逸が何かを言いかけていたのを思い出して話し掛けようとすれば、いい所でチャイムが鳴ってしまった。
とりあえず私は席に着いて、善逸には後で聞き直してみることにした。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!